第三話
あぁ、起きなくちゃ。
随分と眠っていた気がする。布団がふかふかで気持ち良くて… こんな布団初めて…
…!?
そうだよ!いつもはこんな布団で寝てないし!
ガバッと勢い良く起きる。目に入ってきたのは、日頃見慣れた冷徹で真っ白な無機質な壁……ではなく、暖かみのある木の壁。
……あれ? ここどこ!?
目を見張りあたりを見まわす。ほとんどの家具が木から作られているからか、とても暖かい雰囲気の部屋。僕はただ呆然と眺めていた。
「あ! おきたぁー! 」
「ふぇっ!?」
ベッドの下から急に声がかかった。
我ながら随分情けない声がでたものだ。
振り向くと男の子がにしては少し長めの栗色の髪をした少年。彼が満面の笑みでこちらをみていた。
えーっと…この人だれ?
「あー、俺はね、シュンっていうんだ。で、ここ俺の部屋ね 」
僕はよほどきょとんとした顔をしていたらしい。頼まずとも、向こうから自己紹介してくれた。されたら返すのが礼儀ってものだろう。
「…僕はウェズ… 」
あまり人と話した事のなかった僕は、どんなことを言えばいいのかもわからず、そんな程度のことしか思いつかなかった。なにか続けなければと懸命に考える僕の気持ちを知ってか知らずか、シュンはにっと笑った。
「そっか! ウェズか。よろしくな。ウェズ! 」
人当たりの良さそうな明るい子だ。つられて少し笑った。ふと思った。笑ったのなんていつぶりだろうか、と。そんなことを考えていると、ばっとシュンが勢いよく立ち上がった。
「じゃあ、俺ちょっといってくるよ! 」
へ?どこに!?
そう突っ込む間もなく、ドアを押し開け走って部屋を出て行った。
階段を登っているのか、降りているのか、規則正しい大きな音が聞こえる。その音にかぶさる声……
「ばぁちゃーん! レスター! ウェズだったー! 」
「はあ!? あの少年が起きたってことかぁ? 色々言葉がたりねぇよ! 」
「へぇー、ウェズっていうのかい 」
丸聞こえ。他にも人がいるようだ。シュンの声の他に2人分の声が聞こえる。随分仲のいい家族みたいだ。
少し時間が経つと落ち着いてきた。静かになった部屋で、とりあえずいつもそうしていたようにベッドを綺麗に整える。
何で僕はここにいるんだろう?
いつもように起きていつものように…
ぐいっと腕を引っ張られる。
「うわぁ!」
シュンがいきなり視界に現れた。突然の出来事に驚く。
「ウェズ!きて!」
シュンという名の嵐が激しい足音と共にやってきて、シーツを持ったままのウェズを連れ去っていった。