情緒不安定。
運動会明けの午前中2時間は、片付けだった。各委員会に分かれて、運動会後体育館に一時保管してあった備品達を元に戻すと言う作業だった。
ジャンケンに負けて最終の備品を保健室へ運ぶ途中、おそらく放送室に備品を運んでいるのだろう、さわを発見した。この時オレは、何故だか胸の奥がドキっとしたのを感じていた。だけど、なんでなのか自分じゃ分からなくて、重い荷物のせいかな、と思って納得させていた。
「何か話しかけるかな。」
って、何となく思って、その後ハッとした。
話しかけるって…何で?何のために?
いつもどうだったっけ?こんな時、どうしていたっけ?ヤバイ、何でだろ。思い出せない…
重い荷物を持ったまま、良く分からない感情と闘っていると、
「ジュンペイ、すごい荷物だなー」
と、レンが声をかけて来た。
「あ?あぁ、重いんだよ、手伝ってよ。」
オレはそう言ってレンに少し手伝わせようとした。するとレンは荷物を眺めてから、
「オレは今職員室に急いでんだ。ワリーな!」
と言って、脇を足早に去って行ってしまった。オレは、
「何だよ〜!」
とレンに向かって叫んだ。保健室は職員室の手前なんだから手伝ってくれたらいいのに。って、あれ?
見るとレンはさわに話しかけていた。
…なんだろ、何か、イラつく。
どうやら、さわには、手伝おうか?と聞いてるようだった。オレのは拒否したくせにー!と思っていると、さわは断ったようで、レンは軽く手を振ると職員室へと走って行った。
オレは何となく、
「はぁ…」
と溜め息をついた。
それから数日間、何でか分からないけどイラつく日が続いていた。
今日も、貸した教科書をさわとの会話に夢中になっててなかなか返しに来ないリュウヘイ相手に、イラついてしまった。そんな事、今までだって良くあった事だし、イラつく事なんてなかったのに。なんだこれ。ちょっと自分が嫌になる。
「ちょっと!ジュンペイ!そこに私の手帳無かった⁇」
ソファでゴロンと横になっていたオレに、姉ちゃんが言った。そういえば、さっきから何か探してる感じだったな。
オレは起き上がって探ってみると、隙間に赤い何かが見えた。
「ん?あ、これ?」
オレがそう言うと、
「それー‼︎」
と、姉ちゃんが飛んで来た。
「大事な先輩の写真が入ってんのよー!あー良かった‼︎」
姉ちゃんはそう言って、写真の存在を確認した。ん?先輩?
「あれ?姉ちゃんって、同じクラスの人が好きなんじゃ無かったっけ⁇」
オレが聞くと、
「その好きと、先輩の好きは違うんです〜」
と、姉ちゃんは言った。え?好きが違う?どう言う事?オレが戸惑っていると、姉ちゃんは察したらしく、
「先輩の好きは、会えただけで嬉しいんだけど、クラスの人は、そうだなー…」
姉ちゃんはちょっと考えて、
「他の女子と楽しそうにしてるのを見ると、辛い気持ちになる」
と、もの凄く気持ちのこもった説明をしてくれた。
オレは衝撃だった。
「それが恋ってもんよ。まだ分かんないかなー?お子ちゃまなジュンペイには。」
姉ちゃんはニヤニヤしながら手帳を大事そうに抱えて、リビングから出て行った。
思い返してみると、恐ろしいくらい、イラつく原因にしっくりくる答えだった。
レンにイラついた時も、リュウヘイにイラついた時も、他にも思い返すと全部に、さわが関係していた。
今までは、好きな人が友達と被っても、
「お!一緒じゃん!」
って感じだった。誰と話していようが、こんな気持ちになった事は無かった。
でも、それは、さわにも同じだった。
クラス委員であれこれやってる時だって、レンとお似合いだなって思っていたくらいだ。
それが変わったのは、自分でも直ぐに分かった。
運動会の、あの時だ。
ショウくんの手当ての時からだ。
いや、たぶん、夏休みにリュウヘイの話を聞いた時から始まっていたのかも知れない。
梅こんぶさわ。
オレはさわに、恋したんだ。