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くちなし  作者: SHJ
4/6

第3章:時

蘭呶は走っていた。

学校は後少しだ。しかし、体力が持たない。蘭呶は不正な事は好きじゃないのだがこの際はしょうがない…

蘭呶は辺りを見回して小さく呟いた。

「"休"め」

体力が一気に復活する。小さくガッツポーズを取ると一気に教室まで走り抜いた。

何とか走ったお陰で遅刻は免れた。蘭呶は指定された自分の机に向かった。

「窓側の一番後ろの席」

教室はみんな知らない顔ばかり。ただ1人、昨日の勇敢な少女…空が居た。空は、もう友達を作ったのか女の子達と固まって話していた。

蘭呶は席に座ると窓から見える外の世界を見た。

外には大きな校庭と、体育館が見える。

この学校で3年間頑張らなきゃいけない…。

そんな事を思いながらボーっと外を見ていた。

「あっ蘭呶!おはよっ」

いきなり空が話しかけてきた。

蘭呶は驚いた。何故なら、空が名前を"憶えてる"ハズが無いからだ。

昨日、名乗ったけどその後に自分に関する記憶を消去したはずだ。

なのにこの女、何故名前を知っている?

「蘭呶、昨日の手品!凄かったね!ヤクザを消したり、飛ばしたり…でも、みんな蘭呶の事を忘れてるみたいで何か変だったんだよね」

空は首を傾げた。

やはり、コイツ俺の力が効いていない!

「アレは"忘"れてくれ」

蘭呶は空にしか聞こえない声で話した。

「何で?凄いじゃん」

間違い無い…コイツには力が働かない。過去にこんな奴は居なかった。

「その事を誰かに話したのか?」

「うん!アッチに居る子だけにね」

空は無邪気に笑った。

蘭呶は次に大声で叫んだ。

「"忘"れろ!」

教室内が静まりかえった。クラス全員が少しの間ボーっとすると、また普通に騒ぎ出す。

「この事を誰にも話すな!もし、誰かに知られればお前を…」

消す!と言いたかったが、その言葉を言うと蘭呶の声が耳に入った人はみんな消えてしまう。

蘭呶は鞄からノートを引っ張り出すと、乱暴にノートに書き殴る。

『消す!』

その言葉を空に見せつけた。

「えっ?えっ?何で?凄い手品なのに…みんなに知らせれば人気者になれるよ」

空は、はしゃぎウキウキしながら言う。

「でも、もう遅いよ!向こうの女の子達には言っちゃったからね!ねっ!!」

空は振り返り女子の集まりに話を振る。女子の集まりは、一瞬空を見るが何の話か分からずに首を傾げた。

「ほらっ!さっきの話だよ!」

それでも、女子の集まりは『さっきの話』部分の記憶だけ綺麗さっぱり忘れている。

「悪いが、空がさっきアイツらに話したって言う話は、綺麗にけ…」

紙に書く『消させてもらった』

いや、この言葉は言っても良かったな。今は、記憶の話をしているので、"消"すと言えば存在で無く、記憶が消えたのに。

「おいっ!席に着け!ガキ共!」

ドアを乱暴に開け、怖い顔をした男が教室に入り様に叫んだ。

みんな、急いで自分の席に座り教室は静まり返った。

「俺は、このクラスの担任の鬼島 太郎だ!いいか?今から、出席を取る!名前を呼ばれた者は、立って自己紹介と自分の長所と短所を大きな声で言え!」

出席名簿を教卓にバンッと置き名前を呼び出す。

呼ばれた生徒は立ってプロフィールを大きな声で言う。

「次は…大空 空!」

「はひっ!」

緊張のあまりか声が裏返ってしまったが、席を立つと話だす。

「私は、大空 空です!長所は、明るくて元気な所!短所は、首を突っ込み過ぎる所です!」

まさにその通り!蘭呶は思った。自分で分かっているなら、俺の事はほって置いてくれよ…。

「次は…聖…何て読むんだ?」

蘭呶は立ち上がる。

クラスの人間には聞こえるくらいの声で話だす。

「俺は、聖狼(せいろう蘭呶です!長所はありません。短所は、無口な所です」

蘭呶は席に着いた。

「ほう、聖狼 蘭呶か…珍しい名前だな。しかし、長所が無いとは…何か無いのか?優しいとか」

蘭呶は考え込んだが、特に長所に当てはまる様な性格は特に持ち合わせていない。

「先生!」

空が手を挙げて立ち上がる。

「昨日、蘭呶君は私とお祖母さんがヤクザに絡まれていたのを助けてくれました!」

全員の視線が蘭呶に向いた。蘭呶は辞めてくれと言わんばかりに、顔を伏せた。

「何だあるじゃないか!長所は勇敢な所だな」

先生は名簿に何かを書き足している。

そんなこんなで、HRも終わり授業が始まるまで少し休憩を挟んだ。

蘭呶はクラスの人達に質問攻めをされていたが、頷くか首を横に振るかしかしなかった。

空は手品(能力)の事は話さずに説明をしている。

器用な事だ。

「蘭呶君って本当に珍しい名前だよね!由来とかは無いの?」

女子の1人が質問をしてきた。

確か、祖先が狼人間だったと聞いているがそれは関係無いだろう。むしろ、狼人間だったら俺は妖怪か!?等、思いながら首を振る。

「本当に無口なんだね。さっきから、一言も喋って無いよね」

蘭呶は頷いた。

その時、チャイムが鳴り各々席に着く。蘭呶は助かったと思いため息をついた。

また鬼島先生が入ってきた。

「えーこれより、会議を始めます。会議と言うのは、これからみんなが仲良くなれる為の林間学級の班分けの為の会議です。この学校は、まず1年生の最初の授業は林間学級から始まります」

