01.翌朝の憂鬱
朝の日差しと洗濯機の音で目が冴えてきたけど、寝過ぎたというか、気だるくて体が重い。なんでかなーと思った瞬間、昨日の出来事が即座にフラッシュバックしてきた。
「そういえば、フラれたんだっけ」
呟いた後、気だるさが倍以上に膨れ上がってしまった。
「学校、行きたくないなぁ」
だけどそんな理由で不登校はダサいなーと時計を見ると、寝坊に気付いて眠気が消し飛んでしまった。どうやら僕はこのままズル休みしても安らげない難儀な性格らしい。今年の始めから自己鍛錬として続けてきた早朝ランニングの皆勤賞を逃した事を悔いつつ、帰ってから走ればセーフだろうと考えながら、スポーツウェアではなく制服に着替えて、身嗜みを整えた後にリビングに出ると、そこには朝食と弁当を用意しているワイシャツの上にエプロンを付けた父さんの姿があった。
「おはよう」
「おはよう」
すぐに手伝おうとしたけど、料理は殆ど終わっていたので食器の用意や盛り付け・コーヒーの用意などをしておいた。我が家では父と僕が交代で朝食と弁当を作るのがルールなのだ。因みに母は今も布団で寝ていて、朝食に加わる事はない。趣味が夜更かしで、昼前にならないと動き始めない駄目主婦なのである。そうしてつつがなく弁当と朝食の用意が終わって、父との食事が始まる。
「いただきます」
「いただきます」
父は無口なので我が家の朝食は静かだけど息苦しさはなく、落ち着いた空気が流れている。そんないつも通りテレビのニュースをBGMにして朝食を終えて、果物とコーヒー牛乳を飲んでいると、父が傷薬を差し出してきた。
「腕の傷に塗っておけ。シャワーも浴びろ」
指摘されて左腕の傷に気付く。そこには大きな瘡蓋ができていて、見た目が痛々しい。そういえば昨日帰ってすぐに寝たから、夕食はおろか風呂にすら入ってなかったよ。
「何かあったのか?」
どうしよう。女の子に告白したらフラれて、しかも未練がましく後を追いかけたら盛大に転んで怪我をしたと伝えるのは恰好悪すぎるし、かといって心配もかける訳にもいかない。そんな諸事情をどう伝えるべきか悩んでいたら。
「何もないならいい。困った事があればいつでも話を聞く」
そう答えて朝食を食べ終えた父は、 食器を持って台所に移動していった。そうして今更ながらに自分の朝食の量が普段より多かった事に気付いた。どうやら昨日夕食を抜いた事への配慮らしい。そもそも息子が怪我をして帰ってから部屋に引き篭もり、翌朝は寝坊までしたのだ。だから父親としては事情を事情を聴きたかった筈なのに、追及しないでくれた。
父は口数こそ少ないけど、いつも僕の事を心配して信頼してくれている。
そんな気遣いに感謝しつつ、言われた通りシャワーをしよう。
改めて制服を着て傷薬を腕に塗った後、朝一に父が稼働させた洗濯機の終了ブザーが鳴たので、二人で洗濯物をベランダに手早く物干竿に吊るしていき、その時に事情は夜に話すと伝えておいた。落ち着いてから説明をしたかったし、お互いそろそろ家を出なければいけない時間だ。この問に父が頷くのと同時に全ての洗濯物が干し終わり、父が足早に玄関に向かう。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
父を見送った後、僕は急いで身嗜み・荷物チェックを行い、最後に食卓の前に吊るされたホワイトボードに今もぐっすりと寝ている母当てのコメントを書いて家を後にした。
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・昼食は冷蔵庫(残したら晩飯抜き)
・昼過ぎに洗濯物を取り込む事
・プリンは1つまで(全部食べたらネット回線遮断)
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