いたずら?いじめ?
相澤さんから、
「LINEしてもいいかな? もし彼女とかいるんだったら、諦めるけど···」
(どこをどう見て、俺に彼女が?)
「あるにはあるけど···」
緊張も解け、パンケーキに魅了され、ノリでフルフルした俺···
LINE友達になって、はや1週間。
いまだ、返せてない···
既読無視をしてる訳ではないけど···
「なにを返せばいい?」
と悩む。
「直人ー、飯だぞー」
「わかったー!」
食事の返事は早いのに!
»こ、これからご飯。おわり
と、まぁ報告みたいなのを彼女に送ると、
»»うちもぉ!もぉ、お腹ぺっこぺこ!
と返ってくる。
(で、出来た! よ、要はメールと一緒なんだろうけど···)
あと、お願いはしておいた。
「この事は、内緒にしておいてくれるかな? もし俺とLINEしてるのみんなにバレたら···」
そう言った時の彼女。少し驚いた感じだったけど、
「うん。わかった。学校じゃ、話せないもんね···」
日直が終わっても、彼女は相変わらずモテ、俺は相変わらずバカにされていた。それでいい。もし彼女とLINEしてるのがバレたら、彼女が可哀相だから···
「ちょっとぉ。なーに?! ご飯食べながら、鼻血出して···」
母さんにティッシュを渡され、鼻栓しながら食べた唐揚げは、苦しかったけど美味しかった。
「あ、明日はお弁当いらないから」
明日から、期末考査でお昼には学校が終わる。
「そうかい? それは、寂しいのう···」
「直ちゃん、昼どうする? わしら、明日はカラオケ行くけど?」
(ほんと仲がいいな、うちの家系は)
「いいよ、どっか出食べてくるから」
(軽く食べて、図書館で勉強しよう。なんとしても、最下位から抜け出したいから。あと···)
ポヨポヨとした自分のお腹を擦る。
(体重計ってあったかな?)
そんな事を考えつつも、手は自然と出された饅頭を掴む。
「これ貰ってくね···」
手にした饅頭2つを持って、部屋へと昇るも···
「ハァッ···疲れた」
机に向かうと、相澤さんからのLINE。
美味そうな飯テロ画像。
»美味しそうだね。
»»うん!美味しかったよ。うちのママお料理好きだから。
どうやら相澤さん家も母親が料理好きらしい。
»»ね、明日さ。学校終わったら図書館付き合ってくれない?付き合ってくれたら、美味しいスイーツのお店案内するけど?
この誘いに俺が断る筈が無かった。
「待った? い、急いだんだけど···」
指定された図書館は、市内でも割と大きなとこで、とにかく広い上に、何故か今日に限ってエレベーターが点検中だは、エスカレーターで5階に昇って早歩きでやっと···
「大丈夫? 息きれてる」
廊下に出て、いつものように彼女が優しく俺の汗を拭ってくれる。ハンカチもいつも貰うばかり···
洗ってきれいに折りたたんだのに彼女は、笑って受け取らない。
『いいの。持ってて···』
そう言って一度も受け取らない···
だから、俺のお宝BOXの中には、彼女から貰った?ハンカチと内緒で撮ったプリクラがあるんだ。
「はい、これ。中じゃ飲めないから···。落ち着くよ?」
彼女から、水筒とかコップに注いだお茶みたいな飲み物を渡され、一気に飲み干す。
「ご馳走さま。これ、なんのお茶?」
「あぁ、それ? ルイボスティー。飲みやすいでしょ?」
彼女は、ニコッと笑って同じコップでそのお茶を飲み干していった。
「さ、中に入ろっか。明日もテストだしさ」
彼女の後に続いて、俺も自習室に入っていく。
学校とは違って誰も俺をバカにはしないが、チラチラ見ている輩もいるなか···
「ね、ここわかる?」
小さな声で思い思いにテスト勉強を始める。専ら、俺が教わってる訳だが、何故か彼女が聞いてくる。
(わからない···。相澤さんの方が、断然頭もいいのに···)
学校帰りに図書館で、みっちりテスト勉強をした。途中途中、通路にある休憩室でお茶を飲みながら、家族の話を話しては彼女が作ったという小さな焼き菓子を食べたりもした。
(もし出来る事なら、相澤さんみたいな彼女が欲しい···。無理だけど)
図書館の帰りに、駅前にある珈琲ショップで“マロン·ルノアール”という焼き菓子と珈琲を食べ、彼女を家の近くまで送って家へと帰った。
事態が変わったのは、その翌日のことだった。
いつものように学校へと行くと、クラス昇降口に俺の上履きがなかった。
「あれ···ない?」
昨日は、平日だったし持ち帰る事は無かった筈なのになく、仕方なく担任に上履きを間違えて持ち帰って忘れたという事にして、来客用のスリッパを借りて教室へと向かった。
教室の扉を開けて中に入っても誰も俺には声を掛けない。
(ま、いつものことだし···)
自席に座って、鞄から教科書を取り出して机にしまおうとすると何かつかえて入らない。
「なんだ? なんか入ってる」
そう思い取り出して見ると自分の上履きが真っ黒に汚れて入っていた。
(上履きが、勝手に? な事はある訳もなく···)
「······。ま、いっか」
大方、どこかに落ちてたのをわざわざ作ったの中に入れておいてくれたのだろう···
昨日までで、天使のカード使っちゃったからかな?悪魔のカードは、なんか使うの怖いし。女神は、最後に取っておきたい!