一部の男子達が盛り上がった。

「静かに静かに!さて、まだみんなは隣の顔さえ知らない状態だね?まずは2人組んで見ようか…男子と女子で分かれなさい」

先生に言われるがままに、男子は廊下側に集まり女子は窓側に集まった。

男子21人の女子が20人…男子が1人余る状況だ。蘭呶はふいに手を挙げた。

「俺、1人で良いです」

実際は1人が良かった。みんなで輪になって肩を組むなんてヘドが出るほど嫌だった。

「蘭呶、大丈夫だよ。実際は4〜5人で1つの班になるから蘭呶だけが1人って事は無くなる」

蘭呶はがっかりした。本当に1人で林間学級なんてクソみたいな授業を受けたかった。その方が気が楽だったのに…

蘭呶は椅子に座り、みんながキャッキャッ班を組んでいるのをボーっと眺めていた。

ようやく、男2人女2人の4人の班が10組出来上がる。

「よしよし!それじゃあ、最後に蘭呶を入たい班は手を挙げてくれ」

10組中10組が手を挙げた。いつの間にか、蘭呶はクラスの人気者になっていたのだ。

「おおっ人気者だな蘭呶は!じゃあ、代表者はジャンケンして決めてくれ」

蘭呶はどうせ班になるなら、空と同じ班にはなりたくなかった。

それだけは辞めて欲しい…。

そうだ!空に負けろ!って言えば…嫌、アイツは力が効かないんだ。むしろ、俺の言葉を聞いた者が負けてしまう。蘭呶は舌打ちをした。

だが結局、空は自然に負けてしまい勝ったのは顔も知らない女子と男子の班だった。

ようやく1段落を終え、班ごとに集まって話し合いが始まる。

「なぁ、お前らの名前が分かんないんだけど…」

蘭呶は他の4人に聞く。

「えっ?さっき、自己紹介したばっかじゃないか!」

ちょっと不良っぽい男子が驚いていた。

「おれは、陸って言うんだ!よろしくな蘭呶」

不良っぽい少年が手を差し出した。

「んで、俺はコイツの弟の大地って言うんだ」

陸はもう一方の手でもう一人の男子を指さした。

「俺たち双子なんだよ」

大地の方は陸とは正反対の真面目系の男子であった。

「私は、(れいって言うの!ヨロシク蘭呶君」

明るい感じの女子が話かけた。すぐ後ろに暗い感じの女子が居た。

蘭呶はその子を知っていた。同じ中学で3年間同じクラスであまりパッとしない女の子。

蘭呶はなにげに、その子の事がずっと片想いであった。

「蘭呶君…憶えてるかな?私、玲夢(りむだよ。ほら、ずっと同じクラスだったよね」

この暗い性格のせいか、あまり男子から好意を引かない女の子だが、それでも蘭呶から見たらとても魅力ある女子で、忘れる訳も無かった。

蘭呶自身は内心驚いていた。まさか、同じ高校に入学していて同じクラスだったとは…。

「ああ…うん。まぁ、憶えてるよ」

蘭呶は少し見栄を張り、あさっての方を見ながら答えた。恥ずかしくて、顔もまともに見れない程だった。

「良かった」

玲夢はクスリと笑った。

その笑顔が可愛くて少し顔が紅くなる。

蘭呶の意思は崩れそうになっていた。

(ううう…やっぱ可愛い!駄目だ!みとれるな!頑張れ俺!)

蘭呶は軽く咳払いをしてから、辺りを見回した。

「それで、何を決めれば良いんだ?」

「班長だろ?」

陸は軽い感じに言う。

班長…班の頂点に立ちメンバーをまとめる役。俺には絶対に無理だな。

「もう決まってるけどな!班長は蘭呶やれって!」

陸は蘭呶の肩を叩いた。

「無理!」

しかし蘭呶の反応は早く却下する。

「絶対イケるよ!蘭呶君が班長やってよ」

玲夢は笑顔で言う。

蘭呶はその言葉に自分が班長になると言う想像をした。

「"俺"が?無理だろ…」

しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

蘭呶は後悔をした。

蘭呶の能力は、何が起こる・何に何かが起きる等を一度頭の中で構築してから漢字1文字を発する事で能力が発動する。

つまり、今の蘭呶は自分が班長になる事を構築し、その対象を"俺"と自分に発動してしまったのだ。

「よしっ!班長は決まったな!班長は蘭呶!」

陸が蘭呶に指さした。

「今の"嘘"!"嘘"だって!」

必至に今のは無かった事を考えるが、無理な物は無理なのか能力が発動しない。

「決まり!ヨロシクね蘭呶君」

零も確信した表情をする。

「林間学級、楽しみだね!」

玲夢は先ほどからニコニコと笑顔が止まらなかった。

(嫌だぁぁぁぁぁぁ!玲夢と同じ班になれたのは良いんだけど、班長は嫌だぁぁぁぁぁぁ!)

