光と覚醒
「な・・・何を言ってるの?・・・なにかの・・・間違いでしょ・・・・・。」
突然告げられた言葉。それは自分はこの世界の人間じゃないと言う事。
あまりに唐突で信じられなかった。・・・いや、信じたくなかった。
もしそれが本当なら・・・今までの16年間はいったい何だったのだろう。
それに・・・自分の母親は・・・・・・・
いや、この男の言ってる事が間違っているのだろう。
美雪はそう思おうと、必死に男に反抗した。
「何の証拠もないのに、デタラメを言わないでよ!!わたしにはちゃんと両親がいる!!お父さんは死んじゃったけど、お母さんがちゃんといるんだから!!」
男は美雪の様子を見て、ふっと笑ってこう続けた。
「実はなぁ、今からだいたい16年前にとある事件が起こったんだよ。」
「じ・・事件・・・?」
「敵国と戦争で巨大な力と力がぶつかり合って、空間に歪みが現れた。後にその歪んだ空間は大きさを増し、ブラックホールのようになった。そして多くの者が、その空間に吸い込まれていったんだ。」
淡々と話をしていた男が美雪の方を見てこう言った。
「そして、今だに行方不明の奴が4人ほどいる。当時10歳と8歳、そして・・・うまれて2,3ヶ月の2人の子どもだ。」
「まさか・・・」
美雪が驚いたように目を見開いた。
「おそらく、お前は一番最後に言った子どものどちらかなんじゃねぇか?」
「う・・・そ・・・じゃあ・・お母さんは?わたし、物心ついたときからずっとお母さんと一緒にいたのに・・・・」
確かに親の髪は少し赤みのかかった色だが自分の髪は真っ黒なところなど、自分は親とあまり似ていない。だが、母が「美雪は祖母に似ている」と言われたので気になどしなかった。
「それにお前、俺が見えるだろ?それがこっちの人間じゃない何よりの証拠だ。」
「そんな・・・」
目の前の男はちゃんと見える。見たくないと思っても、はっきりと。
「じゃあ・・・わたしは・・・」
涙が溢れてきた。
唐突に突きつけられた、自分には残酷な真実によって。
「わたしは・・いったい誰なの・・・?」
自分に問いかけるように呟いた一言。
それに答えたのは真実を話した男だった。
「断定はできないが・・・結構な身分の人間だと思うぜ?」
「・・?それって・・・・・」
どういう事?と聞こうとしたそのとき、
先ほど振り切った巨大生物が現れた。
二人とも話に真剣だったので、気づくのがワンテンポ遅れた。
今からかわそうとしても間に合わない。やられる!!
そう思って美雪は堅く目を閉じた。
しばらくしても何の衝撃もない。
隣にいる男が何かしたのかと思ってそっと目を開けると、知らない人が巨大生物を一刀両断していた。
そして笑顔でこちらに声をかける。
「ずいぶんと苦戦していたようですね、ジェイク。」
「けっ、うるせぇよ。いちいち言うんじゃねぇ。」
「どうしたんです?なにやらご機嫌斜めのようですが。」
「うるせぇっていってんだろアーサー!!少し黙ってろ!!」
美雪はぽかんとして男達を見上げた。
また知らない男が現れた。背が高くて気品もよく、一言でいうなら「紳士」だ。
ふと、アーサーと呼ばれた男と目が合う。
「あれ?ジェイクこの子誰です・・・・」
美雪を見た瞬間、アーサーの笑顔が急にこわばった。
「ジェイク・・まさか・・・」
「あぁ。認めたくないが・・十中八九行方不明の2人のうちのどちらかだろう。」
「・・・・・・」
「えと・・・どうも・・・?」
沈黙が続きそうだったのでとりあえず声をかけてみた。
すると突然アーサーが目の前に立ち、じっとこちらを見つめた。
「あの〜・・・どうかしたんですか・・・?」
どうしたらよいかわからない美雪はただ呆然と立ちつくしているだけだった。
「どうやら・・力は解放されてないようですね。」
「ち・・力!?」
「あれ?あ、失礼しました。自己紹介すらしてませんでしたね。わたしはアーサーと申します。そこにいるのはジェイクです。」
「はぁ・・・」
「ジェイクからはまだ聞いていないんですか?」
「えっと・・・その・・・」
美雪がいい詰まってしまったので、代わりにジェイクが
「だいたいは伝えた。力に関してはまだだけどな。」
と、吐き捨てるようにそう言った。
「じゃあ・・簡単に説明・・・」
しようとした瞬間、
「誰だ!!そこにいるのは!!」
と言う大きな声が聞こえた。
「やば!!見つかっちゃう!」
おそらくお寺の住職だろう。美雪は慌てて隠れたが、運悪くあっさり見つけられてしまった。
「貴様!!そこで何をしている!!ここはこの寺の土地だぞ!!」
「ええええ?あ・・す、すみません・・。」
一方的に美雪にケチをつけてくる。
美雪はどうしようかと困っているとき、ジェイクはのんびりあくびをして、アーサーは周りを見渡していた。
「ちょっと!!ふたりとも謝ってよ!!」
「何言ってんだてめぇ。普通の人間には俺らは見えねぇんだよ。」
「あ!!そうだった・・・」
「おい!!なにを一人で話ているんだ!!こちらの話を聞け!!」
「うわぁ!!ごめんなさい・・・!!」
・・・そういえば・・・この2人って普通の人間には見えないんだっけ・・・。
少しうらやましいと思ったそのとき、
「危ない!!」
いきなりアーサーがそう叫んだ。
いつの間にか巨大生物に囲まれている。
「うわぁ!!」
「っちィ!」
美雪はジェイクに抱えられて敵の攻撃をかわしたが、住職は巨大生物が見えていないのか、突然木がどさっと倒れたことに驚き、身動きがとれない状態だった。
敵は住職に向かって近づいてくる。
住職は全く気づいていない。
「だめ〜!!住職さん!逃げて〜!!」
「・・・!?!?なんだ?」
言っている意味がわからないようで、立ちつくしたままだった。
このままだったら・・確実に殺される。
だめ!!このままじゃ住職さんが!!
そう思った瞬間、美雪はジェイクの腕をふりほどいた。
「お・・おい!!」
ジェイクの声にも耳を傾けず、真っ直ぐに住職に向かって走った。
「こら!!待て!!」
「な・・お待ちください!!」
敵が鋭い爪を向け、真っ直ぐ住職に向かって振り落とした。
その瞬間、美雪は住職を突き飛ばし、盾になるように前に躍り出た。
なぜかそのとき、恐怖はなかった。
その代わり、身体からあたたかい光が飛び出してくるような気がした。
そう、まるで・・今朝の夢で出てきた光のような・・・。
ジェイクとアーサーがその後すぐに聞いた音は血が噴き出す音ではなく、はたまた身を切る音でもなく。
刃物と刃物が接触した音だった。
「・・・あれは!!」
美雪の手には、1本の赤い剣が握られていた。
何も持ってなかったはずなのに。
美雪は無意識のうちに剣で敵の爪を防いでいた。
・・住職さんを・・守らなきゃ・・・
「まさか・・・彼女が・・・」
アーサーの呟きは、風に流されるように森の中に凛と響いた・・・。