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調整ミス

作者: 京本葉一
掲載日:2019/10/17

 宴会の旗手、酒田さんは、本日もいい仕事をした。

 三次会まで盛り上げた彼は、ひとり、千鳥足で夜道を歩く。

 そろそろ風も冷たいが、アルコールがまわった身体には心地よい。


「おれは強いよ? おうちに入れなくたって、泣いたりはしないよ?」


 気分は良いが、足は自然と家路から外れた。

 ふらりふらりと公園にはいる。

 ベンチに向かって歩いていたが、足がもつれて途中でこけた。


「平気ですけど? ぜんぜん大丈夫ですけどなにか?」


 横に倒れたまま、一人でずっと笑っている酒田さんであったが、ふと気づくと、大きなスニーカーとジャージの裾がみえた。


「おっさん、ほんまに大丈夫かいな?」

「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ、橋本くん」


 ここにはいない後輩に呼びかける酒田さん。彼が伸ばした腕を、大きな手がつかんだ。助けおこされた酒田さんは、相手が橋本くんでないことに気づいた。


「あれ? どこのどなたでしょうか?」

「通りすがりのもんですわ」

「おぉ、どこのどなたかは存じませんが、ご親切に……あれえ? なんか大きくない? 俺、立ってるよね? 身長すごくない? どれくらいあるの?」

「三メートルちょうどやね」


 笑いつづける酒田さんは、見ず知らずの大きな人にベンチまで運んでもらい、そこに座った。


「おっさん、一人暮らしか?」

「いんや、奥さんと、小学生の息子がおりますよ~」

「子どもまでおんのに、こんなに酔っぱらってまうまで飲んだんかいな」

「心配無用。家族サービスはばっちり」

「ぜったい嘘やん」

「ほんとほんと。この前の休みも、奥さんは外で遊ばせて、息子とはゲームで対戦したから」

「ゲーム?」

「格闘ゲームな。それで俺がサムライキャラで勝ったとき、斬り捨てごめん、っていう台詞を口にしたら、ぜんぜん通じないわけよ」

「アホなんか?」

「いやアホではないよ? 俺の息子よ? それで息子に話を聞いてみたら、言葉自体は聞いたことはあると。どうやら、ちょっと優しすぎる子に育ったみたいでな」

「どういうことや?」

「ん? ああ、なんか四捨五入するときに、切り捨ててごめん、みたいな意味だと思ってたらしい」

「……死者誤入?」

「説明するのに時代劇を観ることになったら、なんかツボにはまったみたいで」

「いや死者誤入て、どこに? どこに切って捨てたん?」

「どういう影響を受けたのか、粉骨砕身を、拷問の一種と勘違いしてたわけよ」

「ちょっと怖いて。えぇ、違うやん。聞いてた話とだいぶ違うやん」

「ん? なにが?」

「ちょっといっぺん戻るわ。いま迎えを呼んだんやけど、あんまり驚かんでな」


 突如まばゆい光に照らされて、酒田さんは目を閉じた。

 ふたたび目を開けたとき、となりに座っていたはずの、大きすぎる人の姿はなかった。


 公園で一夜を過ごした酒田さんは、翌朝、家に帰った。風邪をひくこともなく、妙な体験をした記憶もなく、近くでUFOの目撃情報があったというニュースに興奮する息子をみて、

「宇宙人なんているわけないけど、まあ、夢を壊すのもあれだからな」

 と、心のうちを思いっきり口に出して、奥さんに後頭部を叩かれていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 会話劇が面白いです。「ぜったい嘘やん」で笑いました。
2019/10/18 00:02 退会済み
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