無惨にも蘭呶の心の叫びは誰にも聞こえない。

「よぅしっ!みんな、決まったか?誰が班長になったんだ?班長は前に出てこい」

先生が大声で叫ぶ。

「ほうほう…ふむ…おっ?蘭呶が班長か」

先生は蘭呶がお気に入りの様ですぐに目をつけた。

「蘭呶!蘭呶も班長になったんだね!」

空が声をかけてきた。

「おっ!お前ら仲が良いな!付き合ってるのか?」

先生は空の様子を見て、茶化す。

(やめろ!玲夢の前で変な事を言わないでくれ!)

「へへへ…まぁ」

空は少し照れる様に答えた。

(お前は否定しろぉぉぉぉぉぉ!何で照れるんだ!)

一部の女子からため息が流れた。どうやら、本気で勘違いされた様だ。

蘭呶は玲夢の表情を伺いたがったが、これで『別に私は関係無いし』みたいな表情をされていたらショックがデかいので、伺う事が出来なかった。

「なんだ…それなら、蘭呶は空と同じ班に行くか?」

「"嫌"です!」

蘭呶は即座に答える。

それだけは本当に嫌だった。

「先生!それは駄目っすよ!」

陸が叫ぶ。

(ナイス陸!)

「そしたら、俺…話せるのがコイツだけになっちまうし」

陸は大地を見た。

(お前、それだけかっ!他にあるだろっ!)

「そうだな!空は学校が終わればいつでも蘭呶と2人きりになれる訳だし」

(だから、変な誤解をすんなっつーの!)

蘭呶は必至に頭の中で構築を立てた。

先生が俺と空は関係無いと思わせる言葉は…

関係"無"いは駄目だ…。実際、3文字だし…"嘘"は何が嘘なのかが分からない。

"無"理…"無"駄…"無"視…違うそんなんじゃ……んっ?"違"う?

「先生!"違"いますよ!」

「おっ?違うのか…」

よしっ!上手く行った!

蘭呶は小さくガッツポーズをした。これ以上、変な誤解を招く事は無いだろう。

「まぁ、話も進まないからな。それで、今日の放課後に班長は集まってくれ。林間学級の事を話合うんでな」

空と先生との騒動で、自分が班長と言う事を忘れていた。

チャイムが鳴り1時間目が終わる。

蘭呶はため息をつき、自分の席に戻ると空が近づいてきた。

「ねえ!蘭呶は、他に好きな子がいるの?」

かなりの大きな声で、教室の中は静まりかえった

。全員の視線が蘭呶に集まる。

「ちょっと待て!何の話だ?」

蘭呶は慌てて声を上げた。

「だって、私と付き合ってると言うことは違うんでしょ?」

「だから、何でそうなるんだっつーの!」

そこに零が割って入ってきた。

「蘭呶君て向きになると無口じゃ無くなるよね!ねえ?誰?同じ中学の子?」

玲夢の顔が頭に浮かぶ。

「そんな事、"教"える訳いか…」

蘭呶は言葉を止めて零の顔を見た。零は、なるほどと言う顔をしている。

またやってしまった!教える訳は無いと言おうとしたのに、教えるで判定をしてしまったのだ。

「蘭呶君の好きな子、何となく分かっちゃった」

零はニヤリと笑った。

蘭呶はドンドン白くなっていく。

「えぇっ!零ちゃん分かったの?ズルイ!教えてよ」

空の声が教室内に響いた。零が分かると言う事は、この教室内の誰かだろうとクラスの女子は判断する。

「よし、蘭呶君!林間学級は楽しいもんにしようなっ!」

零は蘭呶の肩を強めに叩くと自分の席に戻った。

終わった…。

蘭呶は穴があったら入りたい位の気持ちであった。

空は何とか聞こうと、零の方へ走っていく。

空だけでない、他の女子も零に話を聞きに向かう。蘭呶はチラッと玲夢の方を見た。

玲夢は『私は関係無いし』みたいな顔で読書をしている。

終わった…グッバイ初恋3年間。

蘭呶は音も無く崩れ落ちた。

そして放課後…、蘭呶は指定された教室に入って行く。

ガララとドアを開け中に入ると長い机が並び、1組・2組・3組と書いてある。

蘭呶は3組の机がある場所に行き席に座る。

それから、クラスの男女は自分の席に着き始める。あらかた揃った頃に、各々の担任が前に立ち説明を始めた。

「これから、林間学級での問題点について話をします」

問題点?蘭呶は疑問に思う。

「毎年、林間学級では事故や事件が多発します」

(おいっ!何だそれ!)

「遭難・行方不明・殺人など様々です」

(ほぼ、殺人だろ?それ)

「危険はいっぱいです」

(そんな場所に生徒を行かせるなぁぁぁぁ!)

「先生達は何もしません」

(しろぉぉぉぉぉ!!!)

