梅こんぶ。
夏休みが明けると、生徒会選挙、からの運動会と、1年で1番慌ただしい時期になる。
先生に、
「選挙に出ないか?」
と言われたが、
「レンのが適任だと思います。」
と言って断った。
「レンが役員になったら、担任が困るだろうな。」
と、先生は笑って言った。言われてみれば納得だった。
結果、5年からは誰も出る事は無かった。
そして、後期役員、クラス委員、運動会実行委員の下、運動会へ向けて忙しくなって行った。
そしてこの運動会以降、オレは情緒不安定となって行くのだった。
運動会の日、オレは保健委員で、午後の低学年の演目から中学年の演目の間が担当だった。
低学年の演目では怪我をした人がいなさそうだったので、保健の先生が、
「今のうちにいろんなものを補充しておくから、何かあったら対応してね。まぁ、大丈夫だと思うけど。」
と言って、保健室に行ってしまった。
その数分後だった。
2年の男の子が、膝から血を垂れ流して、泣きながらやって来た。どうやら退場した後の控え席で、友達とぶつかって椅子に思いっきり引っ掛けてしまったらしい。
オレはとりあえず、怪我付近の砂を洗い流す為に、その子を連れて手洗い場に行った。
あまりに泣いて嫌がるので、タオルを濡らして傷の周りを綺麗に拭くだけに留めた。
しかし、これからが大変なのだ。消毒液は水なんか比じゃないくらいにしみるのだ。今からこんなんじゃ、絶対やらせてくれない。
オレは重い気持ちのまま、その子を本部テントの救護コーナーへ連れ帰った。保健室に行ったばかりの保健の先生は、やっぱりまだ戻っていなかった…
あまりの暴れ具合に、手の空いていた近くの先生がその子を膝に乗せて、多分だけど、優しくホールドしてくれた。
何とか消毒液をかけることには成功したが、しみたことで、さっきより酷い暴れ具合になってしまった。まだ消毒液を拭き取らなくちゃいけないのに。
その時だった。
「あれれ、誰かと思ったらショウくんじゃーん」
と言う、何ともこの状況には合わない声が聞こえて来た。
泣いて暴れていた、ショウくんもビックリして、
「しゃ、しゃわちゃん…」
と、一瞬叫びやめた。放送委員の仕事をしていたさわだった。
さわは、状況を把握したらしく、
「ねぇ、膝用と肘用のバンドエイドがあるんだけど、どれだと思う⁇」
と聞き始めた。ショウくんは戸惑いながらも、さわのペースに無理矢理流されて行き、大人しくなって来た。
オレと先生は、この機を逃すまいと、手早く処置を終わらせた。
「あー、残念!それは肘用でした〜」
さわは努めて明るく楽し気に対応してくれていた。
「ショウくんの膝用は、こっち!変な形してるよね〜」
さわはそう言ってショウくんにバンドエイドを渡して、
「はい!これ貼って下さいってお願いしようね。」
と言って、お願いします。と、ショウくんと一緒に言った。
処置を終わらせたショウくんは、さわと一緒に自分の席へ戻って行った。
片付けをしている時に、保健の先生が戻って来た。手助けしてくれた先生が、一連の流れを保健の先生に報告すると、保健の先生が、
「さわかー。あの子はちょっと変わってるよね。」
と言って、
「梅こんぶみたいな。」
と呟いた。オレは、⁇となった。すると、
「噛めば噛むほど味が出て病み付きになる、梅こんぶ。知れば知るほど謎が深まる、さわ。」
と、保健の先生は笑って言った。
先生達でもそう思うんだ。梅こんぶさわ。ちょっと笑える。
オレは家に帰ってからも、梅こんぶさわを思い出しては笑ってしまっていた。リュウヘイの話といい、さっきの事といい、もしかしたらオレは、梅こんぶさわに、もう病み付きになり掛けているのかも知れない…