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おしかけにょーぼは精霊さん  作者: ヤヅカつよし
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第一印~おしかけてきた○○さん(前)(N)

2018/10/19 なんだかんだで諦め切れずやりなおし版の投稿を開始しました。

さて、今から物語を始めるのだが、ここに一つの問題がある。


いや、問題というか何というかアルン=ロムレッドは齢十七歳。

その年齢にして自称『嫁』とのたまう女の子が同じ布団の中で寝ているのだ。


昨日から起こったこの出来事は夢かと思った。

彼自身、夢だと思いたかった。


だから一度カーテンの隙間から覗く青空を見て、もう一度振り返った。


…そこには何も変わらず、その女の子はそこに横たわってすうすうと静かな寝息を立てていた。

白いシーツの上で広がった女の子のクセのない長い水色の髪は、先程カーテンの隙間から見えた青空の一部がそのままそこに広がっているようにアルンは感じた。

膝裏まであった記憶のある彼女の髪は広がっているとは言え、ご丁寧にもアルンの動く範囲までは広がってはいなかった。

その水色の髪を見ていると不意に何かがひっかかるような感覚を覚えたが、一瞬前に見た青空の事を思い出してそれのことだろうともう一度カーテンの隙間から空を仰ぎ見て一人納得した。


いやしかし、それにしても隣に無防備に寝ころんでいる女の子はいささか若すぎやしないだろうか。

どう見ても年齢二桁には届いてはいまい。

少女…いや、これでは幼女だ。

健康的な一般的な児童に比べて日焼けもせずに真っ白で、透明感のある肌をしていた。

どこか現実感のない、神秘的な美しさを感じざるをえなかった。

幼女だというのに。

何故それがわかるのかっていうと、現在の彼女は裸にほど近い下着姿だからだ。

と言っても、お子様用のキャミソールとショーツは清純の代表格たる白。

先程確認したのでそれは間違いない。

二度も確認した。

…間違いない。

決してやましい気持ちがあったわけではないのだ。

あと、そんな彼女が将来的にもとんでもない美少女になるんじゃないかという予感も感じた。

これも間違いないと自信をもって言える。


(いや、問題はそこじゃぁない。そこじゃぁないんだぞ、俺!)


彼の名誉の為にも誤解を招かないように言っておくが、何もしちゃいない。

別に立たないとか、男の尊厳に関わる話でもなく…今だって意識すれば、そりゃあ息子さんは朝の元気な状態だ。

失礼。

さて、彼とてどうすればそれが治まるか知らない程の子供でもないのだが…いや、だからと言ってそれをするわけにはいかない複雑なヲトコ心でがあるのである。

最も今それをヤってしまえばこの物語が終わってしまう。

公開すらできずに闇に葬られるだろう。


「はぁ…」


クセっ毛のない黒い前髪を弄りつつ彼は恨みがましさに似た気持ちで、隣で寝息を立てている自称『嫁』で『水の精霊』という『ウェローネ』と名乗った少女を見つつ、その頬を指でつついてみた。

ぷにぷにと柔らかくて触り心地が良いが、少しひんやりとしていた。


(子供って体温高いんじゃなかったっけ?)


と思いつつも、頬を撫でながらまじまじと彼女を眺めてみる。

何度か突いているとくすぐったそうに顔を横に振った。

どう見ても、やっぱり見た目的には幼女だ。

当然、性欲的な対象にも程遠い見た目である。

そうは言っても人間以外の亜人種、ましてや人に分類されない精霊に関しては容姿は年齢の判断材料にはならないとはアルンも思っていた。


さて今しがたチラリと出たが、この物語の世界は精霊の存在や信仰は当たり前だ。

火、水、風、土の四大元素精霊を始めとして、光や闇と、我々の住む世界の日本の八百万の神々には遠く及ばないまでも兎にも角にも色んな精霊がいる世界なのだ。


特に現在地フォルナディット王国生まれの人間は精霊とは縁があり、諸兄には聞き覚えのない国名で恐縮だが、かの四大元素精霊が愛する国として有名な『グリーン王国』にあるという精霊に関する中心組織『精霊神殿(エレメンタルテンプル)』に数多く精霊使いや巫女を輩出している国としてもこの世界では有名だ。


しかしながら…。

肝心のアルンは精霊使いを志していたわけでもなく、ただただ冒険者として学んでいる最中であり…どんなに首を捻ってもその理由が思い浮かばないのだ。



(でもなぁ、すんごい嬉しそうに抱き着いてきたんだよなぁ…)


昨日の夕方頃に出会った時の事を思い出しながら、何ともなしに頬から手を移動させ彼女の小さな頭を撫でてあげると、やはりその柔らかな水色の髪はひんやりと滑らかな触り心地がした。

そのまま彼女の長い髪を梳くように手を動かすと、何のひっかかりもなく毛先までするりと抜けた。

逆に触っている方が心地よさを感じるまである。

絹の触り心地…いや、どちらかといえば清流に手を入れた心地よさだ。


人の目のある公園で幼女に抱き着かれたまま『旦那様♪』と呼ばれるのは流石にバツが悪く、かと言って放り出すワケにもいかずに仕方なく自分が住まわせてもらっている宿屋のこの一室に連れ帰って現在に至るわけだ。

