第二話
「あれっ。すーちゃん、そんなリボン持ってたっけ?」
背後から見て、衣は鈴梨の数少ない変化に気がついた。
腰まである長い髪をうなじで一つに結ぶ、その色気のないヘアスタイルはいつも通りだが、今朝はそこに大きな彩りがある。
「ああ。お祖父ちゃんが昨日くれたんだ。お祖父ちゃんの手作りだぞ」
「おぉ~。さすがおじいさん、器用だなぁ。センスもすごくいいよね、すーちゃんに似合ってるよ」
鈴梨の唇の端がわずかに上向き、照れたようにうつむいた。それは感情があまり表に出ない彼女の、喜んでいる時の表情だ。
衣の言葉もまったくお世辞ではなかった。それは派手ではないが鮮やかな紅色で、しっとりとした光沢があって、つやつやとした黒髪によく映える。
リボンの真ん中には菱形の留め具が付いている。目を凝らすと木目が見え、小さな穴が二つ空いている。これは木製のボタンだ。よく磨かれていて品がいい。
……この髪留め、売り物にしたらけっこう、いい値段をつけられそう。衣は内心いやらしいことを考えてしまった。
「おじいさん、いい品物揃えたんじゃない?」
「いや、リボンの生地は古着の端切れで、ボタンはお店を掃除してたら見つけた拾い物だって言ってた」
「……リメイクでそれだけ素敵なものを作れるってのも才能だよね」
「うん、わたしもそう思う。お祖父ちゃんがわたしのことを考えて作ってくれたこと、とても嬉しい」
それを聞いて、衣は金勘定に走ってしまった自分が恥ずかしくなった。と同時に、微笑ましい気分で満たされていく。
鈴梨の言葉には嘘がないからか、話していて気持ちが良い。
もとは高額だとか、でも不要品だとか、鈴梨はそんなことには頓着しない。心の中には、男手一つで育ててくれた祖父への愛と感謝しかないのだ。
「衣、お祖父ちゃんが今度はみたらし団子を作るって言ってたぞ」
「ええっ!? マジで!? また藤原家の食卓が戦場になっちゃうよー!」
「いらないのか?」
「ありがたくいただきます。ください。ぜひちょーだい。ぼくはおじいさんの和菓子シリーズに夢中です」
「素直だな。わたしはあなたのそういうところが好きだ」
衣もこの幼馴染みと、自分のことを孫のように可愛がってくれる彼女の祖父が大好きだ。