「と言うのは嘘ですが、皆さんは班長なので班の人達が行方不明にならないように気を付けて欲しいと思います。以上」

よく分からない会議も終わり蘭呶も何の会議すら分からないまま帰路につくことにした。

そろそろ夜になるのか、夕日が綺麗に見えた。

同じクラスの班長達は、まだ少し残り林間学級の行方不明者対策を考えていたが、蘭呶は面倒臭かったのでフケてきた。

校門から出ようとすると、陸と大地、零と玲夢が蘭呶の帰りを待っていた。

「おっ?蘭呶!やっと来たか」

陸が話しかけてくる。

「いやさ、実は…林間学級って毎年恒例に行方不明者が出るって噂を聞いたんだけど、アレって本当の話なのか?」

陸は心配そうに、蘭呶を見つめていた。

「いや〜そう言う話は聞いてないけどなぁ…」

蘭呶は班員に心配かけまいととぼける。

「兄さんは心配性なんだよ…」

ボソっと大地が呟いた。

「ほらっ!言った通りでしょ?そんな危険な所に生徒を連れていく訳なんて無いわよ!」

零は陸につっかかる。

「だってよぉ、先輩の彼女はまだ林間学級から帰って来てないって言ってるんだよ」

陸も負けじに食いかかるが少し弱気になっていた。

「大丈夫よ!蘭呶君が居れば問題無いんじゃないの?」

かなり強めに陸の肩を叩いた。

「蘭呶君が居ればね平気だよ」

玲夢は笑顔で話した。

「な…なぁ」

蘭呶が声を出す。

「その……君付けは辞めて欲しいんだけど…」

蘭呶は頑張って声を振り絞る。

「ほら、恥ずかしいんだよ…出来れば呼び捨てで呼んで欲しい…」

耳まで赤くし、顔をうつ向かせながら蘭呶は言う。

「蘭呶君って少し変?」

玲夢は蘭呶の顔を覗きこんだ。

「り…玲夢もさ、呼び捨てで呼んでくれよ。その方が親しみ易いだろ?」

自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。親しみたいのは、むしろ蘭呶の方なのに。

零だけは、事情を知っているのかニヤリと笑う。

「玲夢、蘭呶もこう言ってる事だし呼び捨てで呼んであげなよ」

零は玲夢の背中を叩く。

「えっ?えーっと…蘭呶?」

玲夢は顔を赤くしながら、蘭呶の名前を呼んだ。

頭から湯気が出るんじゃ無いかくらい蘭呶の顔は真っ赤になる。多分、夕日より赤く染まってる。

「う…うんうん。そ…そんな感じでぜぜん良いよ」

平常心を保とうと頑張るが、口が上手く回らないのか言葉を噛みまくる。

「さて…と、邪魔者は帰りますか」

零は頭を描きながら陸達の方へ駆け寄った。

「ちょ…待ってよ!零ちゃん達だけで無くて、私達も一緒に帰らせてよ」

玲夢は慌てて零の方へ振り返ったと同時に蘭呶も慌てる。

「そうだぜ!何でお前ら3人で帰ろうとしてんだよ」

とにかく必至に引き止める。

「蘭呶はムキになるとよく喋る…」

大地がボソりと喋る。

「って言うか、お前らの家ってドコにあんの?俺らは、駅前の方にあるんだけど」

陸は言う。

「あっ私もそっちの方だよ!」

零も叫ぶ。

「じゃあ、俺だけ1人か…俺は、あっちの山の方にあるんだ」

蘭呶はここから見える山を指さした。山を切り崩し住宅街になっている。

「あっ…私もそっちのほうだよ」

玲夢はポツリと呟いた。

「なら決まりね!やっぱ、邪魔者は消えましょ!蘭呶、もう回りは暗いんだから、玲夢を家まで送りなさいよ」

いつの間にか夕日が落ち外は暗くなり始めていた。

「へっ…えっあぁ…うん分かった」

蘭呶はあさっての方向を見ながら答えた。

恥ずかしい!恥ずかしすぎる!高校初日からずっと片想いの子と一緒に帰るなんて…。

「じゃあね!お疲れ様」

零が叫ぶ。

「へっ?」

声に気づき振り向くと、かなり遠くの方へ3人は歩いている。

校門の前には既に蘭呶と玲夢の2人きりになっていた。

「じゃあ…蘭呶、帰ろっか」

玲夢が聞く

回りは暗いのに、何故か蘭呶には玲夢の顔がはっきり見えた。

とりあえず、蘭呶は余計な事を考えず言葉にも気をつけ歩き出す。

「蘭呶って結構、話し易い人だったんだね」

最初はお互いに無口のまま歩いていたが、玲夢は痺れを切らせ話しかけてきた。

「えっ?うん…そうかな」

突然の玲夢の言葉に少し動揺しながらも答える。

「何か他の男の子達とは違う空気を持ってるよね」

そうかなぁ…蘭呶は自分の頭の上を見る感じに見上げたり腰らへんを見たりした。

くすっ…と玲夢の笑い声が聞こえた。

「目じゃ見えないよ」

玲夢はそんな蘭呶の行動を見て笑いだした。

