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第5話:掃除のついでに世界樹の種を植えてしまったかもしれない

私の「楽園」は、日に日に人口密度を増していた。

 朝起きたら家の前に「聖女様に捧げる朝採れ野菜」がピラミッドのように積まれ、昼には亜人の子供たちが「聖女様の髪を編ませてください!」と行列を作る。


(……限界。もう限界よ。なんで隠居しに来たのに、人気アイドルの握手会みたいな生活してんのよ!)


 私は、手に持っていた「得体の知れない丸い木の実」を、庭の隅の土の中に思いっきり叩き込んだ。

 数日前、カバンの底を漁っていたときに見つけたものだ。教会の地下倉庫で「これ、クルミっぽくて美味しそう」と思って掠め取ってきたのだが、殻が硬すぎて歯が立たなかった。

 食べられないなら、ただのゴミだ。ポイである。


「よし、埋めた。ついでに、この辺の目障りな雑草も全部根こそぎにしてやるわ!」


 私は苛立ちに任せ、カバンから「太陽銀貨」を一枚取り出した。

 本来なら一枚で城が建つ秘宝。それを贅沢に「除草剤代わり」に使う。

「いい? この辺を掃除して、何もかもスッキリさせなさい。邪魔なものは全部吹き飛ばしていいから!」

 私は銀貨を空中に放り投げ、精霊に命じた。


 瞬間、銀貨が真っ白な光を放ち、周囲の瘴気や雑草――そして、その背後に潜んでいた「不純物」を感知した。


 ――その時である。

 庭の影から、一筋の黒い雷光が私に向かって放たれた。


「死ね、偽りの聖女! 我が魔王軍が誇る隠密将軍、ベルティナが引導を渡してやるわ!」


 現れたのは、褐色の肌に銀の髪、そして鋭い耳を持つダークエルフの美女だった。

 魔王軍十将軍の一人。彼女は数日前からこの村に潜入し、私の隙を伺っていたらしい。


(えっ、誰!? 暗殺者!? 待って、心の準備が――)


 だが、私が驚くよりも早く。

 精霊に「掃除」を命じられた太陽銀貨の光が、ベルティナの放った暗黒魔法を「ただの汚れ」として認識した。


「なっ……!? 私の絶影雷鳴ぜつえいらいめいが、霧散した……だと!?」


 それだけではない。

 銀貨の光は、私が「埋めたゴミ(木の実)」に過剰なまでの魔力を流し込んでいた。

 私が「スッキリさせたい」と願った結果、精霊は「この汚れた地の瘴気を全て吸い上げる、巨大な浄化の柱を建てるべき」と判断したのだ。


 地響きが鳴り響く。

 私がさっきクルミを埋めた場所から、猛烈な勢いで「芽」が吹き出した。

 芽は一瞬で太い幹となり、天を突くほどの巨木へと成長していく。


「な、なになになに!? 庭にいきなり杉の木が生えたんだけど!?」


 いや、杉どころではない。

 それは、神話にのみ語られる、あらゆる病と邪悪を拒絶する伝説の巨木――『世界樹ユグドラシル』だった。

 私が「硬いクルミ」だと思っていたのは、千年に一度しか実らない世界樹の種だったのである。


「……あ、あああ……」


 ベルティナは、眼前に聳え立つ黄金の巨木の威圧感に、武器を落としてその場にへたり込んだ。

 世界樹の周囲には、魔族にとって猛毒に等しい「超純粋な聖域」が形成される。

 本来なら、彼女は一瞬で消滅してもおかしくなかった。


 だが、ここで私の「掃除」命令が変な方向に働いた。

 精霊は、ベルティナを「排除すべきゴミ」ではなく、「掃除を手伝わせるための道具」として再定義したのだ。


「ええい、もう! 立ち入り禁止って言ってるでしょ! あんた、そんな格好して暗殺者だか何だか知らないけど、そこら中に変な黒い魔法のカスを撒き散らさないでよ。汚いわね!」