それが、なんとなく違うな?と思ったのは、教室に若井と大村が揃って入ってきた時。いつもだったら、自席につく前に俺をからかってくるのだが、今朝はそれがなかったし、竹野内ですらもチラッと俺を見ただけで自席へと行き、1時限目も2時限目もそれ以降も近寄っては来なかった。
(俺、なんかした?)
そう聞こうと近寄っても、彼等はチラッと見るだけで。その場を立ち去る。
相澤さんは、他の女の子達とこっちを見つつも近寄っては来ない。
(約束したから。俺から···)
考査2日目は、そんな感じだった。
»»そっか。なんとなく、近寄ってはこないとは思ったけど。なんだろうね?
»うん。俺にもわかんないや。
(これは本音。聞きたいけど、近寄ろうとすれば相手が逃げていく···)
»明日もテストだし。
»»うん。私も頭がイタイよ。親がうるさくて···
»これで赤点だったら、冬休みが!!
中間·期末考査で、赤点を出せば、夏休みも冬休みも学校に通って、担任から特別授業(補修)を受けなければならない。いつもギリギリな俺···
汚れた上履きは、風呂に入ってる時に洗って外に干して置いた。
»»じゃ、私も頑張って勉強するから、直人くんも頑張って!あと、明日体育あるから体操服忘れないように。駄目だよ? 上履き忘れちゃ!
»うん。そうするよ。じゃ···
彼女からのLINEを終わらせるのが寂しかったけど、勉強しないと。赤点だけは、取りたくない!
夜中近くまでのテスト勉強は、正直辛かったし。ここまで勉強したことはなく、初さんや和泉さんなんか、
「直ちゃん、どっか身体の具合でも悪いんか?」
と交互に言い出す始末だわ、母さんなんか、
「やだ、明日パパとお出かけするんだから雨降らせないでよ?」
と怒ってくるし···
(明日は、カード使うのよそう)
カード使ったから、彼女と話せるようになったのか?
わからない···
けど、そのカードにお願い事をした日必ず彼女と沢山話せるから···
天使のカード、もうないけど···
「明日で、あ、もう今日か! テストも終わる。午後は、体育あるだけだし。お弁当も母さんに頼んだから大丈夫! うん」
勝手に締めをくくって、なんとか眠る事にした。
けど···
「嘘···」
ちゃんと朝鞄に入れた筈のお弁当が···
「ちょ、やだ」
「ちょっ、キモ男。早弁しないでよー」
俺が、昼飯前にトイレに行った隙に机にぶちまけられていた。
「あ、うん。ごめん···。片付けるから」
掃除用具が閉まってあるロッカーに行く途中、教室の中でいつものような俺をバカにするような声が聞こえた。
「バーカ」
「きめーんだよ、デーブ」
そんな言葉を聞きながら、散らばっていたご飯やらおかずを集めていく。
「やぁーん。お腹すい···」
「おーい、デブちゃん! なーに···」
その現場を相澤さんと薩川さんが···
「お腹空きすぎて、こぼしただけだから···」
咄嗟に言葉が出てくる不思議感。
教室の中が、美味しそうな匂いに包まれて、いたたまれなくなった俺は、図書室へと逃げ込んだ。
(ここは、いつ来ても静かだ。お腹ならないようにしないと···)
読めそうな本を抱えて、図書室の隅の方へと逃げ込んだ。
「やっぱいた···」
顔を上げると、相澤さんが笑って俺を見下ろしていた。
「来て···」
彼女は、俺の手を引くと図書委員室へ入っていった。
「大丈夫だよ。ここの先生と仲いいから。今日だけ、貸して貰ったの」
??? 頭の中がハテナマークだらけ。
「はい。こんなものしかないけど···」
スカートのポケットから、カロリーケイトを取り出し、渡してきた。
「ありがとう。相澤さん···」