「そ…そうだよね」

蘭呶は照れながらも笑いだした。

「あっ!」

急に玲夢が立ち止まり前を凝視している。

蘭呶は玲夢が見ている方向を見ると、トンネルの脇に不良の溜り場があった。

「あそこを通ると近道なんだけど…今日は無理そうね」

玲夢は肩を落とした。

「大丈夫だろ?通るだけだし、俺もトンネルを通るし行こうぜ」

実際に蘭呶は絡まれても恐くは無かった。

それでも案の定、2人は通ろうとすると不良が絡んできた。

蘭呶は玲夢の家がドコにあるかは知らなかったが、ここからなら走ってでも家に帰れるだろうと思い…玲夢が家まで走ると創造しながら玲夢の耳元で呟いた。

「"逃"げろ」

玲夢は急に走り出すが、不良の1人が玲夢の腕を掴む。

「"離"せ!」

不良は言われた通りに腕を離す。玲夢はそのまま、必至に家まで逃げかえって行った。

「兄さん、格好良いね。女の子を逃がして自分だけ残るなんてさ」

「"黙"れ!」

話しかけてきた不良の口が塞がれた。蘭呶はいつに無く怒っていた。

楽しい時間を壊された事に…

「どうしたんよサイトー」

サイトーと言うのは口を塞がれた不良の事だろうか、今となっては関係無い。

「お兄さん達…、ここに"並"んで」

蘭呶の指定した場所に不良達が並び出す。

「なんだ!コレ!」

「体が勝手に」

不良達が騒ぐが蘭呶は気にも止めずに頭の中で構築をする。

「みんなで"抱"きあえ」

不良達──4人くらい──はみんなで抱き合う。

まるで、初めて再会した友人の様に

「"泣"け」

一斉に泣き出す…

「何なんだよ…うわぁぁぁん」

「ヒック…ヒック…意味が分かんねーよグスッ」

蘭呶は更なる事を頭に浮かべ様としたが、そう言えばこんな不良と遊んでる場合じゃ無かった。

「もう許してやるか…」

蘭呶は呟くと振り返り去って行く。

不良達は、まだ抱き合って泣いている。

蘭呶の効果は永遠と言う訳では無い。もちろん、記憶を忘れさせる言葉は永遠に効くのだが──人間の脳に新しい記憶が入ってくるため──先日、ヤクザを消したのだが、あーゆー容量がデかい物になると継続時間は短くなる。実際に、消えたヤクザは3時間後くらいに戻ってきた。

つまり、今抱き合って泣いている不良達は良くて朝まで泣いているくらいしか効果は持たない。

蘭呶はこの能力の神髄を知っていたので、不良達をこのままにしてこの場を去って行った。

「玲夢はちゃんと逃げたかな…家がどこだか知らないけど、大丈夫かな」

トンネルから歩いて10分ちょっとした上り坂を上ってよく吠える犬が居る家の前を通ると蘭呶の家はある。

蘭呶が通ると犬は吠えるので、毎日の様に"黙"らせてから家に入る。

でも今日は違った。いつもの犬が鳴かない…やっと、わかってくれたのかと思い玄関を開けた。

「ただいま……」

小さく呟き中に入ると、妹の縷々が駆け寄って来る。

「お兄ちゃん!大変なの!倒れてたの!」

縷々は息を切らしていた。この短い距離で息を切らすとはよほどの事だ。

「誰が?父さん?母さん?姉さん?」

蘭呶は縷々が指さす部屋へと走る。大変だ!まだ意識があるなら俺の力で治せるかも…。

蘭呶は力一杯に部屋のドアを開けた。

バンッ!

扉は壊れそうなくらいに開き放たれた。

部屋の真ん中に布団が引いてあり、誰かが寝ていた。その布団の隣には、母親が心配そうに看病をしている。

その隣では、父親が本を読み何かを探している。

そんな父親の前には瑠菜が寝ている人の顔を覗き込んだりしていた。

「………あれ?」

蘭呶は声を漏らした。

母親も父親も姉さんも妹も、元気だ…誰が寝てるんだ?蘭呶は不思議に思った。

瑠菜が蘭呶の方を振り向いた。

「あっ…おかえり」

いつもと同じ口調で話をする。

「この子、あんたと同じ学校の子じゃ無いの?」

寝ている誰かを指さす。蘭呶の位置からでは顔は見えなかったので、蘭呶は部屋に入り寝ている誰かの顔を覗き込んだ。

「え゛っ!」

そこには見たことのある顔があった。と言うよりも、ついさっきまで一緒に居た子…

「玲夢!どうしてここに?」

玲夢は気を失っているのか、蘭呶の声には気づかない様子だ。

「この子、ウチの前の所で倒れてたんだよ…。さっきまで、ずっと逃げなきゃ逃げなきゃって、うなされてて」

まさか!蘭呶は驚いた。蘭呶は玲夢の家に逃げる様に力を使ったのだが、蘭呶の思考の中で自分の家を想像してしまったのかも知れない。いや、きっとそうだ!それしか考えられなかった。

