15.欲しかった言葉
荷物回収などで一時解散した後、校門前で再び合流して移動を開始した。下駄箱が学年ごとに違うのでここが逃亡する最後のチャンスだったが、磯村さんが常に監視していた為に無理だった。逃げたらホモい噂を流すと言われてしまい抵抗する気力すら出せなかった。財布もナル部長の胸に突っ込まれたままだし。
とゆうか財布を返してもらった後どうすればいいんだ?ナル部長は背こそ低いがスタイルは良くて胸も見た感じ大きい。今後あの財布を使う時に変に意識しちゃう気がする。家宝か何かにして部屋に飾った方がいいのだろうか? 今はナル部長達が高いテンションを維持しながら会話をしていて、僕はその少し後ろを歩いている。腕には丸山さんが張り付いていた。
「後輩に先越されちゃったねー下野。もう先輩ヅラ出来ないじゃん」
「ぐっ…、彼女がいるから偉いって訳じゃないだろ。俺だって本気を出せば……」
「負け惜しみですね、分かります。本当にありがとうございます」
「畜生っ、シーマンの癖にっ。何でこんな女に彼氏がいて男子からの人気も高いんだよ、みんな絶対騙されてるよ!」
「後輩の前でそのあだ名はやめろ。だから下野はモテないんだよ」
ナル部長の苗字は大嶋なので一部同級生からシーマンと呼ばれているらしいが本人は気に入ってない様だ。確かに可愛いあだ名だとは思わないけど。
「イソッチもゲームやホモばっかりしてないで恋愛もしとけよー。三年生になると受験意識しちゃうから夏休みも全力で楽しめないよー」
「ぐはっ! 痛い、愛の鞭が痛い! 助けてユッキー、一年にイケメンでBL大好きな男子とかいない?」
「なんですかその条件! もし居たとしてもその人女子に興味ないと思いますよ」
みんな楽しそうだなぁ。
告白は結果的に成功になって、夏休みも黒川さんに会える様になったんだけどなぁ。
「あー、優太君優太君」
「……なんですかナル部長」
首だけ後ろに向けて問いかけられたので生返事で答える。
「頑張って良かったじゃん」
そう言った後、ナル部長はすぐ磯村さん達と会話を再開した。何気ない一言だったけど、僕にとってこの言葉は年明けから努力してきた証であり、誰かに言って欲しかった言葉だった。
本当に、頑張って良かった。
「ありがとうございます。ナル部長」
ナル部長に聞こえない様に小さく呟いた。頑張った事で結果が出せた時は勿論嬉しい。でも家族以外でそれを認めてもらえる事がこんなに嬉しくなれるという事は知らなかった。
「良かったですね。優太先輩」
「うおっ、まま、丸山さん!」
ナル部長の言葉で腕に張り付いているのを忘れていた。
やばい、聞かれた、超恥ずかしい。
「もし良ければ今後恋愛について色々教えて下さい。興味があるので」
いつも通りの淡々とした口調だったが少し目を逸らしながら答えてきた。照れている丸山さんを見たのは初めてだ。前に彼氏は居ないと言っていたけど、ナル部長との恋愛相談を横でよく聞いていたのでやっぱり興味があるみたいだ。もしかしたら好きな男子がいたりするのかもしれない。
「分かった。でも言い触らさないでね。恥ずかしいから」
「了解です」
嬉しそうに丸山さんが答えた。僕は丸山さんの弟(小3)に似ていて格好悪い所ばかり見せてしまったが、それでも頼ってくれた事がうれしい。先輩として最低限の威厳を今後も守っていく事ができそうだ。しっかりとやっていこう。黒川さんとの事以外も。
そう決心した時、カラオケ屋に到着した。ナル部長達がこっちを見て奇声を上げてきた。駅前なのですげー注目されちゃったよ。目の前にあるカラオケの看板が処刑台にしか見えないのは錯覚であってほしい。あと丸山さんの僕の腕を拘束する力が強くなったのも多分気のせいだ。そうして我が料理部一同はハイテンション(一名除く)でカラオケ屋に入店した。昨日の告白から今に至るまで涙目にはなっても本当に泣いてしまう事はなかったのだが、ここで涙が自然と頬をつたって流れ出てしまった。
やっぱり神様がいないという事が判明した瞬間だった。




