第四話
さっきの部屋は2階だったみたいだ。
シュンに引きずられて階段を降りて来たリビングでは、おばあさんが料理をしていた。焼きたてのパンのいい香りがする。そういえばしばらくご飯を食べていなかった。腹の虫がなく。聞こえていないか恥ずかしくなった。シュンをみたがずんずん進んでいくだけで気づいた様子はない。
焦ってた自分にも恥ずかしくなった。
「ばぁちゃん。連れて来た 」
僕たちに気づいたおばあさんは料理をしながら、こちらを向いた。
「やぁ。ウェズ、であってるかい? 」
突然名前を呼ばれ、体がこわばる。
「あたしがこの家の主だよ。はっはっは、そんなに怖がることないさ。ばぁちゃんとでもよんどくれ 」
景気良く笑うおばあさんはとても気さくな人だった。緊張が少しほぐれた僕は小さくうなずいた。
「さぁ、腹減ったろう?今作ってるからその辺座って待ってな 」
木のテーブルにイスが4つ。どうしようかとおろおろしていると、シュンが近くのイスに座った。
「ばぁちゃん、おれもー 」
足を振りながらいう。
「はいはい、いま全員分作ってるから 」
シュンがここに座れと言わんばかりに、隣の椅子をぽんぽんと叩いた。言われたとおりにそこに座る。
誰かが階段を降りて来る音が聞こえた。
振り返るとそこにいたのは、金髪のがっちりとした青年だった。目があう。少し驚いたような顔になる。
「……お前、魔族だったのか 」
魔族…?
なんだ?魔族って?
首を傾げる。
「あー、目が俺と一緒だもんなー!」
シュンが嬉しそうにいった。
「おいおい、まず気づけよ…… 」
青年が呆れていた。
青年は僕の前に座った。
シュンはなにかおもいついたように顔をあげた。
「あー! だから捨てられたの? 」
シュンが僕をみつめて言った。一同が静まり返る。
シュンがしまったというような顔をする。
……ステラレタ?
あぁ。捨てられた、ね。
あー、なるほど。わかった。
僕は " 捨てられた " んだ。
だから僕はここにいたのか。
すべてが結びついてすっきりしたはずなのに、頭のなかに靄がかかったようだ。
"使えないやつは捨てられる"
あの噂は本当だったらしい。
あの生活から逃げ出したかったはずなのに、いざ突き放されるとこんなにも悲しいものなんだ……。
「……そうかも。多分僕、捨てられた 」
言葉にすると全てが現実味を帯びてきた。
あぁ、捨てられた。捨てられたんだ。
これからどうすればいいっていうんだ。
何もない。
家族も、お金も、家も、知恵さえも何も持っていない。
ただただ喪失感だけが胸のなかに残っていた。
ただ闇だけが……
その中にぽっと灯がともった。
温かいものを感じた。
おばあさんの大きくて温かい手だった。
「……そうかい。じゃあ、うちに住めばいいさ。生憎こいつらもそうでさ。何、そんなに気にすることないさ 」
おばあさんがそっと頭を撫でてくれていた。
「さぁ、食べな。あったまるよ 」
シチューとパンを僕の前においてくれた。
ゆっくりと躊躇いがちに、木のスプーンに手を延ばす。
口に運ぶとシチューの温かさとともに、優しさが広がっていく。
灯の明るさが徐々に闇を溶かしていく。そんな気がした。
頬に涙がつたった。
でも、悲しくはなかった。
嬉しかった。
笑みがこぼれた。
「…ありがと 」
そうしてみんなで食卓をかこみ、ご飯をたべた。
やっと序章が終わりました!
これから本章のスタートです!
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