「まさか、蘭呶…この子に力を使ったのかね?」

父親がいつもより厳しい表情になる。

蘭呶は無言で頷いた。

「力を使う時は注意しろと言ったハズだよね?」

蘭呶の表情が曇り始めた。

「何で使ったんだい?」

父親の声は段々と怒ってきたように聞こえる。

「玲夢と一緒に帰ってて、不良に絡まれて助けようとして玲夢を逃がしたんだけど…俺、頭ん中で構築したのが玲夢の家だと想像したのに…」

蘭呶は少し喚惜を上げながら単語だけを続けて話す。

「そうか…どういう訳か、蘭呶は自分の家を想像してしまったんだな。それで、この上り坂を全速力で上り酸欠で倒れたと言った所か」

父親はふむふむと頷いた。蘭呶は玲夢の顔を見つめていた。

「ごめんな玲夢…。俺があの時に逃げろなんて言わなきゃこんな事にならなかったのに」

そんな蘭呶の嘆きを無視しながらも瑠菜が声を上げた。

「一緒に帰ってた?一緒に?蘭呶が女の子と2人で?」

部屋の空気が静まり帰った。確かに蘭呶は言っていた…一緒に帰ったと。

「まだ、私達が見知らぬ謎があったのね」

母親がポツリと呟いた。

「ふむ…今夜中にその謎を解明しようじゃ無いか」

父親も呟いた。

「玲夢って言ったけ?彼女とはどんな関係なの?」

瑠菜はニヤリと笑い蘭呶を攻める。

「別に…ただの友達だよ」

蘭呶は目を反らしたが、その一瞬の行動に瑠菜は気づいた。

「ははーん。好きなのね!朝言ってた子でしょ!」

はいその通りです!なんて言える訳も無しに、蘭呶は慌てて否定する。

「春ね…」

母親が呟いた。

「春だな…」

父親も呟く。

「春か…」

瑠菜も呟いた。

「"忘"れろ!!」

蘭呶は叫ぶ…が、蘭呶が叫ぶ前に全員で耳を塞ぐ。

「甘いわよ蘭呶!アナタの行動はお見通しよ」

何か悔しかった。いや、悔しい!ここまで、行動を見透かされていたなんて…。

「さぁ、蘭呶…お姉ちゃんに、話してごらん」

瑠菜が本気で蘭呶に掴みかかる。蘭呶は逃げ場を失い右往左往している。

この場から逃げれる手段はただ1つ!蘭呶は叫んだ。

「"起"きろ!」

小さな声が聞こえ玲夢がうっすらと目を開けた。

見知らぬ天井が見え玲夢は慌てて飛び起きた。

「へっ?あれ?ドコ?ここ?」

玲夢は回りをキョロキョロ見出した。

ちっ!

瑠菜はその手があったかと言う感じに舌打ちをすると蘭呶を離す。

「あれ?蘭呶…君のお家…?」

辺りを見回すと、年輩の女性と男性、蘭呶と少し年上らしき女性…多分、蘭呶の家族だろう。玲夢は思った

玲夢は記憶を1つ1つ思い出す。

蘭呶と帰り、不良に絡まれて急に逃げ出したくなり蘭呶を置いて逃げてしまった。その後は夢中で走っていて憶えて無いが何と無く憶えているのは、この家に行けば安心だと思った。

