14.祝福しよう!(ゲス顔)
反射的に体が跳ねて女子3人から距離を取る。そして全力で逃げようとしたが、横から現れた丸山さんに腕を掴まれてしまう。気配に気付けなかった!
「離して! お願いだから!」
それでも足を止めずに丸山さんを引き摺りながら叫んだが離してくれなかった。それどころか僕の腕を掴みながら腰に重心を置いて足止めしてきた。身体能力高すぎだろこの子!
後輩に手を上げる訳にもいかないので、左腕に丸山さんがへばり付いた状態で前進を続ける。丸山さんの靴がガリガリと地面の摩擦音を上げ続けていた時、追って来た磯村さん・雪下さんにも右腕と首にしがみつかれてしまい、前進を続けていた脚が止まってしまった。
「観念しろー優太ー」「優太先輩、もう諦めちゃって下さい」
相変わらずのニヤニヤ顔で2人が諭してきたけど、諦める訳はいかない! 捕まったら終わりだ! この時点でもう死ぬほど恥ずかしいのに、これ以上何かあったら絶対に死ぬ! 抵抗を止めずに動こうとしたが、目の前にナル部長が立ちはだかり、手に財布を持っていた。
「それ僕の財布じゃないですか! 何で持ってるんですか!」
「いやー、たった今偶然にも優太君が落としちゃったからー、拾ってあげたんだよー」
「嘘だっ! 拘束されてる間にスリやがりましたねっ!」
すぐ横で後ろから腕を首に回してしがみ付いている磯村さんがすっとぼけた顔をしている。すんげームカつく!
「そんな事ないよー、偶然だよー、ぐ・う・ぜ・ん。それにしても危ないなー、だから部活ミーティングが終わるまで財布は私が預かっておくよー」
そう言った後にナル部長がブラウスを第3ボタンまでほどいた後、財布を胸に突っ込んでしまった。ブラウスの内側に深く潜り、ブラジャーと生乳に挟まれて固定されてしまった財布を救出する術はなかった。
………………終わってしまった。
財布には定期も入っているので返してもらうまで帰る事ができない。こんな事なら生徒手帳か何かに運賃を忍ばせておけば良かった。
「いやー、人の告白なんて初めて見たよ。凄いもんだねー」
感慨深げにナル部長が答えてきた。
「正直ここに残れって言われた時は焦ったよ。逃げない様にって言ってたけど、それは優太君じゃなくて黒川さん自身の事だったんだねー」
……そうだったのか!
今になって言葉の意図に気付く事が出来た。
「それに柚希と腕組んで登場してきた時はビックリしたよ。包帯で手当までされてるし。私の後ろにいた黒川さんが『そんなぁ』って呟いたのが聞こえた時はすんごい焦ったんだよ! 傷心中の優太君と何かあっちゃった後じゃないかと冷や冷やしたんだからね。……何もなかったんだよね、柚希?」
「傷の手当てをしただけですが。何かってなんでしょうか?」
「あーいい、ちゃんと未遂だったみたいだし。それと私が注意したって黒川さんが言ってたけど、本当に軽く注意しただけだからね。優太君は傷心中だから放っといてあげてねって言っただけだからね」
僕が逃げた後にフォローしてくれたんだ。もしかしたら僕の為に怒ってくれたのかもしれない。そして全力でここに連れ戻してくれた。ナル部長が探してくれなかったら今とは違う結果になっていたかもしれない。敵わないなぁ。ナル部長の器の大きさに感服していた時、横にいる磯村さんが声を上げた。
「ナル部長、何があったか教えてくれるんですよねっ。優太見つけたら後で経緯とか全部話すって言ってましたよねっ」
「当然だよイソッチ。これから喫茶店で部活ミーティングをねっとり開始するよー」
ナル部長の提案に対して磯村さんと雪下さんが奇声を上げる。あれ? 僕さっきまでナル部長の事を心から尊敬していたのに今は悪魔か何かに見えるんですけど。
「いやいやナル部長、私達絶対に五月蝿くなっちゃいますよ。カラオケにしませんか?」
「いいねぇ! ついでにラブソング歌いまくろう!」
僕はこの時、絶望という言葉がどういう意味だったのかを理解する事ができた。
「心配するな優太君、君の代金は私が奢るから安心だよっ!」
「いや、全然安心できないんですけど」
もう有り金全部渡すんで定期だけ返して下さい。そんな思いは当然口に出す事は出来ず、駅前のカラオケ屋で部活ミーティングをする事になってしまった。
どうしてこうなった。




