第1章:力
「では、これより入学式を終わります」
校長の長い話も終わり、やっと明日から高校生活を楽しむ事が出来たり出来なかったりな毎日を過ごす事になる。
少年は校門に向かった。
友達は居ない。いつも1人。
友達なんか要らなかった。どうせ俺の"能力"を知ってしまったらみんな気持悪がるに決まってる。
季節は春で桜も満開だ。
今日は少し暑いくらい…それでも少年はいつもマフラーをしていた。
髪はボサボサで、中肉中背…身長は真ん中くらいの冴えない少年。
彼はポケットに手を突っ込んで道を歩いていた。
突然、後ろから悲鳴が聞こえた。
ヤクザが道を歩いていたお祖母さんと肩がぶつかったとか何とかで揉めていた。
そこに、1人の少女が勇敢にもヤクザと対立している。
彼はその少女を知っていた。確か、同じ中学の同じクラスの女の子だった。名前は、"空"だったかな。
少女──空は、ヤクザに怒りをぶつけていた。
少年は自分には関係無いと思い歩き出そうとした。
すると、また悲鳴が聞こえた。振り返ると、空はヤクザに掴まれて身動きが取れない状態になっている。
「ちょっと!離しなさいよ!」
そんな状態になっても気を強く持っている。周りの野次馬達は見て見ぬフリをしながら誰も何もしようとはしなかった。
(俺は…こんな面倒な事はゴメンだ)
でも、同じ中学で同じクラスの女子を助けなかったと言うのは自分の中で情けなかった。
少年はため息をつくと、野次馬をかきわけてヤクザの所に行く。
「何だ?お前も俺らに文句でもあんのか?」
ヤクザは3人。1人は空を捕まえている。
少年は声に出さずに頷いた。
「おうおう!格好良いね兄ちゃん!女の子を救うために自ら死にに来ちゃった訳だ」
ヤクザは少年の前に立ちはだかる。
「あれ?君は確か…」
空は名前を言おうとしたが、名前が出てこない。彼は確か同じクラスの男子だったが、パッとしない暗くて友達も居ない影の薄い人。
空は掴まれながらも、一生懸命に名前を思い出そうとしていると、少年は小さな声で話す。
「名前…蘭呶」
そうだ!蘭呶だ!難しい漢字でなかなか思い出せなかった。
「ねえ、お祖母さんと空を離してあげてくれないか?」
蘭呶は小さな声でボソッと言う。
「残念だな!そいつは無理だわ」
ヤクザは蘭呶の胸ぐらを掴む。
「痛い目に合いたく無かったら消えろ坊主!!」
もう1人のヤクザがヘラヘラっ笑っていた。
「お前が"消"えろ!」
蘭呶は相手の目を見ながら言うと、胸ぐらを掴まれていた手が消えた。
ヒュンッ
と言う小さい音を立ててヤクザの姿が"消える"。
ヘラヘラと笑っていたヤクザから笑顔が消えた。空を捕まえていたヤクザも驚きのあまり力が抜けた。
空は一瞬の隙をついてヤクザの腕から逃げる。
「何だ?コイツ…手品師か何かか?」
蘭呶は空を捕まえていたヤクザの方を向き、片手を向ける。
「ふっ"飛"べ!」
ヤクザの体に光る文字が浮き出てきた。光る文字は"飛"と書いてある。
ドンッ!
鈍い音と共にヤクザの体がくの字に曲がると、回転を加えて後方にふき飛んだ。
「"固"まれ!」
蘭呶は振り向きざまに最後の1人を指さしながら叫んだ。
ヤクザは硬直したかの様にその場から何も動くことすら出来なかった。
空はポカンとして見ている。空だけでは無い、野次馬もお祖母さんもみんなポカンとしていた。
蘭呶は最後に叫んだ。
「"忘"れろ!」
叫んだ後にその場から蘭呶は去っていく。
残された者達は、一時期はボーっとしていたが急に我に帰った。
倒されたヤクザ達と、お祖母さんの前に立つ少女。
「スゲーな嬢ちゃん!ヤクザを倒しちまってる!」
拍手が起こった。
空はまだポカンとしていた。
「どうなっているの?」