庭にテントを張った時、
朝倉の姉御が書いた教習所での奇妙な体験に触発されて書きました。ノンフィクションです。
諸兄はテントで寝た事があるか。
稲村某は何度か寝た事がある。大抵は自ら望んで出向き、夏などの暖かい時期にだが、一度だけ仕方無くテントで一夜を明かした事がある。
あれは随分と昔の事。
寒い晩秋の夜。友人に連れ出されて近所の公園で夜中まで話をしていたのだが、携帯とタバコ以外を全て実家に忘れて締め出されてしまったのだが、扉を叩こうと何をしようと家族が起きなかった。
仕方が無い、今夜は庭にテントを出して寝よう。
幸いにもテントだけは屋外のバイク用具入れに放り込んであった。やむを得ず取り出して広げ、一先ず他人の目から我が身を隠す事だけは出来る。そう思い中に入ると不思議な安心感を得られた。
けれど、夜は未だに明けはしない。
その後、暫しの時を経て眠くなるかと期待したのだが、眼が冴えて眠れはしなかった。芝生を渡る風の音、庭木を揺らす風の音。色々な音に混じって、
……さく、さく、さく、
芝生を踏み締める、何かの足音が鳴り響く。それは小さな音なのに、誰が聞いても足音だと判る。そんな足音が、次第にテントへと近付いて来る。
……さく、さく、さく、
足音はテントの出入口まで到達した。稲村某は一定のリズムから慎重に歩を進める猫の足音を想像していたが、その足音は何故か躊躇する事なく出入口の直前までやって来て、その音に聞き耳を立てていると……
……さく、さく、さく、
ぞわ、と背筋が凍るような恐怖を感じた。
何故ならば、その足音は出入口で留まらず、テントの中を通り抜けて行くように感じたのだから。
テントの下には薄い敷き布が張られていたのだが、奇妙な足音は変わらず芝生を踏み締める音を鳴らしながら、稲村某が横になっていたすぐそばを通過し、何事も無かったように背後へと抜けて、静かに消えていった。
あの音は、一体何だったのか。ただ、これだけは断言できる。
その夜は、明け方まで一睡も出来ぬまま一夜を過ごしたのだ。絶対に寝てはいないし、夢を見た訳でもなかったのだ。
今でも何だったのか、判りません。
……は、さておき!! いつもは全然違うスタイリッシュアクションの悪業淫女ってのを書いています。こちら↓も是非御一読!!