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彼女  作者: 東 那有多
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前の席

待ちに待った夏休みまで後数日。

今日の最高気温は38度まで昇るらしいが、正午の日差しが射し込む教室はいくら窓を開け放っているとはいえ体感温度はそれより高く感じる。


昼休みが終わり、腹の膨れた生徒の多くがこくりこくりと舟を漕いでいる。

ーー全く。

こんな暑さの中、しかも鬼教師の異名を持つ日本史の前田の授業で眠るなんていい度胸だ。と「俺」は少し意地悪に思った。

ふと「俺」の前に座る彼女も周りのそれと同じように舟を漕いでいるのに気がついた。顎の少し下まで伸ばしたおかっぱ頭は、オシャレに言うとボブと言うらしい。女は何でも言い変えようとする。

そのボブ頭がこくりこくりと揺れるたびに彼女の真っ白い首にある小さなほくろが見え隠れする。

意識しているつもりはないが、つい視線がいってしまう。


「おい、「 」聞いてるのか?」

「ーーっ!」

不意に鬼教師に呼ばれ、我に帰った「俺」は驚いた余り思わず立ち上がってしまった。その音で舟を漕いでいた連中が目を覚ます。

もちろん、彼女も。

「俺」は不満を感じながらも、仕方なくその場に見合った言葉を吐き落とし、席に着く。

後ろの方で女子たちがクスクスと笑う声が聞こえ、顔が熱くなるのを感じる。


顔の熱いものがゆっくりと引いていくのを静かに待つ。

ふと視線を上げると、彼女は凛と背筋を伸ばして「俺」の前に座っていた。ほくろは見えない。





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