12/25
昔はイベントごとにカウントダウンをしていたものだ。
バレンタイン、誕生日、ハロウィンにクリスマス。
サンタの正体を見破ろうと夜遅くまで起きていたり、枕元に置いていたカラフルな包装紙に心が躍ったりしたものだった。
しかし時の流れは残酷なもので時間は私に思春期をもたらした。
「奈々子?起きているのだったら手伝ってくれない?」
お母さんの声が聴覚神経を刺激する。
「奈々子?ねぇ、奈々子ってばぁ」
「うるさいっ」
想像より大きい私の発した声は得体のしれない憤りを増加させた。
「なによぉ?大きい声出しちゃって、そんなんじゃサンタさん来ないわよ?」
お母さんが部屋に入ってきた。
「サンタなんて・・・」
「え?なに?聞こえないわよ」
「もぉ、何でもいいから出てって」
勢いに任せてお母さんの背中を押した。
「なぁに?イライラしちゃって」
「何でもない」
違う、こんなの私じゃない。
「そぉ?あっ、お昼何がいい?」
「いらないっ」
思考よりも早く言葉が出てしまう。
「なに?ダイエット?好きな男の子でもできたの?」
このお母さんのペースに引きずり込まれていく感覚が大嫌いだ。
「違うし何でもいいでしょ」
違う、違う、私が言いたいのはこんな事じゃない。
「あら、どんな子?ねぇ?かっこいい?」
尚も続くお母さんの質問攻めはどんどん私を追い詰めていく。
追い詰められた私の心は得体のしれない何かに侵食されていく。
「何がそんなに楽しいのさ?こっちにはこっちの事情があってこっちにはこっちの人生があるの、あんまり干渉しないでよ」
もう嫌だ、自分の感情はうまくコントロール出来ないし、お母さんには思ってもないことを言っちゃうし・・・
「はいはい、ごめんなさいねぇ」
「いい加減に・・・」
私は財布と携帯を片手に玄関を後にした。
イライラする。
私の気持ちを無視して勝手に動き出すこの口も、お母さんのあの態度も、幸せそうに歩くあのカップルも、全てが私を刺激する。
SNSを立ち上げメッセージを送る。
『今時間ある?』
しばらく経った後読んだことを示す既読のマークがついた。
『あるけど、どうかしたの?』
『今から行く、話はそっちで』
返信が来るなり物凄い速さでメッセージを送る。
『ん、分かった』
了解の意を受け取ったが速いか私は斜向かいの家に行き、チャイムを連打した。
「はいはい、分かったからチャイムを押すのをやめろ」
ドアの向こうから聞きなれた男の子の声が聞こえた。
「時雨、遅いっ」
「ごめん、ごめん、まぁ入りなよ」
時雨という男の子は斜向かいの家の同い年の男の子だ。
「で?どうしたのさ、クリスマスに息巻いちゃって」
「それがさぁ・・・」
それからしばらく家での出来事や得体のしれない何かの事、私の不機嫌の理由を全て愚痴った。
「それで?奈々はどうしたいのさ?」
「それは・・・」
自分がしたい事、伝えたい事。
全部分かっているはずなのに言葉にならない。
「落ち着いて?ゆっくりでいいから」
時雨が目を閉じる。
「ほら、目を閉じてゆっくり息をはいて?」
言われるがまま息をはく。
「次は吸って」
「そしてはく、自分の中に溜まっている全てをはきだすようにして」
深呼吸を何回か繰り返した後、時雨が口を開いた。
「奈々、もう一回聞くよ?」
「奈々はどうしたいの?」
息が詰まりそうになる。
でも・・・
「謝りたい、素直になりたい、私の事を知ってほしい・・・」
堰を切ったように私の言葉は次から次へと流れ出る。
涙で顔はぐちゃぐちゃだ。
「大丈夫、大丈夫」
時雨が背中をさすってくれている。
だんだん落ち着いていくにつれ恥ずかしさがこみ上げてくる。
「もう、大丈夫だから・・・」
「水持ってくるよ」
時雨が部屋から出て行ったその直後ピンポーンというチャイム音と共にお母さんの声が聞こえた。
「おばさん、こんにちは」
「あらぁ時雨君大きくなっちゃって」
「もう、高校生ですしね」
「そうよねぇ、あっ、そうだ奈々子来てないかしら?」
「あぁ、来てますよ?ちょっと待ってくださいね」
「いつもごめんねぇ」
「いえいえ」
廊下から聞こえる時雨の足音はどこか優し気だ。
「奈々、分かっているよね?」
時雨は静かに微笑んだ。
「でも、まだ心の準備が・・・」
「はいはい、早く行きな」
時雨は強引に私の手を掴んで引っ張っていった。
「ちょつ、待って・・・」
「待たないよ、クリスマスくらい素直になんなきゃ」
クリスマス。思春期に入ってから他人の誕生日を祝うことに何の意味があるのだと思っていた。
「素直になれたらいいことあるよ」
時雨が少し悪戯っぽく笑う。
「奈々子、やっぱりここにいたのね、昔から変わんないんだから」
お母さんはいつもと変わらない独特な雰囲気で話しかけてくる。
「ありがとねぇ時雨君」
「いえいえ、どおってことないですよ」
「そうだ、家にごはん食べに来ない?お礼もしたいし」
困ったように時雨が答える。
「せっかくですが、遠慮しときます」
「あらそぉ?遠慮する必要なんかないのに」
「すみません、これからちょっと用事があって・・・」
「あらそうなの、残念ね、じゃあまた今度いらっしゃいね」
「ありがとうございます」
「それじゃ、奈々子、帰りましょうか」
「奈々、ちゃんと伝えなよ」
時雨の声に振り向くと、そこにはいつもの時雨がいた。
「うん」
いまだ赤いであろう顔で頷くとお母さんの手を掴んで外に出た。
「どこに行くの?奈々子?」
「お母さん・・・クリスマスツリー見に行こっ」
私は早口でそう言って昼間の街を歩き出した。
いつもはあっという間の広場までの道が長く、何倍にも感じる。
一言も喋らない二人の距離をクリスマスの雰囲気が何とか繋ぎ止めてくれている。
そうだ、広場までの残り道のカウントしてみようかな。
顔も知らない神様の誕生日なんて私にとってはどうでもいい事だ。
だけど、今日だけは顔も知らない、全然私とは縁もゆかりもない神様に少しだけ感謝してもいいと思っ
た。
広場には誰もいない。
節電のために消灯されたクリスマスツリーがあるだけだ。
「奈々子?なんでわざわざツリーなんか・・・」
私は息と共に、私の中にある恥ずかしさを全部はきだした。
「お母さん、あのね・・・」
お久しぶりです!!って言っても更新を途中でやめるような作者の事を覚えているわけありませんよね・・・
どうも、宥凪です。
いろいろとやらなくてはいけないことがあり、新天地に慣れるまで時間がかかってしまいました。
しかも25日以内に投稿するはずが26日になってしまった・・・
申し訳ございませんでした。
これからは、少しずつ投稿していけたらなと思います。
そして、ここまで読んでいただきありがとうございました。
ブックマーク、コメントをしていただけたら幸いです。
では、またお会いしましょう。
~宥凪~