 私は、腰を抜かしているベルティナに向かって、手に持っていたホウキを突きつけた。

(あー、もうイライラする。どうせアイリスたちが来るんだから、この不審者も捕まえなきゃ)


 ベルティナは、震えながら私を見上げた。


「……殺さないのか? この私……魔王軍の将軍である私を、あえて生かし……その上で、汚れを拭えと……?」


「そうよ! 自分の汚したところくらい、自分で綺麗にしなさいよ!」


 私がやけくそで怒鳴ると、ベルティナの瞳から涙が溢れ出した。


「……くっ、殺せ! 誇り高きダークエルフを、掃除婦メイドとして扱うなど……そんな屈辱、耐えられるわけが――」


「あ、エルゼ様! その方は……っ!?」


 騒ぎを聞きつけたアイリスが、剣を抜いて駆け寄ってきた。

 アイリスは、庭に突如出現した世界樹と、その前で私に説教されているベルティナを見て、またしても「悟り」の表情を浮かべた。


「……なるほど。そういうことでしたか」


(どういうことよ!)


「エルゼ様は、最強の敵将を武力で屈服させるのではなく、あえて『労働』という名の更生プログラムに組み込むことで、彼女の魂を根底から浄化しようとされているのですね。世界樹の苗床を管理させることで、魔族としての属性を上書きする……。なんと、なんと恐ろしいほどの教育的慈愛!」


 アイリスは感極まり、ベルティナに向かって言い放った。


「感謝するがいい、魔族の女よ! あなたは今、世界で最も贅沢な『奉仕』の権利を与えられたのだ! 世界樹の加護を受けながら、エルゼ様の身の回りのお世話をする……これ以上の名誉があると思うか!?」


「なっ……!? この私が、この女の……メイドに……?」


 ベルティナは私を見た。

 私はただ、早く掃除を終わらせて寝たい一心で、「早くしなさいよ、このノロマ!」とばかりにホウキを振った。


 その瞬間。

 世界樹からハラハラと落ちてきた黄金の葉が、ベルティナの不吉な鎧を、白と黒の「フリル付きの服」へと作り替えてしまった。

 精霊が「掃除係に相応しい格好」を具現化してしまったのだ。


「……あ、ああ……。魔力が、書き換えられていく……。逆らえない……この方の、あまりにも純粋な『傲慢(という名の慈悲)』には……」


 こうして、魔王軍十将軍の一人は、その場で私の「専属メイド(雑用係)」にジョブチェンジさせられた。


 私は、急成長した世界樹の木陰で、ますます豪華になった「庵」を見上げ、深すぎる溜息をついた。


(……ねえ。世界樹なんて植えたら、もっと人が来るじゃない。メイドなんて雇ったら、もっと生活が本格化しちゃうじゃない。私のスローライフ、どこに行ったのよぉぉぉ!!)


 私の絶叫は、世界樹が放つ神々しいハミングにかき消され、今日もまた「聖女の新たな奇跡」として周辺諸国へ伝わっていくのだった。

「掃除のついでに世界樹」という、なろう史上最大級のうっかり。

そして、最強の暗殺者を「掃除婦」として雇用してしまうエルゼの豪胆さ(本人はただの八つ当たり)。

ベルティナという「不憫可愛いヒロイン」が仲間に加わり、物語はさらに賑やかになります!


ベルティナのメイド服姿、見てみたいと思っていただけたら

ぜひ【ブックマーク】や【評価】をよろしくお願いします。

あなたの応援が、彼女たちの「勘違い」をさらに加速させます!


次回、第6話:

「銀髪騎士アイリス、絶望の中で『光』を見る」

アイリス視点のエピソード。なぜ彼女がここまで狂信的になったのか、その「重すぎる過去」が明らかに!?

お楽しみに!

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