はじまり。
それはオレが小学5年の秋だった。
正確には、運動会が終わってから。
オレは今まで経験した事のない、焦りだったり、イライラだったり、とにかく心が穏やかじゃ無い瞬間が多々起こるようになった。
初めは、
「これが反抗期か?」
って思っていたけど、姉ちゃんの時とは何だか違うような気もしていた。
正直、親とはいつもと変わらずだった。イラつく時もあるし、感謝する時もあって、それは今までと何ら変わら無い。
しかも、どちらかと言えば、そんな気持ちになる時は、大半が学校だった。
オレの学校は人数がそんなに多くないので、各学年2クラスしかなかった。
どの学年もほぼ保育園からずっと一緒の人が集まってる学校だから、クラス分け隔て無く仲良くはあった。授業は違うけど、休み時間には廊下で話したり、時間があれば校庭で野球やサッカーなんかしたりしていた。
大人は1クラス当たりの人数がちょうどいいって言っていたけど、当の本人達にはそれしか知らないから、良さなんて分かっちゃいない。
むしろオレは、6年になった時には、
「1クラスでいいのに…」
って思ったくらいだ。
まぁ、そう思ったのには理由があった訳だけど、それは、この原因不明の情緒不安定が解決してからの話だ。
オレは何となく、女子とはあまり話したりはしていなかったけど、話す男女は、低学年の頃と変わらず普通に話したりしていた。
放課後とかで男女が何人かでいると、
「誰が好きなの?」
って話には大抵なった。そんな時、
「ジュンペイはそのちゃんなんでしょ?」
って聞かれる事がお決まりっぽくなっていた。
オレが3年の時にある女子との賭けに負けて言った話が、ずっと引き継がれていたのだ。
正直当時は、2年で一緒にクラス委員をやってたし、3年の前期も一緒にやっていたから、良く話す女子って言うと、そのくらいだった。
そのは同学年の女子の中ではちょっと異彩を放っていて、クールキューティーな子だった。だから小学生男子だったら、一度は好きになる女子だったのだ。オレも、その以上に気になる女子が居なかったし、そのもオレが好きだって話も聞いたし、悪い気もしてなかった。と言うか、むしろ喜んでいた。かなり嬉しかった。
何故なら、そのはその頃、男子の中では1番人気のあった女子だったからだ。
まあ、だからと言って3年生の男女だから、何か特別な事がある訳でもする訳でも無いから、何も無かったのだけど。
因みに次に人気があったのは、シイだと思う。
シイは、小さくて元気で運動が出来て何でも楽しそうで、何より話しやすかった。オレの周りでは、フジや緑川がシイを気に入っていたと思う。
この2人が、保育園時代から人気のあった女子だった。
そんな中、リュウヘイはちょっと違っていた。1年の時からずっと、オレの知らない女子の話をしていたのだ。
それが、さわだった。
さわは、唯一の幼稚園から小学校に上がってきた子で、3年で初めて同じクラスになった。
リュウヘイの話によれば、そのと幼馴染らしく、確かにクラスでは1番仲が良さそうだった。クールキューティーなそのとは違う、どちらかと言えばシイと似ていて、小さくて良く動く子だった。実際、シイとはかなり仲良くて、いつも一緒に遊んでいるみたいだった。
席が隣になった時に分かった事だが、さわはそのとは違う意味で、他の子とはちょっと変わった面を持っていた。
さわは、クラスでもかなり勉強が出来る子で、見た目からはちょっと想像出来ない、正義感や真面目さも、他の子より強かった。だからか、何かって言うと気付くとみんなをまとめていたりしていた。
そんなさわが、授業中に黒板を写さずに、一生懸命ノートの隅に何かを書いていた。気になって見てみると、平仮名の「す」と「む」が沢山書いてあった。
休み時間に聞いてみると、見られてた事にかなり恥ずかしがっていたが、理由を教えてくれた。
「すとむの、丸の形が気に入らない」
だった。聞いといてなんだが、さっぱり理解出来なかった。ただそれ以来、オレも「す」と「む」の丸の形が気になってしまう様になってしまったのだった。
でもまだその頃は、リュウヘイの気に入っている女子ってイメージが強くて、あとはちょっと?変わった空気を持った女子って印象くらいしかなかった。