第2章:朝
「ふわぁぁぁぁぁ…」
蘭呶は大きな欠伸をして体を起こした。
時計を見ると、短い針が朝7時を指している。
蘭呶の家は2階建てで、2階には3つ部屋があり蘭呶の部屋は3つの真ん中にあった。右隣は姉の部屋で、左は妹の部屋。
妹の部屋の前には階段があり、1階に降りると両親の部屋と洗面所とリビングがある。
蘭呶は目を擦りながら階段を降りると洗面所に向かった。洗面所では先に父親が顔を洗っていた。
蘭呶は声をかけずに後ろで待っていた。
しばらくすると、顔を洗い終わった父親が蘭呶の方に振り返った。
「おはよう蘭呶。いつに無く早起きだな」
蘭呶は返事をしなかったが父親は何も言わない。
蘭呶は喋る事を禁止されているのだ。別に家庭内暴力とかでは無く、蘭呶は無闇に何かを言ってしまい家族に嫌われるのを恐れ自分の意思で喋る事を禁止した。
言いたい事があれば、紙に書いたりなどして要件を伝える。それで十分だった。
蘭呶は顔を洗いリビングに向かう。母親が朝御飯を作って待っていた。
しばらくすると、2階から姉が眠たそうな顔で降りてきた。
「ふぁぁぁ…おはよ〜…」
姉は大学生で、いつもは昼頃に起きるのだが、今日は大事な授業があるとか何とかで起き出したのだ。続いて妹もリビングに入ってきた。
「おっはぁぁぁ…よ〜」
妹も眠たそうに目を擦りながら入ってきた。
「もうっ!瑠菜に縷々(ルル)しっかりしなさい!」
母親がフライパン片手に怒鳴る。
「だって昨日、遅くまで勉強してたんだもん」
姉の瑠菜が言う。
「私も…試験が近いから」
妹の縷々も便乗する。
「2人とも、少しは蘭呶を見習いなさいよ」
机に朝御飯を並べながら呟いた。
蘭呶は朝御飯を食べる前に一言叫んだ。
「"覚"めろ!」
2人の眠たそうな表情が一気に消え失せる。
「ありがとう蘭呶!その言葉を待ってたの!」
急に元気になった瑠菜は椅子に座る。
「まったく…もう。蘭呶の力は目覚ましの為の力じゃ無いんだからね」
母親は呆れかえって呟いた。
蘭呶は無言で笑顔になり頷いた。別に、嫌では無いらしい。
「蘭呶も、別に家では話して良いから。蘭呶も遠慮しないでドンドン話してちょうだい」
母親は蘭呶方を見た。
蘭呶は少し照れ臭そうにあさっての方向を見る。
「蘭呶、そう言えば今日から高校生活だな?友達は作れそうか?」
少し考えて首を横に振る。
「彼女とかはどうだ?可愛い子は居ただろ?」
そんな父親の問いに蘭呶は首を横に振り続ける。
「あっ…お兄ちゃん、顔が赤いよ!好きな子が要るんだ!」
縷々は蘭呶の顔を覗きこんだ。
蘭呶は慌てて両手を振り否定するが、その必死さに家族は気付いた。
「そしたら蘭呶、その子に向かって"恋"とか"愛"とか言えば…」
「瑠菜!」
父親の怒鳴り声で瑠菜は言葉を止めたが、遅かった。蘭呶は表情を曇らせる。
蘭呶はそういう不正な事が嫌いなのだ。むしろ、力を持っていると言う事を少し不利に感じてる程だった。
瑠菜はしまった!と言う顔をしていた。
「ゴメンね蘭呶!ちょっと悪ノリしちゃったんだ…」
蘭呶は頷くと席を立ち自分の部屋へと戻って行った。
「お姉ちゃん、今のは駄目だよ!お兄ちゃんが可哀想…」
縷々は心配そうに天井を見た。しかし、蘭呶は急ぎ足で階段を降り始めた。そして、リビングに入ると叫んだ。
「遅刻!遅刻!遅刻しちゃうよっ!」
かなり慌てていたのか、普通に喋ってしまう。
みんなは時計を見ると、朝8時を過ぎている。
いつの間にか、時間は過ぎていた。
蘭呶はそのまま玄関に向かい学校へと走っていく。