12.告白のダメ出し
「何で…ここに居るんだ……」
連れて来られた場所は校舎裏だった。そして昨日フラれた場所でもある。
「ナル部長が指定した場所がここでした。何で校舎裏なんですかね?」
丸山さんも理由は知らないみたいだ。校舎裏は閑散としておりナル部長を含めて誰もいなかった。嫌な感じがする。もの凄く悪い予感がする。
「分かった。とにかくここから離れよう! 誰もいないしここを離れた後にナル部長に連絡してみてよ。合流したらちゃんと最後まで話を聞くから。だから早く」
「その必要はないよ。優太君」
後ろから声が聞こえて振り向くとナル部長がいた。出てくるタイミングが良すぎる。途中から尾行されていたのか?
「ナル部長、何ですかこれ? 一体何が起こっ…」
途中で固まってしまった。ナル部長の後ろに体を隠しながらこちらを見てくる黒川さんが見えたからだ。状況が把握出来ずにフリーズ状態になった僕に対してナル部長が話を進めていく。
「柚希、優太君の連行ご苦労様。 ……………何で腕組んでるの?」
「優太先輩がいじけていたので引き摺ってきたんです。地味に大変でした」
ドヤ顔だけど淡々とした口調で事情説明をした後、丸山さんが腕組みを解き、死角になっていた左腕の包帯にナル部長達が気付く。
「あれ、包帯? どしたのそれ?」
「昨日転んだ時の傷だそうです。さっき私が手当てしました」
「……そうなんだ。柚希が手当てしたのかー。そして腕組みしながら登場かー」
困った感じでナル部長が答えた。
後ろにいる黒川さんも様子がおかしい。
「ナル部長、後ろにいる人は誰ですか?」
質問をされて黒川さんがナル部長の後ろから出てきた。
「黒川といいます。白石君とはクラスメイトで……、話があって来ました」
簡単な自己紹介を終えた後、黒川さんが固い表情でゆっくりと近づいてきた。そしてフリーズ状態の僕の体が一気に覚醒した。
状況が全然分からない! フラれて避けられているのに何で黒川さんが来るんだ! 正体不明の危険から逃げたくなって後ろを振り向いたが、先程までいなかった残りの料理部員3名が道を塞いでいた。逃げ場がなくなっていた。
ハメられた!
学校中を走り回っていたらしい下野先輩が息を切らしているのは理解できる。だが同級生の磯村さんと後輩の雪下さんの女子2名が凄くニヤニヤしていて不気味だった。こっちはよく分からないけど絶体絶命で泣きたい気分なのに何故にその表情! 体を正面に戻すと黒川さんが対話できる位置まで近づいてきた。さっきまで横にいた丸山さんは既にナル部長の横にいた。移動した事に気づけなかった。
落ち着け! 考えろ! 黒川さんは僕に何か伝えたい事があるからここに来たはずだ。だがフラれて避けられている僕にわざわざ伝えにくる事って何だ? さっき黒川さんに今後はもう近づかないと伝えて全部終わったはずだ。なら告白の方で何か言いたい事があるのだろうか? 確かに急な告白で内容も酷かったけど…
まさか昨日の告白に対するダメ出しかっ!
なんてこった。そんな事されたらガチ泣きしちゃうぞ! いやいやいやいや流石に発想が飛躍している気がする。だが黒川さんが実はドSだったという可能性も捨てきれない。案外プロレスとか好きだったりするかもしれないじゃないか………
もう駄目だっ!
混乱しすぎてバカな事しか考えられない!
落ち着くまで待って下さいお願いしますと心の中で叫んだが当然スルーされてしまう。そして僕のすぐ傍まで来た黒川さんが話しかけてきた。
「聞いて欲しい事があります……」
少し赤くなった顔で僕の顔をしっかりと見て答えてきた。もう逃げる事は出来ない。正面から全部受け止めるしかない!
「分かった。でもせめて2人っきりで話そう。いいよね?」
告白についての事を自分以外に直接聞かれるのは流石に嫌だ。恥ずかしすぎる。それに本当に告白のダメ出しだったらもの凄く困る。そんなの誰かに聞かれてしまったら絶対に立ち直れない。登校拒否して引きこもる未来しか見えない。
この提案に対して黒川さんの後ろにいるナル部長が無言で頷いた後、笑顔でガッツポーズをしてきた。頑張れってメッセージだと思う。周りも察してくれて皆その場を離れようとした時、黒川さんが叫んだ。
「待って下さい! 皆さんも居て下さい!」
なんだって! とんでもない要求をされてしまった。やっぱりドSだったのか! 固まってしまったのは僕だけではなく周りも沈黙していた。
「……えっと、黒川さん。やっぱりこういう事は2人で話した方がいいんじゃないかな?」
ナル部長が右手を軽く挙手して控えめな口調で提案してきた。
「いえ、皆さんが居てくれた方が助かります。そうすればもう逃げる事も出来ませんし。だからお願いします!」
「は、はい。分かりました」
真剣な顔でお願いする黒川さんにナル部長が根負けしてしまった。確かに僕はさっきナル部長を残して逃げたけど……逃げちゃったけど………っ。黒川さんを説得したいけど出来ない! 世界はこんなにも残酷に出来ていたのか!
「白石君っ!」
何かを決心した顔でまっすぐ僕を見てきた。神様っ、せめて話が終わるまで涙が出ない様に力を下さい。既に涙目状態だったが、もう祈る事以外にやれる事がなかった。
そして彼女が僕に伝えたい感情が何だったのか、やっと分かる事ができた。




