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終わった勇者の昔話

作者: 蟹パン本仕込み

初投稿です。

とある王国のとある孤児院には、初老の院長がいた。

彼はいつも温和な笑みを浮かべて、子供たちと一緒にいる。

今日も彼は子供たちにせがまれて、昔話をするようだ。


「ねーねーいんちょー、きょうもおもしろいおはなしきかしてよ!」

「ああ、もちろんしてあげるとも。今日はとっておきのお話だよ。よおく聴いてくれ。」


むかしむかし、ある村に1人の青年がいました。

彼は周りの人から慕われていて、次の村長は彼であろうと、毎日のように言われていました。

そんなある日、20歳の生誕日を迎えた彼は、王国の教会で洗礼を受けることになりました。

そこで彼は、神からの御言葉を承りました。


汝は勇ましき戦士として選ばれた

未来を守るために汝が身を、我が勇士として費やすのだ

汝の輝きに虹のかからんことを


と。

それからはもう王国中が大騒ぎ。

あれよこれよといううちに、彼は勇者として祭り上げられました。

それからというもの、西の山にドラゴンがでれば討伐しに行き、東の村に悪党が現れれば退治しに行き、休むことなく戦い続けました。

村での評判はたちまち王国での評判になりました。

しかし、それは長くは続きませんでした。


王国の王女が異界から勇者を召喚したのです。

その勇者は、青年よりも強く神の御力を授かっていて、圧倒的な強さを持っていました。

たちまちに青年の活躍の場は失われていき、新勇者の名は青年以上に知れ渡っていきました。

青年は立場を失ってしまいました。

西の山に悪党が現れたと聞き、向かう途中で新勇者に退治され、東の村にドラゴンがでたと聞き、着いた時には新勇者が主役の祭が行われていました。


青年は考えました。

これからどうすればいいのだろうか、と。

彼は最初に教会へ向かいました。

神託を授かるためです。

しかしそれは叶いませんでした。

教会で門前払いを受けてしまったからです。


それではと、彼は王様の元へ向かいました。

王様なら良い知恵があるかもしれないと考えたからです。

しかしそれは叶いませんでした。

王城で門前払いを受けてしまったからです。


ならばと、自分のいた村に向かいました。

彼らなら、昔からの付き合いのある彼らならなにか教えてくれるかもしれないと考えたからです。

しかしそれは叶いませんでした。

彼は村に入る前に道を引き返したからです。

彼は村にいた頃に好きだった人がいました。

そして彼は村には入る寸前で、見てしまいました。

仲良く歩く好きだった人と、彼の友人だった人を。


青年は何もかもが嫌になりました。

勇者として生きて、何もかもを失ってしまった。

新勇者が許せない。憎たらしい。

好きだった人も、もう嫌いだし、友人だった人も、もう友人ではない。

王も、新勇者を召喚した王女も、教会も、神も、何もかも、何もかもが嫌になりました。

自分を失いそうでした。

勇者としての想いを失いそうでした。

もう山にでも行って、人と縁を断とうかと、考えました。


そんな時、人が前から来るのに気づきました。

その顔は忘れたくても忘れられない顔でした。

勇者でした。

青年は怒りを顕にし、今にも勇者に飛びかかろうとしました。

しかし、一つ頭に浮かんだことがありました。

ずっと勇者に聞きたかっとことでした。

青年は勇者に尋ねました。


勇者として生きてみてどうだ?


勇者は何秒か考えて答えました。


楽しいよ。


と。

青年はそれを聴いて満足しました。


そうか。それは良かった。これからもがんばってくれよ。俺の分まで。


そう言って青年はその場を去りました。

勇者は青年を黙って見送りました。


その後、勇者は魔王を倒して、異界に帰ることになりました。

勇者は最後まで皆に慕われて、異界に帰って行きました。

勇者が居なくなった世界は、少し静かになったように感じられました。


おしまい。



「さて、どうだったかな?少し難しかったかな?」


「ねーねーいんちょー、ゆうしゃだったおにいちゃんはどうなったの?」


「彼かい?一つ知っていることがあるよ。今はね、神様の仰ったとおり、未来を守る仕事をしているよ。」

感想、批評、助言等、よろしくお願いします。

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[良い点] 絶望して十分闇堕ちしてもおかしくない状況に落とされながらも、怒りや憎しみに飲み込まれずに、孤児の世話を出来るまでに穏やかに生き続けている主人公。 報復しない・怒りや憎しみを抱き続けないと言…
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