表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

第6話:銀髪騎士アイリス、絶望の中で『光』を見る

私は、己の未熟さを恥じていた。

 王国最強の騎士、銀髪のアイリス。そう呼ばれ、剣の腕一本で成り上がってきた私にとって、世界は常に「白か黒か」でできていた。守るべき正義と、斬るべき悪。それ以外のものは、すべて雑音に過ぎなかった。


 あの日、私がエルゼ様と出会うまでは。


 当初、私の彼女に対する評価は最悪だった。

 聖女の座にありながら、祈りの最中に欠伸を噛み殺し、供え物のワインを盗み飲みしようとし、隙あらば教会の予算をちょろまかそうとする「強欲な女」。

 私は彼女を護衛しながら、内心で軽蔑していた。この女は聖女の皮を被った偽物だ。いつかその化けの皮を剥いでやろう、と。


 ――だが、私の「正義」は、あまりにも矮小だった。


 忘れもしない、半年前の「枯死病」の騒乱。

 王都の貧民街を謎の疫病が襲い、既存の治癒魔法が一切通用せず、人々が次々と動かぬ肉塊と化していった時。

 教会の高官たちは感染を恐れて隔離を命じ、見捨てようとした。私もまた、騎士として「被害を最小限に抑えるための封鎖」を冷徹に遂行しようとした。


 その時、エルゼ様だけが動いたのだ。


「ああ、もう! 湿っぽいわね! こんな暗いところにいたら、こっちまで気分が落ち込むじゃない。さっさと掃除して、パッと明るくしなさいよ!」


 彼女はそう叫びながら、汚物と死臭の漂うスラムへと土足で踏み込んだ。

 私は止めた。「汚れます! 感染します!」と。

 だが、彼女は私を突き飛ばし、手に持っていた聖水を――あろうことか、地面の泥水に向かって「汚いわね!」とブチ撒けたのだ。


 その瞬間、私は悟った。

 彼女が捨てたのは、聖水ではない。**「己の安全」という名の傲慢さ**だ。

 彼女が「汚い」と罵ったのは、病そのものではなく、**「病に怯えて同胞を見捨てる我々の心の汚れ」**だったのだ。


 彼女が泥に聖水を混ぜたことで、汚染されていた地下水脈がすべて浄化され、翌朝にはスラムの住人全員が完治した。

 奇跡を目の当たりにして泣いて感謝する人々に対し、彼女は冷たく言い放った。

「あー、腰が痛い。もう二度とここに来させないでよね(=あなたたちが二度と病にならないことを祈っている)」


 ……なんという。なんという深き慈悲。

 彼女は感謝されることすら拒み、あえて「悪役」を演じることで、救われた人々に負い目を感じさせないようにしたのだ。

 その時から、私の剣は彼女のためにあった。


 そして今、目の前の光景を見て、私は再び魂の震えを禁じ得ない。


「……はぁ。また変なのが増えた。もう、ここはただのキャンプ場じゃないのよ」


 世界樹の木陰で、エルゼ様がけだるそうに呟く。

 その足元には、かつて魔王軍の凶将として恐れられたベルティナが、エプロンを翻して健気に庭を掃いている。

 

 エルゼ様は、ただの「暗殺」という解決を選ばなかった。

 敵を殺せば、新たな憎しみが生まれる。だから彼女は、あえて「メイド」という役割を与え、生活を共にすることで、魔族の魂に「日常」という名の救済を刻み込んでいるのだ。

 

「ベルティナ、そこの隅にホコリが残ってるわよ。やり直し!」

「くっ……申し訳ありません、エルゼ様。すぐに……すぐに清めますっ!」


 ベルティナの顔には、かつての殺意はない。あるのは、絶対的な強者――精神的な高潔さに屈服した者の、悦びを伴う服従心だ。

 

(エルゼ様……。あなたは、世界を力でねじ伏せるのではない。その『我が儘』という名の至高の意志で、世界の歪みを強制的に矯正してしまわれる……!)


 彼女が「寝たい」と言えば、それは世界の安息を意味する。

 彼女が「金が欲しい」と言えば、それは富の再分配を意味する。

 彼女が「面倒くさい」と言えば、それは無駄な争いを止めるための平和の鍵となる。


「アイリス! 何ボーッとしてるのよ。喉が渇いたから、お茶。……あ、お茶の葉がないわね。適当にその辺の世界樹の葉っぱでも煎じて出しなさいよ」


「……っ!! 世界樹の葉、つまり『神の雫』を、私のような未熟者に煎じさせてくださるのですか!? その高度な練金作業を通じ、私の魔力回路を鍛えろというのですね……!」


「いや、ただのティータイムだって言ってるでしょ……。もう、いいわよ。自分でやるわ」


「滅相もございません! このアイリス、魂を込めて一滴の濁りもない神茶を淹れてまいります!!」


 私は駆け出した。

 エルゼ様の背後で、世界樹が黄金の光を増したように見えた。

 

 私は誓う。この命が尽きるまで、彼女の「隠居(という名の世界救済計画)」を全力でサポートし、彼女を世界の頂点――全人類が膝をつく「真の神域」へと押し上げることを。


 それが、彼女の望む「静かな生活(=神による完璧な統治)」への最短ルートだと信じているから。

アイリス視点、いかがでしたでしょうか。

彼女の「超訳フィルター」の原点は、過去にエルゼが「面倒くさがって適当にやったこと」が、偶然にも最悪の状況を救ってしまった体験にありました。

一度「この人は凄い!」と思い込んだエリートの脳は、どんな矛盾も「深読み」で解決してしまう……。


エルゼがどれだけ「クズ発言」をしても、アイリスがそれを「聖書の一節」に書き換えてしまうため、エルゼの社会的地位は上がる一方です。


次回、第7話:

「『お帰りください』が『よく来てくださいました』に変換される謎」

(※前回の引きと合わせ、さらに本格的な『エルゼ神国化』が進行します!)


「アイリスの勘違いが重すぎて面白い」「エルゼの逃げ場がどんどんなくなるw」

と思っていただけたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価】をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