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第8話:激怒の聖女、神器(ゴミ)を投擲して魔王軍を沈黙させる

結論から言おう。私は今、最高に機嫌が悪い。

 理由は単純だ。昨夜、ジークフリート王子が持ち込んだ「一千人の騎士団による夜通しの除草作業」の音がうるさくて一睡もできなかった。そしてようやくウトウトし始めた夜明け前、今度は村の境界線から「地響きのような軍靴の音」と「不吉なラッパの音」が聞こえてきたからだ。


「……殺すわよ。マジで。誰よ、朝の四時から運動会してるバカは」


 私はボサボサの髪のまま、パジャマの上に聖女の羽織(これも勝手に最高級のシルクに変えられていた)を引っ掛け、テラスに飛び出した。


 村の入り口、黄金の生垣の向こう側。

 そこには、地平線を埋め尽くすほどの漆黒の軍勢が展開していた。

 魔王軍第四軍団――通称『百鬼夜行兵団』。その中央には、全長五メートルはあろうかという巨躯の魔人、軍団長ヴァルガンが禍々しい魔剣を掲げて立っていた。


「クハハハ! 聖女エルゼよ! 我が部下ベルティナを捕らえ、この地に不気味な楽園を築いた貴様の傲慢もここまでだ! 我が軍の闇で、その世界樹もろとも――」


「うるさーーーーーい!!」


 私の絶叫が、魔境の空に木霊した。

 ヴァルガンが「……えっ?」と呆然とする中、私は怒りに任せて、足元に置いてあった「重くて邪魔だったカバン」をひっくり返した。


(あー、もう! 昨日の掃除で出たゴミとか、教会の倉庫からパクってきて結局使い道のわからなかったガラクタとか、全部まとめてぶつけてやる!)


 私はカバンの中から、錆びついた「鉄の輪」を掴み取った。

 それは教会の地下で「重石おもしにちょうどいい」と思って拾ったものだが、表面がガサガサで見た目も最悪、まさにゴミだ。


「これでも食らって、さっさと実家に帰りなさいよ、この筋肉ダルマ!」


 私は、聖女としての全筋力(と、積もりに積もった睡眠不足の怒り)を込めて、その鉄の輪をヴァルガンの顔面にめがけて投げつけた。


 ――瞬間。

 空気を切り裂いて飛んでいったその「ゴミ」が、太陽銀貨の残光を吸い込んで、まばゆい紫銀の輝きを放ち始めた。


「なっ、……それは、まさか……失われた伝説の封印具『ソロモンの制殻』だと!? なぜ、そんな神話の遺物を、あんな雑な投げ方で――ぐわあああぁぁ!!」


 鉄の輪は、ヴァルガンの頭上に到達した瞬間、百倍以上の大きさに膨張。

 そのまま垂直に落下し、軍団長とその周辺の精鋭部隊を「串刺しの輪投げ」のように地面ごと締め上げた。

 それは単なる物理的な拘束ではない。魔族の魔力供給を完全に遮断し、存在そのものを「家畜」レベルまで弱体化させる最凶の封印術が発動したのだ。


「……え、当たった?」


 私がポカンとしていると、隣にいたアイリスが、もはや言葉にならないといった様子で膝をついた。


「……信じられません。あの、一国を滅ぼすと恐れられたヴァルガンを、あえて『錆びた鉄の輪』一本で、しかもサンダル履きで無力化されるとは。……エルゼ様、あなたは暗にこうおっしゃったのですね。『お前など、ゴミを処理する手間で十分だ』と」


 ジークフリート王子も、鍬を放り出して震えている。


「何という精神的圧迫……! 軍団長を『輪投げの標的』として扱うことで、魔王軍全体のプライドを粉々に砕いた……! これこそが、真の覇者の戦い方か!」


 さらに、私の怒りは収まらない。

 カバンの中から、次に手に取ったのは「半分に割れた石板」だ。

「これも邪魔なのよ! 漬物石にもならないんだから!」


 ブンッ、と二投目を放つ。

 石板は空中でパズルのように組み合わさり、古代文字が発光。

 魔王軍の頭上に「隕石メテオ」ならぬ「聖なる岩石ホーリー・ロック」を数百個召喚し、漆黒の軍勢を文字通り「物理的に」埋め立ててしまった。


「ギャアァァァ! 聖女が石を投げただけで、軍団が全滅したぞ!」

「あれは石じゃない、神罰だ! 神罰が降ってきたんだ!!」


 阿鼻叫喚の図。

 わずか一分足らずで、魔王軍第四軍団は、数名の生存者を残してクレーターの底へと消えた。


 私は、空になったカバンを振り回し、静まり返った戦場(元・庭先)に向かって吠えた。


「次に来るときは、手土産くらい持ってきなさいよね! あと、午前十時までは絶対静かにすること! わかった!?」


「「「ひ、ひぃぃぃぃぃ!! 承知いたしましたぁぁぁ!!」」」


 生き残った魔族たちは、気を失ったヴァルガンを引きずりながら、脱兎の如く逃げ去っていった。


 ……あ。

 ふと我に返ると、アイリス、王子、ベルティナ、そして村人全員が、私を見ていた。

 その瞳に宿っているのは、もはや「崇拝」を通り越した「畏怖」だ。


「……あの、皆さん? 今のはその、ちょっと寝不足でイラッとしただけで……」


「……エルゼ様。今、誓いました」


 アイリスが、かつてないほど冷徹で、かつ狂気に満ちた微笑みを浮かべて立ち上がった。


「あなたを魔王にする……いえ、この世界の『唯一神』として戴戴するまで、私たちは決して止まりません。あなたのために、世界中の『静寂』を集めてまいりましょう」


(……いや、魔王にはなりたくないし、唯一神も重すぎるってば!)


 私の安眠を勝ち取るための「ちょっとした八つ当たり」は、魔王軍を震撼させ、人類を狂喜させ、私を「史上最強の戦略聖女」という逃げ場のない玉座へと押し上げてしまったのである。

「八つ当たりで放ったゴミが、実は最終決戦用の神器だった」の巻。

エルゼの「カバン」は、教会の汚職の歴史が詰まった、とんでもないゴミ箱……じゃなくて宝物庫でした。

軍団長を「輪投げのピン」扱いするその不敬な強さに、周囲の勘違いはもはや神域へ。


そして、第1章はいよいよクライマックス。

世界がエルゼを「神」として認めざるを得なくなった時、彼女が取る「最後の手」とは!?


「石板を漬物石扱いはひどいw」

「アイリスの目がマジで怖くなってきた」

と思っていただけたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価】をよろしくお願いします!


次回、第9話:

「この涙は、あなたへの忠誠の証です(※エルゼは引いている)」

戦いの後の宴。しかしエルゼは、さらなる「退職計画」を練っていて……?

お楽しみに!

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