「うん。相澤さん、か···」
「ん? なんか言った?」
お腹が空きすぎて、目の前にあるカロリーケイトの袋を破っていたから、彼女が最後に何を言ったのかわからなかった。
「ううん。あと冷蔵庫にいつものお茶あるから。ここの先生もルイボスティー好きなの···」
「重ね重ね、ありがとう」
「それ食べて、元気出してね。体育、ドッジボールでしょ?」
少しだけ話して、彼女は図書委員室を出て、俺も教室へ向かった。
(良かった。体操服はあって)
彼女には、いつかちゃんとお礼を言わないと。いつも、してもらってばっかだし···
5時限目は、体育で珍しくドッジボールだったのは、いいんだけど···
「おい、デブ!」
呼ばれて振り向いた瞬間、顔面にボールが当たること数回···
体育の先生は、女子の方に行ってて、男子はある意味無法地帯になっていた。
「逃げんなよ。カース!」
気付けば、コートの中には俺一人。他の男子は、囲んでるだけ。
「おい、若井! お前、デブに投げろ」
橋口くんが、ボールを若井に渡し、彼は俺を見て顔を反らした。
「デブ、お前もっと近くに来いよ」
立ちすくむ俺を橋口の子分?が、両脇を挟んで若井の傍に···
「なぁ、お前だって悔しいんだろ? あんなアイドル取られてよ···」
「······。」
(アイドル? 誰?)
「わか···」
彼の名前を言おうとした瞬間、顔にボールが···
「お前ら、やれよ。あんな可愛い女、こんなキモ男に取られて平気なのか? やれるよな? こんなカス···」
みんな橋口の怖さを知ってる。橋口の言葉で、彼が言う女が誰なのかもわかった。
(相澤さん、か。でも、彼女とはなんもないけど···)
「······。」
「いいよ。ぶつけても。俺、何もしないし」
「ごめん!」
一人が謝りながら、俺の顔や身体にぶつけていった。
「こらーっ! 何してる! サボッてんな!」
女子が、先生に男子がサボッてるとか言ったのか、先生が走ってくるとみんなチリジリにバラつき始めた。
「お前ら、いまなにしてた?」
「ドッジボールでーす」
「うん」
「まぁ···」
「おい、誰か半澤を保健室に連れてってやれ」
安西先生が、周りを見渡し、
「橋口行け」
と言った瞬間、喜ぶ橋口と驚く男子。
「あとのものは、グラウンド3周走れ!」
「行こうか? 保健室」
ニヤけながら言う橋口に、顔を引きつらせる俺は、先生を呼ぼうとしたが、既に先生は愚か生徒すらいなかった···
「なぁ、俺しょんべん行きてーからよ。ついてきてくれる、よな?」
有無を言わさぬ睨みに、首を縦にするしかなく···
保健室近くのトイレで、数発腹にパンチを入れられ、保健室で顔に絆創膏を貼ってもらい···
「良かったなー、怪我軽くて」
と教室へと先に戻された俺は、原口にまた数発腹を殴られた。
「え? 痛いの? こんなデブなのに?」
体育の授業で思ってもみない追加を食わされた男面々は、意気揚々としてる橋口、机に突っ伏している俺を見ても何も言わなかった。
ただ彼女だけは、LINEでかなり心配してくれたのは、嬉しかった。
でも、俺が橋口らのいじめ?に合ってる原因を言う訳にもいかなかった。
»俺、強くなるから。ダイエットして筋肉つける!
»»ダイエット? なんか出来そうなのあったら協力するね!お大事に!
»うん。いつもありがとう···
橋口らは、教室にいる時は、普通にからかい、クラスの女子がいない場所に俺を連れ込んでは、見えない所を殴ったり蹴ったりしていく。
「キモ男のクセに···」
「くたばれ」
「死ねよ、お前なんか」
(悪魔のカード、使ってみようかな?)
