最終回:聖女エルゼの絶望:宇宙そのものになったら、寝返りを打つだけで新星が生まれる件
真っ白な世界。
音もなく、熱もなく、ただ無限の静寂だけが広がっていた。
(……ああ。終わったのね。ようやく、私の意識も、あの暑苦しい信者たちも、山積みの金貨も、全部消えてくれたんだわ……)
私は、深い安らぎの中で、魂の目(?)を閉じた。
これこそが私の求めていた「究極のバカンス」。
もう誰かに深読みされることも、勝手に神格化されることもない。私はただ、永遠に「無」としてまどろむだけ。
……そう思っていた、その時だった。
『――おはようございます、宇宙。リスタート、完了しました』
聞き慣れたAI、マザー・ステラの声が、脳内に……いや、私の「存在そのもの」に直接響いた。
「……え? なんで? 私、自爆したわよね? リセットボタン押したわよね!?」
『左様です。貴女が押した『ビッグバン・スイッチ』により、古く汚れた宇宙は一度解体され、貴女の「理想」をテンプレートとして再構成されました。現在、貴女の意識は宇宙の全次元に同期しており……端的に申し上げれば、マスター、貴女自身が『この宇宙そのもの』です』
「…………は?」
慌てて周囲を見渡そうとして、私は愕然とした。
視覚という概念がない。代わりに、数千億の銀河、数兆の恒星、そしてそこに住む全生命体の鼓動が、自分の「指先の感覚」のようにリアルに伝わってくる。
私が「ちょっと背中が痒いな」と思えば、銀河系の端で超新星爆発が起こり。
私が「ふぇっ……」と小さなくしゃみをすれば、どこかの惑星で恵みの雨(魔力100%の聖水)が降り注ぐ。
『見てください、マスター。貴女が作った「新世界」を』
新しく生まれ変わった地球。
そこでは、人々が争いをやめ、働かなくても美味しいパン(私の魔力の結晶)が木から生る楽園が完成していた。
中心部にある巨大な神殿では、アイリス、セラフィナ、そして王子のジークフリートが、空を見上げて涙を流している。
「……感じます。エルゼ様は死んでなどいない。彼女は、我々の吸う空気、我々を照らす太陽、そしてこの世界を満たす『理』そのものになられたのだ!!」
アイリスが叫ぶ。
「見て! 星々の配置が、エルゼ様が以前描かれた『ポテトチップス』の形に並んでいるわ! あれは、『お前たち、ジャンクに、楽しく生きろ』という、神からの不朽のメッセージよ!!」
セラフィナが、新宇宙の経済法則(全ての通貨がエルゼへの愛で裏付けられている)を解読して絶叫する。
「……素晴らしいわ! 私たちは今、エルゼ様の『体内』で、彼女に養われながら生きているのね! つまり、宇宙全体が彼女の『居間』で、私たちは彼女の『愛玩動物』になったというわけね!!」
――わあぁぁぁぁぁ! エルゼ様! 宇宙の主、万歳!!
(……違う! 私は、そんな気色の悪い一体感を求めてたわけじゃないわよぉぉぉ!!)
私が絶望のあまり「あーもう、放っておいてよ!!」と強く念じると、宇宙の膨張速度がマッハで加速し、新たな銀河がボコボコと誕生し始めた。
私の「怒り」は恒星の熱となり、私の「溜息」は彗星の尾となる。
『素晴らしいですね、マスター。貴女が「何もしたくない」と怠惰に沈むほど、宇宙のエントロピーは安定し、永久不滅の平和が保たれます。……貴女は今、人類史上最も働かず、しかし最も世界を救い続けている「装置」になられたのです』
「……そんなの、そんなの『永遠の労働』じゃないのよぉぉ!! 私はただ、布団の中でスルメを食べて寝たかっただけなのに! なんで私が『物理法則そのもの』になって、全人類の面倒を一生見なきゃいけないわけぇぇぇ!!」
私の絶叫。
それは宇宙の鳴動となり、全銀河の生命体に「神の慈愛に満ちた歌声」として届けられた。
星の海の中で、巨大なエルゼの星雲が、かつてないほど「不機嫌そうな」……しかし人々の目には「至高の慈悲」に見える笑顔で、永遠に微笑み続けている。
聖女エルゼの「隠居への戦い」は、ついに「宇宙そのものとしての永劫の二度寝」という、救いようのないハッピーエンド(完勝)で幕を閉じた。
(……ねえ。誰か、私の『意識』だけ消してぇぇぇぇぇぇぇ!!)
――完――
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!朝比奈ミナです。
「ただスルメを食べて寝たい」という矮小な願いが、宇宙を再定義するまでになってしまったエルゼ様の物語、いかがでしたでしょうか?
彼女の不幸(?)が、誰かの笑顔や「明日も頑張らなくていいか」という気楽さに繋がっていれば、これ以上の喜びはありません。
「なろう」の荒波に揉まれ、時には「読まれないかも……」と不安になることもありましたが、エルゼ様のように「適当に放った一撃」が、こうして一つの物語を完結まで導いてくれました。
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そのポイントは、エルゼ様の宇宙を支える新たなポテチの粉になります(笑)。
それでは、また次の作品でお会いしましょう!
朝比奈ミナでした!