断じて、たまたま近くを通りかかった衛兵が振り返ってこちらに物凄い勢いで向かって来ていたからではない。

一応それとなく宿屋や公園の近辺、一階にある食堂で迷子ではないか探ってみたがどうもそんな騒ぎが起こっている様子もなかった。


「しかし…どうしたもんかなぁ」


力なく顔をあげて見慣れた天井を見つめる。


(精霊を使役する才能とかそういうの無いと思うんだよなぁ)


視線を横に向けて改めて水色の髪の精霊を見やる。

変わらず幸せそうな顔してすぅすぅと寝息を立てている。


(そりゃあ精霊と親しくなって、認められたその瞬間から精霊使いになれるとは聞いたことあるけど…)


あくまでも、自分の師から聞いた話や講義で聞いた話ではあるが、ただ精霊の存在を感じ取り、その力を借りて魔法を使用したりというだけでは精霊使いや巫女にはなれないらしい。

精霊使いとしても最高ランクに値するには様々な高難易度な条件をクリアする必要があるとのことだった。

それに彼女は四大元素精霊の一つとされる水属性との事だ。

もし本気で精霊に関してやる気があるのならば、先に述べた『精霊神殿』でも諸手を挙げて歓迎されるだろう。


…が、だ。


彼には精霊使いとしての知識が聞きかじった程度の初歩的なことしかない上に、目的があって冒険者になろうとしている身だ。


(あーもー!どうしたらいいんだこれ!!)


口には出さないがガリガリと頭をひとしきりかきむしった後、がっくりと肩を落とす。


(その前にこの状況をなんとかしないとだなぁ…)


気を取り直して顔をあげ、隣に寝ている幼女を起こさないようにベッドから降りて…気付いた。


「うへっ、暑っ…」


窓を開けて寝ていたのだか…かなりのムシ暑さだ。

この時期は夏場が近い雨季という事もあり寝苦しい夜が続くことがある。

特に涼をとるための魔法や機械装置を持たない為、日中も水浴びしたくなるぐらい気持ちが悪い時もある。

にも拘らず、彼自身は汗も殆どかかずかなり快適な睡眠を貧っていた事に気が付いた。

そうなると考えられるのは、先程ひんやりとした感触を与えてくれた幼女の存在である。


「んんぅ…ん…あっ?」


寝ていた幼女が小さく声をあげて身じろぎした後、睫毛の長い瞼がゆっくりと開いた。

髪の色が空の色を写し取ったような爽やかな水色ならば、瞳の色は静かな湖のような穏やかな水色をしている。

その水色の瞳がぼんやりとアルンの姿を認めると、ふにゃりと微笑んだ。


「おはようございます旦那様ぁ…くぁぁ…」


瞼をこすりこすり彼女も体を起こして両手を挙げて大きな欠伸をする。

その動作一つ一つがとても愛らしい。


「昨晩はよくお休みになられておいででしたねっ。ウェローネも長旅の後のせいかたくさん眠ってしまいましたっ」


はにかむ様に微笑む姿に、アルンはちょっとだけドキッとしたことを目を逸らしてごまかす事にした。


「いや、うん…眠れたのは良いんだけれど、暑くなかったか?」


だからこそトランクスとシャツ一枚で寝ていたわけなのだが。


「はいっ!旦那様は少し寝苦しいご様子でしたので、ウェローネの体温を下げて添い寝させていただきましたっ!」


そう言って、彼女はベッドに腰かけていたアルンにぴったりと寄り添った。


「な、なるほど…おおー…」


くっつけられた腕からは子供特有の高い温度が伝わってくるわけではなく、先程何度か触れた際に感じたひんやりと心地よい冷たさが伝わってきた。


「…なんか気を使ってもらったみたいで悪いな」


「良いのです、旦那様っ!」


花が咲いたような満面の笑みを浮かべ、色白の頬を赤らめて一言。


「ウェローネも沢山っ、たーくさん強く抱きしめてもらえましたからっ♪」


その一言に思わず体を仰け反ってひっくり返りそうになった。

異常なまでの一瞬の緊張に、胃もぎゅんっ!と変な音を立てて痛み始めた気がした。


(ちょいちょいちょい!?それは…それはダメだろう!?何してんのというか何したんだ俺ぇ!?)


彼は自分の知らない間に、青い果実のような幼女に手を出したとでも言うのだろうか!?

早くもこの物語は彼が街の兵士に連れて行かれて独房の中で独りつぶやく物語になってしまうとでも言うのか!


「あ、ですがですがっ!」


ひんやりと心地良い小さな手がじっとりと冷や汗をかいた彼の手を包んでくれ、その大きな瞳が優しさを湛えたままアルンに向けられる。


「旦那様はまだウェローネにやましいことは何もしていませんから、ウェローネの身体は清いままですよっ!」


「そ、そうかぁ…良かったぁ…のか?」


本人がそういうのなら間違いないと、半ば無理やり信じ込むように安心して安堵のため息を吐くと同時に緊張が解けるはずだったのだが…。


「でもでも、ウェローネはいつでも心の準備は出来ていますからっ!いつでも、今からでもっ!まだ体つきは幼いかもしれませんが大丈夫ですっ!」


そう言って、頬を赤らめつつ握っていた手を頬に押し当てながら密着してきたのであった。

そりゃあもう、目を閉じてうっとりと幸せそうに。


「良いわけないんだよなぁぁぁ!!」


思った以上にぐいぐいと迫るウェローネに引き気味に悲鳴のような声をあげていた所に──


バタバタバタバタ!!


(うっ!?この足音は…!?)


騒がしい足音が近づいてくることに気づくとアルンはびくりと体を震わせた。

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