効果があるとは限らない。もしかしたら、自分や家族に災いが起こるかも知れないけど···
痛い腹をカバーしつつ、制服の汚れを叩き、静かに家へと帰った。
「良かった。誰も居なくて」
いつもは、誰かしら家にいるのに、今日は珍しく誰もいなかった。
「天使と悪魔、か。朝しか聞かないんだろうか?」
アプリを起動し、持っている悪魔のカードを1枚出し···
「若井が、犬に追いかけられますように」
と子供じみた願い事をしてしまった。
「まさか、ね···」
夕方になり、彼女からのLINEで若井が買い物から帰る途中、大きな犬に追いかけられお尻を噛まれて病院に運ばれた事を聞かされた時は、かなり驚いた。
「偶然だよ、偶然···」
そう思う事にして、俺は翌日普通に学校にいって、普通に橋口らにいじめられたが、学校終わると走って逃げては、彼女と待ち合わせたカフェへと向かった。
「病院?」
「うん。最近、直人くん大村くんや若井くんらと一緒に行動してないでしょ?」
「うん、まぁ···」
「だからね、京ちゃんが心配してね。うちらで、若井くんのお見舞いに行こうか? って話になって···」
「そう」
今日は、ウインナーコーヒーとチョコレートワッフル。サクサクしてて、ほんと美味しい!
「でね、これから行く事にしてるんだけど、一緒にどうかな?」
「······。」
(いま、なんと? 一緒に?)
「でも···」
一緒に現れたりしたら、また彼女に迷惑がかかるんじゃないだろうか?
「喧嘩なんかしてないから。友達だもん。これ、ご馳走さま」
財布からお金を出して、テーブルに置いてから、逃げるようにそのカフェを出た。
相澤さんの声が聞こえたけど···
何を言っていたのかは、わからなかった。
家へ向かっていた筈なのに、気付いたら昔よく遊んでいた公園へ来ていた。
幼稚園時代の頃から、通いつめた公園。
「まだ、あったんだ···」
昔、父さんに怒られては“家出”と称しては、この山みたいになっているトンネルの遊具の中に閉じこもっては泣いていた。ブランコも滑り台も今となっては懐かしい。
「あ···」
公園の奥にある木のベンチに、見覚えのある姿···
どうやら向こうも気がついたらしく、顔をこちらに向けてジッと見合わす。
大村···
(彼もこの付近だったのか?近付いたら、また避けられるのだろうか?)
と思い、一歩近付くと彼の方からゆっくり実況近づいてきて、逆に俺は怖くなって立ち止まった。
「お前も、この近くか?」
彼は、煙草を咬えてして俺を見下ろし、そう言った。
「うん。生まれたとこは違うけど」
「そっか···」
なんとも言えない重たい空気。
「煙草、見つかったら」
見つかって、補導でもされたら停学される。二度目は、もう···
「はぁっ···。今日の空は、なんか暗いな」
?思いっきり真っ青な空だよ?目でも悪くなった?
ふたり空を見上げ、彼はポツリこう言った。
「お前、相澤と付き合ってるのか?」
と···。
「この間、一組の畑山がお前と相澤桃華が、仲良く図書館から出てきて、カフェに立ち寄って、顔を近付けて話し込んでたって、その写真がLINEで回ってきたんだ」
「え? そんなの俺知らない」
「そうだな。畑山が橋口の女ってのも知らんだろーし」
更に彼は、
「橋口が、相澤を狙っているのも知らんだろ」
それは、衝撃的だった。
「狙う?」
「俺も若井も奴と同中だから、怖さは知ってる。せっかく高校で離れられたと思ってたのに」
「······。」
「ごめん」
「うん」
ドッジボールの時、囲んでた男子の顔をよく見ていた。笑っていた男子は、よくボールを強くぶつけてきたけど、大村達は戸惑いの表情をして力を加減していたから···
「─あぁ、煙草なんてくっそマジーな。やめよ、やめよ」
彼は、手にしていた煙草をクシャクシャに握り潰すとゴミ箱に投げ入れ、何も言わず公園をあとにした。
その夜は、彼女からLINEがきたし、大村や若井、竹野内からも、メールで謝りの言葉を貰った。
それでも、俺に対するいじめは続いていたけど、それは橋口がいる時だけだった。
『あいつがいる時だけ···』
物は隠されるけど、場所を教えてくれるから···
「橋口が、いなくなればいいのに···」
そう悪魔のカードに呟いた数日後···




