13.情感
「昨日は告白してくれて、その……、ありがとう。嬉しかったです。あと返事せずに逃げちゃてごめんなさいっ!」
………あれ? 予想していた言葉と違う。どういう事だ?
「その、初めての告白で気が動転して、途中から告白かもって身構えたけど、あんなに凄い事を言われるとは思わなかったから。告白後に白石君の顔見たら恥ずかしくなって、分かんなくなって、思わず逃げてしまいました。本当にごめんなさい!」
そっか、表情が変だった訳じゃなかったのか。良かった。それに緊張していたのは僕だけじゃなかったんだ。もしかしたら黒川さんの方が緊張していたのかもしれない。
「落ち着いた後に返事をしていない事に気付いてここに戻ってきたけど白石君はもう居なくなっていて、携帯番号も知らないから連絡も出来なくて、でも家に帰った後にクラス委員の藤江さんがクラス全員の連絡先を知ってる事を思い出して白石君の携帯番号を聞き出してメールしたんだよ。今日の朝に会って話をさせて下さいって」
………全然、気付けなかった。
「でもメールの返事はなかったし朝も来てくれなかった。昼休みにまたメールしたけどやっぱり来てくれなくて、思い切って電話したけど繋がらなくて、帰りに声かけようかと尾行していたら携帯忘れたって話が聞こえて、何にも伝わってなかった事に気付いて、あっ! あと避けてないからねっ! 本当だよっ!」
そっか、避けられてなかったのか。
良かった。
「でも白石君は逃げちゃうし、そちらの部長さんにも注意されてしまって、でも事情を説明したら『即効でとっ捕まえるからっ!』と言われてまたここに来てもらいました」
だからナル部長が探していたのか。あんな力技使ってまで。
「だから、その……、昨日の続きをさせて下さい。返事を言わせて下さい! まだ大丈夫だよね! もう終わりになってないよねっ!」
顔を赤くしながらまっすぐに訴えてくる黒川さんに正直圧倒されてしまった。
それでも落ち着いて返事をする事が出来た。
「うん、大丈夫だよ。僕は今でも黒川さんの事が、大好きだから」
そう答えた後、黒川さんの顔がさらに赤くなり、小刻みに震えながら周りを見た後、小さなメモ用紙を差し出してきた。
「これっ、携帯番号、連絡下さい! 夏休みに宿題とか一緒にしよう。また図書室で一緒に勉強しようねっ!」
最後は凄い早口で顔も下を向いていた。メモ用紙を受け取った後、黒川さんはすぐに走り去ってしまった。家に忘れてしまった携帯電話には既にメール・電話履歴が残っているはずだが、連絡先を直接伝えてきたのは黒川さんなりの誠意、あるいは意地だったのかもしれない。家に帰ったらメモを見ながら一文字一文字しっかりと入力しよう。
良かった。
もっと喜ぶ場面なのかもしれないけど、安堵の溜息しか出てこない。彼女が欲しいと思い立った後、色々と努力を続けた事で自分の魅力を上げる事が出来たが、何よりも自分に自信が持てる様になれた。
今までの人生でそれなりに努力をしてやり遂げた事はあるが、周りの意見に流されたり、大人の意見を鵜呑みにした上でやってきた事ばかりだったので、自分で決めた事に真剣に努力し続けたのはこれが初めてだったのかもしれない。だからこそ告白する事が出来た。
今までの自分なら好きな女の子が出来てもいいなと思うだけで、行動に移す事はなかった。告白してもフラれる・キモがられるという不安もあったが、自分に自信が持てない状態で恋人が出来ても、上手くやっていけるイメージが全く作れなかった事が一番の理由だった。
実際、年明けに彼女が欲しいと思った時、彼女探しではなく自分磨きから始めたのも、今の自分に自信が無かった証拠でもある。それでも、毎朝ランニングと勉強を続けて、ナル部長に女子との接し方を教えてもらった。そして体が引き締まって腹筋が出来上がり、成績も上がり、女子との会話も緊張する事は少なくなった。更にクラスから勉強で頼られる様になり、知り合いも増えた。
努力と続けた事で出来た結果が自分を支えとなり、それが自信になってくれた。
そしてその自信が支えとなって行動する事が出来たのだ。
深い感慨に耽りながら手元のメモ用紙を眺め続けていた時、優しく後ろから肩を叩かれた。
「良かったね。優太君」
「ナル部長、ありがとうござ…」
返事の途中で気が付いた。今の状況がどうなっていたのかを。
振り返るとナル部長、磯村さん、雪下さんの女子3人が迎えてくれた。
とびっきりの笑顔で




