通商破壊の一戦
…今の状況でこれを公開するとは如何なものかと、私自身が思ってしまう…
1944年3月、フィジー諸島沖西450km
「敵船団感知!!一時方向!距離五万!」
電探担当の水兵が有線通話機を使った艦橋スピーカーで知らせて来た。
「通商破壊戦よーい!」
副長である私は通商破壊巡洋艦…超甲巡の乗組員に戦闘配置を命じる。
「…副長?一応、水偵飛ばして詳細な情報を得て戦術とか判断するか?」
作戦戦術を担当する海軍兵学校時代からの相棒が意見を具申する。
「うん…そうしよう。水偵隊!発艦準備!」
私は相棒の意見を取り入れて、相棒が手作りで作ったと言う水偵の発艦準備の命令を出す。
「主砲は徹甲弾。脅しだけど…」
「当たり前だ。我々はあくまで鹵獲を目的としている」
何時もの相棒のボケに、私はツッコミを入れる。
「これで一段と補給先がアメリカになるのぉ~」
後ろでのんびりとお茶を啜っているのは、超甲巡の艦長である。だが、老練で日本海海戦にも参加した古強者だ。
「さて…高角砲は…まあ、徹甲弾と炸薬弾で良いかな?」
「勝手に燃やすな」
「こりゃ失礼」
そうこうしている間に、水偵の発艦準備が完了したようだ。
「水偵発艦準備完了!何時でも行けます!!」
「水偵発艦せよ!!」
私は発艦を指示して、水偵はカタパルトから発艦した。
「まあ、50km先までは巡航500km/hだから6分で見えると思うけどね~」
「お前の機械弄りは現実離れしている様に思えてならない…」
「気にするな」
「気になるわ!」
全く…まあ、水偵の報告を待つか…
案の定、10分ほどで詳細電文が届いた。
「電文![我、敵輸送船団ヲ発見セリ!速力14ノット!輸送船10・護衛駆逐艦6!]以上です」
「うむ…下がって良し」
「ハッ!」
私は報告しに来た水兵を下がらせる。
「やっぱり、堂々の無線交信が功を奏したかな?」
「そうだな…だが、我々は情報上巡洋艦一隻だ…それにあっちは、駆逐艦で戦艦を翻弄させた指揮官が居ると言うが…」
「ぶち当たりたくないね…」
そりゃ私も同じだ。
「さて…欺瞞コースを飛行してくれれば、FS作戦はやり易いんだけどね…」
「そうだな…まあ、殴り込みだから大丈夫だとは思うが…」
だが、緊急電文を持った水兵が駆け足で入って来た。
「続報です![我敵航空機ノ攻撃ヲ受ケツツアリ!敵空母ガ居ル可能性大ナリ!!我トンズラズス!]」
「何!?」
「……………確か、新しく配備された新型水上機母艦と新型水上機が有ったよな?」
…まさか…
「はい。戦闘爆撃機30機・直掩戦闘機20機と…」
「よし!そいつらに任せるか!!暗号電![若鷲ノ戦イヲ望ム!我身マデ!!]以上、送れ!!」
「はい!」
相棒の指示は、直ぐに後方80海里に居る水上機母艦二隻に届いた。
「返信![直グニ急行スル!後ハ任セタリ!!]」
「よし…これで、俺が描いた戦術が出来るな…」
こいつ…まあ、流石に艦長は…
「まあ、死なない様に頑張ってくれ…」
艦長まで乗り気だったとは…
「副長…これ失敗したら、俺が腹切る。介錯宜しくな」
「ちょっとちょっと…一緒に戦いへと身を投じるのに、そんな気持ちになれると思うか?」
「そりゃ言えてる」
私は真っ平ごめんだ。私にとっては、またとない相棒だ。
「まあ、信頼している相棒に介錯頼むなんざ…ちと頭いかれたかな?」
「今何歳?」
「副長と同じ23歳ですが何か?」
まあ、その23歳がこうして巡洋艦幹部で中佐の階級を与えられているのだが…
「はぁ~…水偵二番機に発艦準備!道先案内をさせる!!」
「了解しました!!」
まあ、あと30分で第一陣が来るからちょうどかな?
一時間後…
「な、なんてことだ…」
輸送船団護衛の指揮官は、顔を蒼ざめていた。今ある現実が、受け入れ難い状況となっていたのだ。
護衛の駆逐艦は敵艦の艦砲射撃に曝されて沈没し、急遽指揮下に入った護衛空母も敵の急降下爆撃機により使用不能となり、航空機も敵戦闘機により壊滅した。
「ジャ、ジャップは…我々より…格下…の…筈…」
だが、こう愚痴を言っても状況が変わる訳ではない。事実、輸送船10隻は丸裸にされている。
数時間後…
超甲巡艦橋
「…損害機無し…か…」
「お前が弄るものはとんでもないな?」
「まあ、本当に弄っただけで、最大限まで力を発揮させたに過ぎない」
「それでも凄いな?」
え~っと…輸送船全一〇隻は白旗を振っている…まあ、護衛が居なくなればそうだろうな…
「じゃあ、後方にいる艦艇に護衛を任せるまで居座りますか…」
「確か、速力向上の改装をした占守型が来てくれる筈だ」
「占守か…懐かしいな…」
「確かにな…」
あの時は、少尉とは言えいきなり副長兼水雷長とあいつは砲術長を任されたからな…まあ、海防艦の艦長の階級が中尉だから、少尉に副長兼水雷長や砲術長を任せられてもおかしくなかったが…
「大東亜事件じゃあ、よく敵駆逐艦とやりあったな~」
「砲術じゃあ、お前の名前はすっかり広まったがな…」
「そりゃ、海防艦対駆逐艦や巡洋艦だ…必死にもなるさ」
あの時、死に掛けさせられた何処のどいつだったかな?
「ん?…何か寒気が…」
「気にするな」
「…やられた…」
全く…
「そいうや、俺らは軍学校を転々とする事の出来た世代だよな?」
「そうだな…お前と一緒に砲術・水雷・航空・工機・通信・航海も…」
「少尉候補生だったけど、教官にも恵まれて良い経験したよ」
その後、私達は占守以下六隻に輸送船団を託して、一足先に超甲巡を整備ドックのあるトラックへと向かわせる。
「…副長、今夜の夜番は私がやります。副長は寝て貰って構いませんよ」
「そうか?じゃあ、御言葉に甘えるか…じゃあ、夜番の時間になるまで部屋で珈琲を飲もう」
「では、こちらも御言葉に甘えて…」
夕暮れ
超甲巡副長作戦戦術長共同室
「何ヶ月振りですかね?副長の淹れる珈琲を飲むのは…」
「開戦直前の12月7日じゃなかったかな?」
そう言って相棒は珈琲を流し込む。淹れ立てで熱いのだが…
「じゃあ、早めに艦橋へ…」
「待て…」
私は相棒の袖を掴んで引き込んだ。
「…」
「…」
…
「…何、あの時の様にはならないさ…」
「…そうだな…」
本当に、あの時の様なことを起こらないようにしないと…
「…それと…」
「ん?」
「えい!」
END
…これ、長篇化してみたいな…
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