この家に着いた事は憶えているが、その後が思い出せない…

「私、何でここに来たんだろ…」

玲夢の呟きに誰も答えは出さなかった。説明が出来ないから。

「ほ…ほら、過ぎた事は気にしないで目を覚ましたんだから今度は家まで送るよ」

蘭呶は慌ててその疑問を吹き飛ばすかの様に話す。

「でも…送るのは、ご飯の後で良いんじゃ無い?」

母親がにっこり笑いながら時計を指さした。

時計の針は夜の7時を指している。

「えっ!?いえ…そこまでお世話になる気は…」

ぐぅぅぅぅ…

玲夢のお腹が部屋中になり響いた。真っ赤な顔をしてお腹を押さえる。

「お腹は正直ね!今から作るから少し待ってなね」

母親は玲夢をポンポンと撫でると台所に向かった。

「さて…私はご飯の前にビールを飲まなきゃな」

父親も母親の後を追うように部屋を出ていった。

「じゃあ私は、勉強しなきゃ駄目じゃん!」

瑠菜は意味不明な逆ギレをしながら部屋を出ていった。

部屋には蘭呶と玲夢だけが残される。

「あっ!蘭呶…君、その〜あの…ごめんなさい!」

急に蘭呶に謝る玲夢に蘭呶は少し驚いた。

「私、あの時──不良に絡まれた時──蘭呶を置いて1人で逃げちゃったの!」

玲夢は少し泣きそうな表情をしていた。そんな玲夢の表情にも蘭呶はドキッとした。

「えっ…ああ…いや…別に平気だよ。怒ってなんか無いから大丈夫だよ」

何が大丈夫なのか蘭呶にもよく分からずに答えた。

「うん…でも、家族の人達にも迷惑をかけちゃったんじゃない?」

玲夢は部屋の扉を見た。何もヘンテツのない扉。

「いや…そんな事は無いよ。(そもそも俺のせいだし)」

蘭呶は最後はボソッと呟く。

「?…何か言った?」

玲夢は聞き返す。

「へっ?いや別に…何にも言てなよい!」

当然の如く、言葉を噛みまくる。

あんまり人と話すのを慣れていないのか少しばかりの会話は噛みやすい。

くすっ…

玲夢は小さく笑う。

ああ…もう何か幸せだ。こんな時間がいつまでも続けば良いのに…。蘭呶の頭の中は"幸せ"と言う言葉で一杯であった。

「何か蘭呶とこんなに話したのは久しぶりだよね?」

「えっ?…うん。まぁ…」

蘭呶は曖昧な答えを出した。久しぶり…と言うより初めてじゃ無いかと蘭呶は思った。

「あれ?憶えて無いのかな?中学の卒業式の前日に教室で語りあったのになぁ…」

中学?中学の卒業式の前日…。蘭呶は思い出そうと必死に考え込む。

確か中学のあの日…


(回想)中学の卒業式前日


俺は、ずっと教室で窓の外を眺めていたんだ。

誰も居ない放課後の教室で…

これで義務教育9年が終わった。もう、誰とも顔を見せなくても良いんだ。

卒業したら何をしようかな…

このまま仕事を探すってのも1つの手だな。

ずっと1人でいいや…

友達も要らないし、信頼できる仲間も要らない。

俺はずっと孤独で人生を終わらせたい。

そんな事を思いながら窓の外を眺めていた。

しばらく眺めていると、急に教室のドアが開いた。

顔を覗かせたのは、蘭呶が何となく3年間好意を寄せていた女の子…玲夢だった。

蘭呶は振り返ったが、また窓の外を眺める。

玲夢は忘れ物をしたのか自分の机をあさるとまた教室を出ていこうとした。

しかし、蘭呶の事が気になったのか教室出ないで蘭呶の前の席に座る。

蘭呶はあまり気にも止めなかった。

「ねぇ…何を見ているの?」

「別に…」

別に何を見ていると言う訳では無かったので適当に答える。

「蘭呶君は、私の名前を知ってる?」

突然の質問に蘭呶は一瞬だけ玲夢を見た。

「玲夢…だろ?」

「あっ…良かった。蘭呶君てあんまり喋らないから、みんなの事を知らないのかなって思ってた」

「そうか…そう思ってたならそれで良いんだけど」

蘭呶はふっきら棒に答える。

「えっ違うよ!そういう意味で言ったんじゃ無いよ…ただ」

玲夢は気まずそうに顔を伏せた。

そして長い沈黙…

「な…なぁ玲夢は、この3年間楽しかったか?」

沈黙を打ち破り蘭呶が言葉を出した。

蘭呶からのいきなりの質問に玲夢は少し戸惑っていた。

「えっ…うん。楽しかったよ!みんなと遊んだり恋をしたりしてさ」

日が少し沈み夕陽になる。夕陽のせいなのか、玲夢の顔が少し赤くなったような気がした。

「ふーん…恋か」

蘭呶はその単語が少し気になっていた。もしここで、誰が好きなのかを"教"えてくれ!と言ったら素直に教えてくれそうな気がしたが、蘭呶は敢えて言わなかった。

「蘭呶君は恋はしなかったの?」

俺は玲夢の事が好きなのかな…。蘭呶は悟られない様に窓の方を見ながら答えた。

「俺は"恋"なんて…あっ!いや…今の"嘘"!"嘘"だから"嘘"」

相手に伝わってしまったか、蘭呶はそっと玲夢の顔を見た。

「えっ?何が?どうかしたの?」

玲夢は今の蘭呶の言葉に少しだけ興味を持っていた。でも、とりあえず伝わって居ない様だ…ホッと肩を下ろす。

「玲夢ー!ノート見つかった?」

大声で教室に顔を出したのは彼女の友人だろうか…友人は教室に入るなり少し驚き立ち止まった。

「あっ…ごめん。邪魔しちゃったかな」

失敗したと言う顔をしながら友人はそのまま立ち去ろうとするが、玲夢は慌てて席を立ち友人の方へ駆け寄った。

「あっ待って!今、行くから…あっ蘭呶君!またね!」

玲夢は出口付近で一旦振り返り、蘭呶に手を振る。蘭呶は釣られて手を振り返した。


(回想)終わり


「ん…確かにあったなぁ…」

蘭呶は鼻の頭を描きながら玲夢の方を向いた。

「あのあと、蘭呶がどこの高校に行くのか聞いてなくて慌てて教室に戻ったんだけど、いつの間にか居なくなっててさ」

「あー…そうだっけ?」

確か、玲夢が教室を出た後は帰るのがダルくなり自分に力を使った様な気がした。

言葉は"翔"

