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ツイート  作者: あぐりの
ジュンペイのつぶやき
8/113

伏兵。

それから数日後の放課後だった。

オレは緑川達と8人くらいで、かくれんぼ兼鬼ごっこをしていた。隠れて見つかっても、タッチされなければ大丈夫と言う遊びだ。範囲は学校の敷地内のグランドと駐車場以外全部。正直鬼にはなりたくないので、ジャンケンはかなり真剣だった。

緑川が鬼に決まった。緑川は成績は悪いけど、スポーツは学年1だし、何より勘が冴えていた。だから隠れ場所は重要だった。見つかりにくくて逃げやすい場所。まぁ、見つかったら逃げ切るのは難しいんだけど。

オレは中庭の垣根の裏に隠れる事にした。いい感じに、見えそうで見えない。しばらくそこでじっとしていると、二階の窓が開いて、

「やばっ‼︎」

と言う声と共に窓が閉まり、プリントが落ちて来た。見ると、夏休み要項、と書いてあった。そう言えばリュウヘイが、

「またレンとさわが何か頼まれてた。」

って言ってたな。2人でやってるのかと思うと、ちょっとモヤっとして来た。


数分後、さわが1人でプリントを拾いに中庭に来た。手伝おうかと悩んでいると、

「8枚、と。あ、あんなとこにも〜」

と、さわが言うのが聞こえた。オレの隠れてる直ぐ近くの木に引っかかっているみたいだった。流石に出ようかと思った時、鬼の緑川が来るのが見えて、慌てて隠れ直した。

「あーやだー蜘蛛の巣がある〜」

さわの困ってる声が聞こえるけど、ごめん。と思って隠れていると、

「わっ‼︎」

と言うさわの声と、バサバサっとプリントが落ちる音がした。

「これ取ろうとしてたんじゃねーの?」

緑川の声がした。垣根を挟んで直ぐ側だ。

「そ、そう。ありがと!」

さわのちょっと焦った声がして、プリントを拾い集める姿が、垣根の隙間から見えた。

「あ、髪に蜘蛛の巣付いてる。」

緑川がそう言うと、

「えっ!やだ‼︎」

と、さわが言った。隙間からだから分かりにくいが、どうやら緑川が取ってあげてるようだった。オレはモヤモヤしていたが、出るタイミングを完全に逃した為、出るに出られなくなっていた。

「…耳真っ赤だよ。照れてんの?」

緑川がそう言うのが聞こえた。オレは、えっ?と思って耳を研ぎ澄ませた。

「さっきキスしちゃいそうになったから?」

な、何ー⁈

「いやいやいやいやいや、違います。」

さわはそう言ったけど、明らかに声がいつもと違った。いやも多いし。

「オレはしちゃっても良かったけど。」

緑川はそう言った。いやいやいや、ちょっと待て。聞き捨てならねーな。

「もう本当やめて。からかわないで。」

さわはそう呆れた感じで言った。

「…本気ならしていいって事?」

えっ⁈

「…蜘蛛の巣、もう取れた?」

さわが話を逸らした。

「オレはしたいけど。」

「えっ」

と言うさわの声とプリントがまたバサバサっと落ちる音と、窓がガラっと開く音がして、

「さわっ‼︎プリント10枚‼︎」

と叫ぶレンの声がした。

そして、オレはレンと目が合ってしまった。レンの顔は、いつもと違っていた。

「えっ?あ、10枚?」

と、焦るさわに、

「あ、ごめん、9枚かも。」

レンはそう言って、ちらっとオレを見た。オレが1枚持ってるのが分かったらしかった。

さわがプリントを持って慌てて去って行くと、

「レン!邪魔すんなよ。」

と、本気なのかちょっと分かりづらい感じで、緑川が言った。レンは、ははっ。と笑って、バンっと窓を閉めた。


緑川も去って、オレは長い溜め息をした。緑川はまだ、さわを好きなんだ。

ちょっとして、ガサガサっと音がして見ると、レンがいた。さっきもだけど、レンには珍しく、見るからに怒っていた。

「何やってんだよ‼︎」

声は抑えていたけど、怒りが伝わって来た。

「あいつ、マジでキスしようとしてたんだぞ!あの距離に居て何やってんだよ!」

「声だって聞こえてただろ⁈内容から危機を感じろよ!」

レンは立て続けに言った。オレは、返す言葉が無かった。

レンは、ふーっと息を吐いて落ち着くと、プリントをオレから取って、

「ジュンペイならまだしも、オレは緑川やリュウヘイとかに取られたくないからな。」

と言って去って行った。


オレだって、レンなら仕方ないと思ってる。同じだけど、あの時、さわはどうするんだろうって思っちゃったんだよ。緑川に迫られて、さわはどうするんだろうって。もっと言えば、断るのを期待したんだ。

緑川は、最近はさわよりシイと仲が良いって噂を聞いていた。だから今はシイなのかもって思ってた。

でもその前はさわと仲が良かった。だからもしかしたら、さわも緑川の事を好きになっているかも知れなかった。緑川はおちゃらけてるけど、悪い奴ではない。もしかしたら、もしかするかも知れないってヤツだ。

でも、正直なところ、さわの気持ちはよく分からなかった。

確かなのは、レンが居て助かったって事だった。

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