1 日曜日
三部作の第一部です。
テーマは「生きる意味」
年代は、1999年と世紀末の設定をしています。今よりもネットが複雑化していないない時代設定にしています。
ひふみは、体に鉛を巻きつけているかのように、ベットに深く沈んで動かない。
携帯がなり、目を覚ました。夏の強烈な西日がブラインドから差し込んでいる。
部屋には、本が散乱している。その隙間から、携帯の着信音が鳴っていた。テーブルの上には、タバコと飲みかけの缶コーヒーと山盛りになった灰皿。ベットの正面には一枚の絵が飾ってある。キッチンはきれいに整頓されている。
ひふみは、テーブルからタバコをとり、ジッポで火をつけ、深く吸い込んだ。ベットの正面に飾ってある一枚の絵をじっと見つめ、思い出に耽っているようだ。そのうち、携帯の着信音が止んだ。
「また日曜日を寝過ごしてしまった。」
電話で起こされるのが何よりも嫌いなひふみだが、日曜の夕方ならしかたないと、本の隙間から携帯を見つけ出し、着信履歴を確認し、しぶしぶ電話を掛けなおした。友人のかずきからの電話だ。
かずき「おい、生きてるか!ひふみん!」
ひふみを愛称の「ひふみん」と呼ぶのは、同級生の友人だけだ。本名は「一二三」と書いてひふみと読む。将棋が好きで、そうよばれるようになっていた。
ひふみはひさびさに、ひふみんと呼ばれ、すっと意識が生まれ故郷に足が向いていた。
かずき「ひふみん、お盆帰ってくるんだろ?」
ひふみの地元は北海道の田舎町で、高校を卒業すると、ほとんどが進学や就職のため、町を離れてしまう。だが、仲の良い友達と年一回集まり、酒を飲んで一年の鬱憤を晴らしていた。
ひふみ「ああ、帰るよ。墓参りもあるしな。」
かずき「おまえは、そうゆうとこ律儀だよな。毎年かかさず墓参りしてるよな。」
ひふみ「人は二度死ぬって、知ってるか?」
かずき「なんだそれ?」
ひふみ「一度目は、生命体としての死、二度目は、みんなから忘れられたときだよ。」
かずき「なるほどな。」
ひふみ「だから、年一回、墓参りに行って、じいちゃん、ばあちゃん思いだしてたら、俺が生きているうちは二度死ぬことはないだろ。」
かずき「それは、誰からの受け売りだ?」
ひふみ「いや、自分で墓参りの意味を考えてたら、たどり着いた答えだよ。」
かずき「ひふみんは何でも答えを求めるよな。」
ひふみ「どんなことにも意味はあるんだよ。必然で世の中は出来てるんだぞ。」
かずき「むずかしいことは、わからん。」
ひふみ「気にするな。趣味みたいなもんだから。そんなことより、用事はなんだ?」
かずき「ああ、毎年集まって飲んでるけど、今年は俺、二人で行くわ。」
ひふみ「ん?」
かずき「結婚するんだよ!」
同級生の友達の中で、かずきだけが地元に残り、毎年、中心になって飲み会を開いていた。
ひふみは、友人の中で一番最初に結婚するとしたら、かずきが一番最初と考えていたが、24歳と思っていたよりも早くて驚いた。
ひふみ「まじか!おめでとう!」
かずき「おう!飲み会のとき紹介するわ。髭くらい剃って来いよ!」
ひふみ「毎日、剃ってるわ!」
かずき「お前はどうなんだ?彼女できたか?学生の頃はサッカー部のキャプテンで、身長も高くて、試合のときは、熱い視線浴びてうらやましかったぞ!」
ひふみ「仕事ばっかりで、出会いがないんだよ。」
かずき「出会いなんてその辺にいくらでもあるんだよ。お前がその気がないだけだろ。」
ひふみ「そうかもな。仕事のことしか考えてないからな普段は。」
かずき「お前らしいな。今度、ゆっくり話そうぜ!」
かずき「じゃあ、帰ってきたら連絡くれ。」
ひふみ「おう。じゃあ、またな。」
ひふみは、時が経つのが早いと感じた。仕事しかしていないからだ。学生時代は彼女がいたが、社会人として働き出し仕事漬けの日々で、「あなたは、仕事と結婚すれば」と吐き捨てられ別れて以来、彼女がいなかった。
昨日、帰宅するとき乗った定年まじかのタクシー運転手が、ひふみを見て「飲みの帰りかい?いいねぇ。」と話しかけてきた。土曜の深夜にネクタイを外してるスーツ姿の男を見れば、そう考えるのがあたりまえだろう。しかし、実際はコーヒーを飲みながらネクタイを外し深夜まで残業してくたくたになっているだけだった。
こんな生活を3年も続けていれば、友達は遊びには誘ってくれなくなっていた。
ひふみは、友人との会話ですっかり目が覚めた。とたんに、自分が空腹であることに気づいた。
普段はコンビ二ばかりだが、日曜日ということもあり、外食するようだ。一人で食事することに慣れているひふみだが、一人では味気がないと感じていた。だが、一緒に食事したい人が思い浮かばなかったようだ。いきつけのラーメン屋へと、足を進ませた。
道路を渡った向かいに、ひふみが学生のときから通っているラーメン屋がある。ラーメンとチャーハンセットで850円とおとくでうまい。しかし、繁盛しているかといえば、そうとも言えない。数日前、ひふみは、町金の取立てのようなやつらが出入りしているのを見てしまったからだ。店内に入ると、どうでもいいジャズが流れている。いつも通りのメニューを注文しようと待っているひふみに、店員が水を持ってきて、「たまには友達つれてきな。」と一言。ひふみは、経営が良くないの知っているが、、余計なお世話だと心でつぶやいていたものの、いつもチャーシューを一枚多くしてくれているので、「今度ね!」と笑顔で返していた。
