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第7話:『お帰りください』が『よく来てくださいました』に変換される謎

世界樹の木陰、エルゼ神国(仮)。

 私の庭には、今や豪華なティーセットが並び、元魔王軍将軍のベルティナが完璧な所作でお茶を注いでいる。……視界の端で、アイリスが「お茶を淹れる作法にまで神聖術の理が……!」とブツブツ呟いているのは無視することにした。


「はぁ。これよ、これ。この静寂が欲しかったのよ……」


 私がようやく一口、高級な(村人がどこからか調達してきた)お茶を啜った、その時だった。


「聖女エルゼ様! 隣国ソルステイム王国の第一王子、ジークフリート殿下が、騎士団一千を引き連れて謁見を求めておられます!」


 門番を務める元ゴブリン(現在は『黄金の盾』を授かった聖騎士気取り)が、鼻息荒く報告してきた。


(一千!? 騎士団!? 冗談じゃないわよ、そんな大人数、食費だけで私の隠し財産が吹き飛ぶじゃない!)


 しかも相手は「大陸一の賢王子」と名高いジークフリート。そんな切れ者に、私のボロ……もとい、着服工作が見破られたら一巻の終わりだ。

 私は立ち上がり、殺意を込めて言い放った。


「……追い返しなさい。一歩でもこの聖域に足を踏み入れたら、ただじゃおかないわ。私の顔を見せる価値もないって伝えて!」


「はっ! かしこまりました、その峻厳なる御心、必ずや!」


 よし。これでプライドの高い王子様なら、怒って帰るはず。

 ……だというのに、十分後。

 門の向こうから、軍隊の怒号ではなく、むせび泣くような男の声と、地を揺らすような称賛の叫びが聞こえてきた。


「おお……おおお!! なんと、なんと慈悲深く、そして厳しい教えだ……!!」


 豪華な鎧に身を包んだ金髪の美男子――ジークフリート王子が、門の前で馬を降り、泥まみれになって跪いているではないか。

 私は、アイリスとベルティナを引き連れて、仕方なく門へと向かった。


「……何なの、この状況」


 私が顔を出すと、ジークフリート王子は雷に打たれたような顔をして、私を仰ぎ見た。


「聖女エルゼ様……! たった今、貴女の使いの方からお言葉を賜りました。『一歩でも足を踏み入れたらただじゃおかない』。……これは、『今のままの汚れた野心を抱いて入るなら、お前の魂は救われない』という警告。そして『顔を見せる価値もない』とは、『真理は目に見える容姿ではなく、自らの内に求めよ』という無言の説法……!!」


「……は?」


「私は、軍勢を引き連れて貴女を迎えに来ようとした。つまり、武力という『力』で貴女を縛ろうとしたのです。貴女はそれを見抜き、あえて拒絶することで、私に『真の王としての謙虚さ』を叩き込んでくださった……!」


 王子が背後の騎士団に手を振ると、彼らは一斉に武器を捨て、地面に膝をついた。


「我々は愚かでした! 今、この軍勢は武装を解き、貴女の村を整備するための『作業員』として志願いたします! 武器をくわに持ち替え、この地に尽くすことで、いつか貴女の顔を見せるに相応しい男になってみせる!!」


 ――わあぁぁぁぁぁ! 王子様、万歳! エルゼ様、万歳!!

 村人たちが熱狂し、王子は自分の首にかけていた「国宝級の魔導ペンダント」を外すと、門の柵にそっと捧げた。


「これは軍資金の足しにしてください。私は今日から、一人の修業者として、この村の溝掃除から始めさせていただきます!」


(……待って。王子。アンタ、賢王子じゃなかったの? 脳みそお花畑なの?)


 私が絶望でふらつくと、アイリスが私の肩を支え、感涙にむせんだ。


「エルゼ様……。まさか、隣国の軍隊を一兵も損なうことなく、一瞬で平和的な開拓団に変えてしまわれるとは。このジークフリート王子といえば、野心家で知られた男。その彼を、たった一言で『掃除当番』に変えてしまうなんて……。軍神も裸足で逃げ出す戦術眼です!」


 ベルティナまでもが、感心したように頷く。


「……ふん、あのお高くとまった人間を、私と同じ『掃除係』に落とすとは。エルゼ様、貴女という人は、本当に人の自尊心を折るのがお上手ですね。尊敬します」


「…………」


 私は、門にかけられた国宝のペンダントを見つめた。

 ……これを売れば、確かに大金が手に入る。

 だが、その代わりに私の庭には、一千人の「エリート騎士」という名の「聖女ファンクラブ・武装支部」が常駐することになってしまった。


 私は空を仰いだ。世界樹の葉が、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。


(あーあ……。溝掃除の王子なんて、実家に連絡されたら私が誘拐犯扱いされるじゃない。……もういいわ。このペンダント、メルカリ……じゃなくて、闇市で売れるかしら……)


 私の安眠への願いは、またしても「国家予算級の寄進」と「暑苦しい忠誠」の下に埋もれていくのだった。

「追い返せ」と言ったら「軍隊がボランティア団体になった」件。

賢ければ賢いほど、エルゼの何気ない暴言を「高度なレトリック」だと勘違いしてしまう。

これが隣国の王子まで感染し、もはやエルゼ神国は国際的な「聖地」として認められつつあります。


王子という名の「強力なスポンサー兼・雑用係」をゲットしたエルゼ。

しかし、彼女の心は一向に休まりません!


「王子の壊れっぷりがいいw」

「エルゼの『メルカリ』発言に笑った」

と思っていただけたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価】をよろしくお願いします!


次回、第8話:

「激怒の聖女、神器ゴミを投擲して魔王軍を沈黙させる」

ついに、平和になりすぎた村を快く思わない魔王軍が、総力を挙げて攻めてくる!?

お楽しみに!

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