家まで奇跡の大ジャンプ…途中で落ちそうになり、焦った気がした。

「でも、何か同じ高校で同じクラスになって同じ班になったりして良かった…」

玲夢の"良かった"とはどう言う意味であろう。

蘭呶は疑問に思う。

その意味を知ろうと玲夢に話しかけようとした時だった。母親の馬鹿デかい声が響いた。

「ご飯出来たわよ〜!」

部屋のドアを乱暴に開く。

部屋の外には"何故"かコップを持った姉妹が座っていた。

「知ってると思うけど、アッチの小さな方が妹の縷々。アッチのデかい方が姉の瑠菜」

蘭呶は2人を睨み玲夢に紹介をした。

2人は苦笑いをしながら慌ててコップを後ろ手に隠す。

ぺこりと玲夢は2人に頭を下げた。

蘭呶は先に立ち上がると玲夢に手を伸ばした。

「ほら、"立"てるか?」

玲夢は手を捕まらずに立ち上がる。2人も同時に立ち上がった。

「あれ?ゴメン…何か無意識に立ち上がっちゃった」

蘭呶は今だけ能力を恨んだ。こんな時に発動するなんて…

「いや…良いよ。大丈夫大丈夫」

蘭呶は手を引っ込めると台所に玲夢を案内した。

その前に、2人が立ち尽くしている所へ行きニコニコしながらポンと肩を叩き、2人の耳元で呟いた。

「"忘"れろ…」

瑠菜と縷々はしばらくボーっとしていたが、直ぐに立ち直る。

「ヤバい!蘭呶にやられた…」

瑠菜はガックリと肩を落とした。いくら思い出そうとしても、盗み聞きした部分だけ思い出せない。それは、縷々も同じだった。

蘭呶は2人から離れると、玲夢の案内に戻った。

「ねえ、お姉さん達に何かしたの?」

玲夢は不思議そうに蘭呶に聞いた。

「さぁ…何も無いけど」

蘭呶は口笛を吹きながら歩く。チラっと玲夢の方を見ると、玲夢は何があったのか分からない表情をしていた。

「ご馳走様でした」

玲夢は頭を下げた。

「良いのよ。何か大した物が出来ないんだけど」

母親が手を振る。

「そんな事は無いですよ。私の分まで作って頂いて…」

「そんな事は無いわよ。ウチには1人馬車馬の様に食べる奴がいるから」

と蘭呶を指さした。

「女の子1人や2人分の量なんて大した事は無いわよ」

ケラケラと笑いながら答えた。

蘭呶は未だにご飯をがっついている。

玲夢はリビングに掛っていた時計を見ると、時計の針は8時30分を指している。

「あっ…そろそろ帰らなきゃ」

玲夢の呟きに母親は

「泊まって行けば良いのに…蘭呶の部屋に」

蘭呶はその言葉を聞いて咳込んだ。

「いえっ…そこまで迷惑はかけられませんので」

迷惑じゃ無かったら泊まるのか?と蘭呶は思った。

「何だいそうか…残念だ。君が居ると、蘭呶が良く喋ってくれて嬉しいのだが」

父親が呟いた。

蘭呶は口を拭きながら顔を上げた。机の上の料理は全て平らげている。

「2人揃って変な事を言わないでくれ。玲夢、少し休んだら家まで送るよ」

蘭呶は玲夢に視線を向けた。

「えっ…そんな。私1人でも大丈夫だよ」

「駄目駄目!女の子を1人でこんな夜に歩かせるなんて…蘭呶が居れば安心だからさ」

母親はニコニコしながら蘭呶を指さした。

「あっ…じゃあ、お願いします」

玲夢はぺこりと頭を下げる。

「蘭呶…玲夢ちゃんを襲っちゃ駄…」

「するかっ!」

突然、また変な事を言い出す父親に蘭呶は一喝する。

「ほら、じゃあ遅くなる前に行くか」

蘭呶は先に立ち上がり、玄関へと歩き出した。

「すいません!お世話になりました」

玲夢はペコペコと頭を下げながら蘭呶に着いて行く。

「また来てね〜!」

母親の声が蘭呶の耳まで聞こえた。玄関を開け門を出た所で振り返った。

玲夢は焦りながら靴を穿いていた。

玲夢を待つ間に、蘭呶は空を見上げる…夜空には綺麗な星がいくつも光っていた。

玲夢はようやく用意ができ、蘭呶の元へと駆け寄ってくる。

「あっ…じゃあ行くか」

蘭呶は顔を下げると、玲夢を見た。玲夢は笑顔で頷いた。

「玲夢の家は何処にあるんだ?」

「んーとね…」

辺りを見回して指を指した。

「あそこにあるよ」

指を指した方向を蘭呶は見た。

蘭呶の家の隣の隣の隣の正面に赤い屋根の豪邸が建っていた。

その家が玲夢の家だと驚くより、こんなに近くに住んでいた事の方に蘭呶は驚いていた。

「近っ!?」

玲夢も驚いていた。正に、こんなに近い物だとは思っていないようだった。

「うん…近いね」

「近いよな」

「何で気づかなかったんだろ…」

「何でだろな」

蘭呶の家から数百mしか離れていなかった玲夢の家。これは、送る必要があるのか?と蘭呶は思った。

「送るの良いよ…近いし」

玲夢が呟いた。

「いいよ…このまま帰っても何か怒られそうだし…」

蘭呶はそう言うと玲夢の前を歩き出した。

もう少し玲夢と長く居られると思ったのに、意外な結末で少しだけ肩を落とす。

お互いに家に着くまではあまり口を開かないで歩いていた。

玲夢の家に着いたのは、蘭呶の家を出て5分もしなかった。

「今日はありがとう。おやすみ」

玲夢は家に着くと門を入り振り向いて言う。

「いや…こっちが何か悪かったな」

家族がと言う意味で

「ううん。そんな事無かったよ。家族で机を囲んで食事をするなんて久しぶりだったから…」

玲夢の言葉に蘭呶は疑問に思った。久しぶりとはどう言う意味であろう。

蘭呶はその意味を聞こうとしたが、玲夢は玄関へと走り出した。

「じゃあ、本当にありがとう」

そう言って手を振ると、家の中へと入っていった。

蘭呶は、まあいいかと思い頭を描きながら家へと帰っていった。


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