07.フラれた後の立ち回り方
高校の敷地内に入った所でナル部長と別れた。教室に行く前に表情確認という重要案件を思い出してトイレに直行したけど、中には数人の男子が既にいて、そもそも男子トイレは出入りが盛んで一人になる事は殆どない。そもそも出入り口が傍にある洗面所の鏡で念入りに表情確認をすればそれこそキモい事になってしまう。諦めて教室に向う事にした。
自分の教室が近づくと同時に緊張してきた。試験後に席替えが行われて、黒川さんは一番前の窓際席で僕は後ろから二番目の廊下側に移動となってしまった。席が離れた事で席替え提案をした先生を呪い殺してやろうかと考えた事もあったが、今では二人の距離がそのまま形になっている様で切なくなってしまった。足がちゃんと動く事を確認した後、大きな溜息を出して何も考えずに教室に入る事にした。
「おはよー」
「おー白石おはよー。宿題教えてくれ頼むー」
「またか、分かったよ」
即効でクラスメイトに宿題の解読依頼をされてしまったが、これが僕の日常だ。成績が良くて教え方も悪くない事から『勉強を教えてくれる人』が教室内の立ち位置なのである。都合のいい奴と解釈する事も出来るけど、勉強を教える事で仲良くなれた奴もいるしクラスメイトに声を掛けられる機会がグッと増えたので、今の立場はそれなりに気に入っている。
宿題を教える前に黒川さんの席を確認してみたけど、まだ登校していなかった。普段この時間なら既に教室にいて本を読んでいる事が多い筈なのだが…。小さな違和感を感じた後、急かすクラスメイトに宿題の解き方を教える事にした。
予鈴が鳴ると同時に黒川さんが登校してきた。遅刻ギリギリである。着席時に一瞬だけ僕の方を見た様な気がして戸惑ってしまった。想像では黒川さんに会った場合、落ち込んでしまうと思っていたが、それはなかった。
だが、途轍もない気まずさが体中を駆け巡っていた。
居づらい! 超逃げたい!
腹痛か何かで保健室に直行したくなったが情けなさすぎるので却下。とにかく変に意識し過ぎずに無関心な対応をするのがベストなはずだ。クラス内で変な反応をする事だけはあってはならない。そう戒めた後、まずは落ち着く事に専念しようと思い立つのと同時に先生がクラスに到着して朝礼が開始された。
程なくして一時間目の授業が開始され気持ちもだいぶ落ち着く事が出来た。試験を終えて後は夏休みを待つだけなので先生を含めてどこか空気が緩んだ状態で授業が進行していく。なので、授業中に告白した事で何が変わってしまったかを考える事にした。
昨日までは黒川さんといい感じだったが、今では気まずくて近づく事すら出来ない状態だ。代償がここまで大きいとは思いもしなかった。告白しなければ良かったと一瞬思ってしまったが告白しないと彼女が出来ないのも事実だ。矛盾している様で真理なのである。
因みに女子から告白される可能性は虚無だと断言できる。女子から告白されるのはイケメン以外有り得ない特権だ。仮に女子から告白されたとしても人違いか罰ゲームだと判断してしまう自信すらある。或いは普通に困ってテンパった後に反射的にイエスと答えてしまう自分が想像できてしまった。
告白って、難しいなぁ。
そんな感慨にふけりながら、午前の授業が消化されていった。