ひふみは、おなかも満たされたようで、定番の本屋に足を向けた。休みの日は、徒歩10分圏内で用事を済ませるだけの生活を送っていた。本屋につくと、いつもの仕事関連の本を読み漁り、気になる本を買っていた。いつも通りの行動である。そして、読みかけの本が、部屋に山積みになっているのである。たまには、小説でも読んでみるかと思い、店内をぶらついたようだが、興味の持てる本がみつからないようだ。
ひふみは帰宅しようと広いロビーに目をやると、人だかりを発見した。何かと思い近ずくと、なにやら、これから弾き語りが始まりそうだった。名前を見ても知らない歌手だった。ひふみは、洋楽しか聴かない。歌詞に共感できる歌手がいなかったからだが、気分転換になればと、期待はしていないが観衆の一部にまざっていた。
プロのシンガーソングライターで、ギター一本で弾き語りをしながら、CDを手売りし、全国を回っているようだ。年齢は30代後半の男性。長身でがっしりした体格。顔は日焼けして真っ黒だ。ギター一本で歌い始めた。マイクなしでも店内の雑音をかき消し、ひふみは一気にライブ開場にいるような錯覚に陥った。
地道に歩んできた道のりを、歌詞にしていた。
ひふみは、ただじっと視線をずらさず、立ち尽くしていた。
「いつかあなたが 誰もいない終点で その旅を静かに終える日が来ても 耳を澄ませば聞こえてくるはず 空から降り注ぐ祝福と喝采と ・・・・」
ひふみは、共感はできなかったが、人それぞれの生き方があるんだなと、考えさせられた。
歌が終わると、一枚一枚にサインしながら、手売りしていた。仕事ばかりでお金を使う暇も無く、たまる一方なので買うことにした。ひふみも列に並び、記念に今日の日付「1999.7.25」とサインをCDに書いてもらい、握手した。とても力強く分厚い手だった。いろいろなことが頭をよぎった。
そして、帰路についた。
もう外は陽が沈み暗くなっていたが、星は一つも見えない。だが、もうひふみは慣れてしまっていた。
アパートに着くと、携帯がなった。姉のりえこからだ。3つ上で、地元で就職し結婚している。唯一、ひふみがなんでも相談できる相手だ。
ひふみ「なんか用か、ねぇちゃん」
姉 「ひふみ、お盆帰ってくるんでしょ?」
ひふみ「帰るよ」
姉 「そろそろ、女の子連れてきてもいいんだよ。」
ひふみ「うっせー、仕事で忙しいんだよ!」
姉 「同級生のかずき君も結婚するって知ってる?」
ひふみの姉は町内の出来事は何でも知っている。
ひふみ「さっき電話で聞いたよ。」
姉 「先越されて、悔しくないの?」
ひふみ「そんなこと競ってねぇよ。」
姉 「冗談よ。それより、ひふみ、健康のこと考えてる?」
ひふみ「若いから大丈夫だよ。」
姉 「なんでそんなに毎日、深夜まで働かなきゃだめなの?会社変えた方がいいんじゃないの?」
ひふみ「独立目指してるんだよ。学歴が無い俺は、誰よりも仕事して経験積んで、実績を出さないとだめなんだよ。そのために、毎日、深夜まで働いても辛くないし、意味があることなんだよ。」
姉 「それは、知ってるけど、体には気をつけなさいよ。」
ひふみ「わかったよ。」
姉 「そうそう、もうそろそろ母の誕生日だから、なにか用意してきなさいよ。」
ひふみ「あー、忘れてた。考えておくよ。」
姉 「じゃあね。お盆くらいしっかり休みなさいよ。」
ひふみ「じゃあ、またな。」
ひふみは姉のりえこには、頭が上がらない。小さいときから、面倒見がよく、共働きの親に代わって、母のような存在だ。去年、結婚し、旦那は公務員。ひふみも親に進められたが、自分には合わないと、違う道へ進んだ。
平日は仕事ばかりで時間が無い為、新聞を日曜にまとめ読みしている。
「2000年問題でコンピュータが誤作動して、特に航空関連が大変そうだが、本当にトラブルが起きるんかね。」
「ノストラダムスの大予言は今年の7月だよな。なんも起きてねぇじゃねぇか。」
ひふみは、ある記事で目が止まった。
「世界ではまだ、戦争が起きてるんだな。一部の人間の利益のためにどれだけ人を殺せば、欲望が収まるんだろうな。子供が、おもちゃが欲しいと癇癪起こすのとなにも変わらないのにな。」
ひふみが新聞を読み終える頃には、日付が変わろうとしていた。いつも深夜まで仕事しているひふみは、ベットに横になり目を閉じていても、なかなか寝付けなかった。そうすると、余計なことばかり考えてしまうようだ。
「俺はこのまま20代を仕事だけで過ぎ去ってしまうのか。仕事のために生きてるのか。何のために仕事をするのか。生きるってなんなんだ・・・。」
・・・そのうちひふみは、眠りに就いていた。
平成27年から7月から書き始めました。
読むのと書くのは、ずいぶん違い、自分の才能のなさにめげることもなく、連載はじめました。
まったくの趣味なので、表現方法や文法なのいたら無い点はたたありますが、試行錯誤しながら、連載を最後まで終わらせるように精進していきます。