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九十九と一の守り姫  作者: 夏八木こより
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第六話

今日、鳥山はおとなしい。

鈴梨に対してと言うよりは、クラスメートの誰とも喋らず、一日中俯いている。休み時間も昼食も、ほとんど席についたまま動かない。


「ねえ、土佐」


衣は、校内では鈴梨を名字で呼ぶ。


「あいつ、なんかおかしいね」

「おかしいって……落ち込んでいるんじゃないか? 衣に昨日叱られて」

「叱ってない。第一、叱られておとなしくなるような性格とも思えない」

「いやに辛辣だな。しかし、あんなに塞いでいるのを見ると可哀想になってくる」

「どこまでお人好しなんだよ」


小声で話し合っていると、鳥山が顔を上げてこちらに目を向けた。

それは。今までにないくらい、無表情だった。


「鳥山さん?」


思わず鈴梨が呼びかける。鳥山は返事をせず、また下を向いてしまう。


「なんで話しかけるかな~。言ったじゃないか、近づくなって」

「すまない」


衣に叱られているのはわたしの方だな。鈴梨はこめかみを掻きながら鳥山を盗み見る。確かに塞いでいるというよりは、心ここに在らずと言うべきかもしれない。

鳥山から嫌がらせを受け始めたのはいつだったか。おそらく去年の秋半ば頃だったように思う。つらくなかったと言えば嘘になる。けれど祖父に心配をかけたくなくて、鈴梨はじっと我満し続けた。それに、決して鳥山は――


「土佐は甘過ぎるんだよ。もっと危機感持ちなよ。絶対二人きりになっちゃダメだからね!」


うん、と鈴梨は返事をした。

内心では、衣の警戒心は過剰でないかと感じていた。あるいは過保護だとも。

鳥山の今の様子は気になるけれど、殺意を本気で感じたというのは衣の思い込みではないか。多重人格という推測に至っては、ただの想像でしかない。

鈴梨は信じたかった。

よもや、衣の思い込みや想像が真実であったとは、そのときの彼女には考えられなかった。






放課後。

衣は委員会に出ている。一緒に帰るから待っていて、と言われたので鈴梨はおとなしく待っていた。

ふと教室の後方にある黒板に目をやると、日直が消し忘れたメモ書きが残っていた。暇なのも手伝い、それを何気なく消していると。


「土佐」


昨日以来の呼び声に、ハッと鈴梨は振り返った。

鳥山がまっすぐこちらを見ている。だが、どこかおかしい。まっすぐなようでその視線は、焦点が合っていない。そして、なぜかニタニタと笑っている。良くも悪くも、笑いかけられたことなどないのに。

――まずい。鈴梨は、衣の言葉をようやく実感した。鳥山が「おかしくなった」ことをようやく悟った。


「土佐」


笑ったまま、じりじりと近寄ってくる。鈴梨もまたじりじりと歩を下げた。

いつの間にか、教室には誰もいなくなっている。衣はまだ戻らない。


「土佐」

「なんだ」


返事をした瞬間。


「死ねぇぇっ!!」


絶叫と共に鳥山が飛びかかってきた。

鋭利な爪が鈴梨の目を狙う。咄嗟に両腕でそれをかばうが、袖のあたりを切り裂かれてしまった。まさか人の爪程度で厚い制服が裂けるなんて、と驚愕する。

そして腕に刺すような痛みが生じた。鮮やかな赤がじわりと滲み出、ぽたりと雫になって足元に落ちていく。

思わず背を向けてドアの方へ逃げようとすると、髪を捕まれ後ろ向きに引き倒された。凄い力だった。

そのまま覆いかぶさってくる鳥山に、首を絞められる。


「がっ……」


鈴梨は必死で鳥山の手首を握るが、まったくびくともしない。

鳥山の目は振り子のように揺れ、その唇は真っ赤に充血して不自然なほどに吊り上がっている。


「土佐、貴様を殺す。貴様を殺せば、おれはヒャッキになれる。だから殺す、殺す!」


おれ? ヒャッキ? なんのことだ? ……おまえは誰だ?

遠のきつつある意識の中、鈴梨は、“これ”は鳥山ではないと確信した。

だからと言って、今さらどうしようもない。なす術はない。身体中が強張り、麻痺していく。

わたしは死ぬのか。死ねば、鳥山が殺したことになるのか。“これ”は鳥山じゃないのに。

そんなのは、鳥山が気の毒じゃないか。


「と、とりや……」


残る力を振り絞り、鈴梨は手を伸ばした。そして鳥山の頬に触れた。

その瞬間、鳥山の力が少しだけ弱まった。



『そこまでじゃ!』



突然、甲高い子どものような声がこだました。




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