調整ミス
宴会の旗手、酒田さんは、本日もいい仕事をした。
三次会まで盛り上げた彼は、ひとり、千鳥足で夜道を歩く。
そろそろ風も冷たいが、アルコールがまわった身体には心地よい。
「おれは強いよ? おうちに入れなくたって、泣いたりはしないよ?」
気分は良いが、足は自然と家路から外れた。
ふらりふらりと公園にはいる。
ベンチに向かって歩いていたが、足がもつれて途中でこけた。
「平気ですけど? ぜんぜん大丈夫ですけどなにか?」
横に倒れたまま、一人でずっと笑っている酒田さんであったが、ふと気づくと、大きなスニーカーとジャージの裾がみえた。
「おっさん、ほんまに大丈夫かいな?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ、橋本くん」
ここにはいない後輩に呼びかける酒田さん。彼が伸ばした腕を、大きな手がつかんだ。助けおこされた酒田さんは、相手が橋本くんでないことに気づいた。
「あれ? どこのどなたでしょうか?」
「通りすがりのもんですわ」
「おぉ、どこのどなたかは存じませんが、ご親切に……あれえ? なんか大きくない? 俺、立ってるよね? 身長すごくない? どれくらいあるの?」
「三メートルちょうどやね」
笑いつづける酒田さんは、見ず知らずの大きな人にベンチまで運んでもらい、そこに座った。
「おっさん、一人暮らしか?」
「いんや、奥さんと、小学生の息子がおりますよ~」
「子どもまでおんのに、こんなに酔っぱらってまうまで飲んだんかいな」
「心配無用。家族サービスはばっちり」
「ぜったい嘘やん」
「ほんとほんと。この前の休みも、奥さんは外で遊ばせて、息子とはゲームで対戦したから」
「ゲーム?」
「格闘ゲームな。それで俺がサムライキャラで勝ったとき、斬り捨てごめん、っていう台詞を口にしたら、ぜんぜん通じないわけよ」
「アホなんか?」
「いやアホではないよ? 俺の息子よ? それで息子に話を聞いてみたら、言葉自体は聞いたことはあると。どうやら、ちょっと優しすぎる子に育ったみたいでな」
「どういうことや?」
「ん? ああ、なんか四捨五入するときに、切り捨ててごめん、みたいな意味だと思ってたらしい」
「……死者誤入?」
「説明するのに時代劇を観ることになったら、なんかツボにはまったみたいで」
「いや死者誤入て、どこに? どこに切って捨てたん?」
「どういう影響を受けたのか、粉骨砕身を、拷問の一種と勘違いしてたわけよ」
「ちょっと怖いて。えぇ、違うやん。聞いてた話とだいぶ違うやん」
「ん? なにが?」
「ちょっといっぺん戻るわ。いま迎えを呼んだんやけど、あんまり驚かんでな」
突如まばゆい光に照らされて、酒田さんは目を閉じた。
ふたたび目を開けたとき、となりに座っていたはずの、大きすぎる人の姿はなかった。
公園で一夜を過ごした酒田さんは、翌朝、家に帰った。風邪をひくこともなく、妙な体験をした記憶もなく、近くでUFOの目撃情報があったというニュースに興奮する息子をみて、
「宇宙人なんているわけないけど、まあ、夢を壊すのもあれだからな」
と、心のうちを思いっきり口に出して、奥さんに後頭部を叩かれていた。




