DATA3
王は本当の本当に困り果ててしまいました。
もうどうしたものか。娘の心はもう戻らないのか。
「私なら、私なら、姫様の心を取り戻せます。」
そう王に進言したのはお城で雑用係として働く一人の少年でした。
「なぜ、お前はそのような自信に溢れた目をしている。一体なんの根拠があるのか。」
「私は雑用として部屋の隅々まで掃除をします。食事の支度をします。靴も磨きます。鏡も銀食器もピカピカになるまで磨きます。
それと同時に私は姫様の姿をよく見ています。私はこの城の誰よりも姫様のことを知っているのです。
僕にひと月の猶予をください。それまで姫様の心を取り戻して見せます。」
普段なら雑用係の男など、姫には決して近づけないだろう。しかし王はもう何も考えられなくなっていた。
王は雑用係の少年に娘を託しました。
雑用係の少年は姫の部屋へ入りました。姫様の部屋の家具は様々な宝石で装飾がなされ。床にはいかにもたかそうな絨毯が敷かれ。大きな煉瓦造りの暖炉も設置してありました。
少年テーブルに座り本を読んでいる。姫様の前に座り。「今日から姫様に、沢山のお話を聞かせてあげます。」と言い。少年が知る物語を話して聞かせました。農園に住む二人の男女の話、貧乏な家族の逆転劇、氷の城に住む魔女の話、竜の住む泉の話、見た目の違いで仲間はずれにされた猫の話、死後の世界の話
など、日に一度姫様に話を聞かせてあげました。
そんな生活を続け数十日が経ちました。もうすぐ期限が近づいています。王は娘が心を取り戻さなければ雑用係の子をどうしてくれよう。と考えるようになりました。
彼の父親と母親を殺してしまうか。彼の妹を奴隷として売り飛ばしてしまうか。
毎日、毎日そのことだけを考え、王は自分の心の平穏を保っていました。それだけが王の心を唯一支えていたのです。
そして、その話を雑用係の少年は聞いてしまうのでした。
少年はいつものように姫の前で振る舞いいつものようにお話しを聞かせます。しかし、うまく言葉が出せません。次第に少年は顔に涙を浮かべそれでも必死に話を話し続けようともがくのです。涙を拭い、下唇を噛みながら涙をこらえ、声よ出ろ、喉に指をかけ、うつむき、血が出るほどに手を握り締め、それでも、それでもと、小さく息を吸い、また楽しい話を続けるのです。甘くて、甘くてたまらないお話を。
「どうして泣いてるの?」
ガラスのような声だった。それでいて無機質で冷たく、絶対触れない隔たりを持たせた。でもどこまでも透明で曇りのない。声だった。
「いつも...。楽しい話。聞かせてくれた。あなたは...いつも笑ってた。でも今日は泣いてる」
「多分、君と同じになった......。からかな?」
涙ぐみなら笑顔で言った。
「そう。なら...私たちは……と、友達になれるかも。」
彼女は真っ白な手を僕に差し出しながら言った。




