貢がれた男
とにかく、俺はどうしようもない男だ。
それ以上にどうしようもないのは、あの男。真新しい俺の布団の上に横になっている、全裸の男は俺を見てけらけらと笑った。
「あー、うける。カノジョ、泣いてたよ? 追っかけなくていいの?」
「……」
そもそもこの状況に追いやったのは、誰だと言うのだ。お前だろう。そんな反論も、奴には無意味だと身を以て知っている。だから何も言わずに無言で返すと、面白く無さそうに目を細めるのだ。
彼女が急に態度を変えて逃げたのは、どうしてか。この部屋の何を見たのか。想像するだけで恐ろしい。
この部屋が、彼女の染めた色から外れてしまっていたのを見ただけなのか。それならまだ良い。ただそうではなく、このどうしようもない男を見てしまったのだとしたら。先ほどまで、俺を組み敷いていた、あの愚かな幼馴染みを。
ため息を吐いて、俺はあいつのいる寝台へ近付いた。情欲の色が奴の瞳を彩るのを見ると、俺は両手を上げて降参のポーズ。
「もうやんねえよ」
「えー、いいの? 俺に惚れてんじゃないの?」
「ほんっと、お前ってクズだな」
俺もなんたって、こんな最低な人間に情を寄せてしまったのか。なんで本人に弱みを握られるようなマネをしてしまったのか。過去の自分の警戒心の無さが恨めしい。好きだけど、嫌なんだよ。苦しいんだよ。
だから、あの子と付き合うことにしたんだ。自分に貢いでくれる、支えてくれる女の子は正直、ありがたかったから。勤めていた会社を辞めたばかり、不安定な生活を過ごしていた俺にとって、経済的な面でも縋るべき存在に見えた。ここまで俺を好きでいてくれるなら、俺も好きになれるかもしれないとも思った。
なのに、いつだっただろうか、彼女が俺を見ていないと気が付いたのは。俺の方こそ誠実ではなかったのに、彼女が真剣でなかったことに責めたくなる日もあった。だけど、もう関係ない。もういいのだ。
「そういえばあのコ、どっかで見たことがあるな……ああ、カノジョの友達だっけ」
「どういうことだ?」
「さァね。まあ、これだけは言えるよ」
へらへらと笑っていたこいつは、横になっていた体勢を少し正すと、俺へ手を伸ばした。真意が掴めなくて、ただそれを眺めていると、体つきはナヨナヨとしている癖に妙に力強く俺の手首を握った。無意識に許してしまったその距離。避けようと思えば避けられたのに、されるがまま引っ張られる。安物のパイプベッドが軋む。
アルカイックな笑みが、奴の顔に浮かぶ。これで、みんな騙される。分かってはいても、今が真実で——自分が奴の一番だと思いたくなってしまう。
「顔だけで俺を選んだ馬鹿な女共より、俺はお前が好きだってね」
「……誰にでも言ってるんだろ、似たようなこと」
俺が望んでることくらい、お前はお見通しなんだろうよ。そして、お前の『好き』は俺が抱いているそれとも違う。はっきり分かってる。なのに、抵抗出来ずに、俺はそのまま熱を重ねた。
The End
答え合わせ編でした。