05.理由と抗議
「僕の父には千春さんっていうアラフォー直前の妹が祖父の家に同居していまして、去年の秋に結婚間近って状況だったんですけど、直前にマリッジブルーになって結婚断っちゃったんですよ。僕は現場に居ませんでしたけど、結婚式キャンセル・相手激おことかで大変だったらしいです。そして年末に帰省して、半年ぶりに千春さんに会ってみたら、死んだ魚みたいな目になって激太りしてたんです」
あれは衝撃的だった。前に会った時と容姿が全然一致しないのに千春さんだと分かるから激しく混乱した。理解はできても、今でもあれが千春さんって納得する事できないのだ。
「もうドス黒いオーラが背中あって絶句ですよ。不のオーラって極めれば見える様になるって初めて知りましたよ。仕事も辞めたからニート状態で『もう結婚しない、一人でひっそり生きていく』って呟く姿が怖かったです。祖父と祖母は元気でしたけど、二人とも何か背中が小さくなってました」
祖父の家も汚くなっていて、子供の僕でも分かった。非常事態だと。
「そして暗~い年末を過ごした後、帰る時に父さんが祖父に『何かあった時、千春の面倒はうちで見るから』と言っている所を見たんです」
その時の父さんの背中は、とても健気で頼もしく見えた。
「その時に思ったんです。将来家族に迷惑かけたくない。一人は嫌だ! 彼女が欲しい!」
そして年明けから彼女作りを開始後、ナル部長に相談して今に至っている。あの出来事で自分が変わったと断言できる。変わり果てた千春さんの姿がなければ、彼女が欲しいって本気で思う事はなかっただろう。
小さな感慨にふけった後にナル部長を見ると、下を向いてゆっくり歩いていた。十秒ほど無言で歩いた後、小さな声で答えくる
「……………私は、君が恋愛を始めたきっかけの話を聞いたよね?」
「はい」
「……………恋愛を始めるって、とっても素敵な事だよね?」
「はい」
淡々とした口調で質問するナル部長に対して短く答える。
その後、もの凄い剣幕(涙目)で訴えてきた。
「じゃあ何でそんな重くてダークな話が出てくるのさ!! 朝から何て話聞かせるんだよっ!!」
当然すぎる反応と抗議をされてしまった。
面白い話じゃないって警告したけど、やっぱり無駄だったかー。
「これでもオブラートに包んで話しましたよ」
「何処にオブラートがあったの!? 苦味成分が飽和爆発で大惨事だよ!!」
胸ぐらを掴まれて激しく揺さぶられる。
ちょっ、ぐるじい。
「いやでも結婚式が中止になった時に祖父が相手家族に謝りに行ったらしいんですが、その時に誠意を見せろって話になって、土下…」
「あああああああああああああああああ!!! 聞きたくない聞きたくない!」