きっかけ。
5年になると、オレはさわと違うクラスになった。
だけど、前期のクラス委員をお互いしていたから、交流は他の奴よりも多かった。と言うか、どの学年よりも多かった。
何故なら、さわのクラスの担任が学校のNo.3で、先生の中でも1番忙しい先生だったから、クラス委員への仕事の振り分けが他のクラスの比じゃなかったのだ。と言うか、
「え?それも生徒にやらせちゃう?」
って事までやらされていた。
そんなだからか、さわのクラスのクラス委員選出は、クラス投票や立候補ではなくて、担任指名だった。もちろん男子はレンだった。
そして、隣のクラスのそんな荒波は、オレと女子のクラス委員のそのにも影響を与えていた。
学年行事や遠足の運営を、クラス委員主体で進めさせられたのだ。
戸惑いを隠せないオレ達をよそに、過去の資料ややるべき事を先生から聞いて来たレンが、持ち前のリーダーシップを発揮した。
そして、さわのサポート力も発揮され、あれよあれよの内に行事が無事に終了して行くのだった。
「レンは、人の能力の見極めが上手い」
と、さわが言っていた。
レンはひたすら裏方に回っていて、実行委員長など表舞台はオレにさせ、そのには統計やデータ管理、資料集めを任せていた。
さらに、絵の得意な人や字の綺麗な人にはしおりの作成を、おちゃらけてる人にはレクやバス内の司会を頼んだり、手先が器用な人には飾り付けを任せたり、適材適所、本当に同じ学年とは思えない仕事っぷりだった。
さわはそんな一見バラバラしてそうな人達を上手い具合にまとめて、全体のサポートをしていた。さわはレンが言い出す前に察して動くし、レンはレンで、さわの動きを見越して仕事を進めていた。
そんな2人を間近で見て、オレは改めて2人はお似合いだなと思ってしまった。
そんな忙しい1学期を過ごした後の夏休み。4年から始めた少年野球の練習の日の事だった。
その日は夏の割には涼し目の日だった。
12時近くになって練習が終わると、リュウヘイが遊具のある方へ走って行ってから、トボトボと戻って来た。
その様子を見ていたコーチが、
「リュウヘイ、どうした?」
と聞いた。すると、
「さわとシイが遊んでたんだけど、もう帰っちゃってた…」
と、リュウヘイが答えた。
「お前ブレないな〜!」
そうコーチは呆れながら言って、
「お前ら位の年頃って、好きな子なんてコロコロかわるんじゃねーの?」
と言った。
側で荷物をまとめながら聞いてたオレは、確かにそうかも知れない。と思った。
「そのでしょ?」
ってお決まりで聞かれるオレだけど、実は一時期、転入生の子が気に入っていた事もあったりするのだ。周りの人も、そのだったりシイだったり、さわだったり、色々変わったりしていた。
そんな中、確かにリュウヘイは変わらなかった。レンが好きだって本人に聞いた時でさえ、ブレていなかった。
「コーチ、オレのさわ愛を周りの奴らと一緒にしないでくれ!」
リュウヘイはそう言って、1年の時の話をし出した。
実はリュウヘイは先天性の足病気で、1年の夏休みに他県まで行って手術をしていた。そのお陰で今は走ったり、野球も普通に出来ている。のだとばかり思っていた。
「休み明け、運動会の練習を見学ばかりしてりオレに、さわが言ったんだ。」
お医者さんからは、リハビリの為にも動かした方がいいとは言われていた。けど、親も先生も無理はさせたがらなかった。リュウヘイ自身、それを良いことに、出来る事もやらずにいたらしかった。
「出来る出来ないや、無理か無理じゃないかは、やってから決めないと分からない事だよ。って園長先生が言ってたよ。」
さわはそう言ってリュウヘイの手を取り、
「だからやってから決めなよ。やったらきっと、今より絶対楽しいよ!」
と言って、一緒に先生に話してくれたらしい。
「あの時さわに言われなかったら、今オレは野球なんてやれてない。」
リュウヘイが偉そうに言うのは何だか腹立たしかったが、コーチもオレも、リュウヘイのブレない理由を知って納得したのだった。
やっぱり、さわは不思議な子だ。