第19話:『ただの雑草』が隣国で『万能薬』として輸出規制される地獄
「……腰が痛い。もう嫌。なんで神様なのに自分で草むしりしてんのよ」
私は今、迎賓館の裏庭で、泥にまみれて這いつくばっていた。
元・魔王軍将軍のベルティナが掃除係として働いているはずなのだが、彼女は今、世界樹の枝に止まった「伝説の火の鳥」と領土争い(という名の餌付け)をしていて手が離せないらしい。
放置された庭には、見たこともない色鮮やかな「雑草」が、不気味なほどの生命力で生い茂っていた。
「全部世界樹のせいよ……。あんなデカい木が庭にあるから、余計な栄養が地面に漏れ出して、雑草までバカみたいに育つのよ」
私はイライラしながら、足元に生えていた「虹色に光るタンポポのような何か」を根こそぎ引き抜いた。
それを、ちょうど通りかかったソルステイム王国の宮廷医師――昨日から私の「健康診断(という名の御尊顔拝聴)」のためにストーカーまがいの付き纏いをしている老人――に向かって、叩きつけるように投げつけた。
「ほら! 邪魔よ! そんなに私の体に興味があるなら、代わりにこのゴミでも調べてなさいよ!」
私は鼻を鳴らして、次の雑草に手をかけた。
……ところが。
その「虹色のタンポポ(ゴミ)」が顔面に直撃した老医師は、その場で泡を吹いて倒れ……。
次の瞬間、若返った。
「……え?」
シワシワだった老人の肌が、一瞬で二十代のハリを取り戻し、真っ白だった髪が漆黒に染まった。彼は自分の手を見つめ、絶叫した。
「……な、直った……! 長年私を苦しめていた、不治の魔力枯渇症が……! それどころか、視力も聴力も、失われたはずの青春までもが!!」
「(……は?)」
老医師は、地面に落ちた「しおれかけの雑草」を、神の遺体でも扱うかのような手つきで拾い上げた。
「これだ……これこそが、神話に語られる失われた薬草『エリクシル・プラント』!! 聖女様は、私が余命幾ばくもないことを見抜き、あえて『ゴミ』と呼ぶことで私のプライドを傷つけぬよう、この至宝を授けてくださったのだ!!」
――わあぁぁぁぁぁ! 奇跡だ! 聖女様による若返りの儀式だ!!
周囲にいた騎士たちが一斉に私の庭に押し寄せ、私が引き抜いて捨てていた「雑草の山」に群がった。
そこへ、電卓の音が鳴り響く。財務大臣セラフィナが、血走った目で私の前に現れた。
「エルゼ様。……貴女という人は、本当に底が知れませんね。……この雑草一枚で、末期がんが治り、失われた四肢が再生し、おまけにハゲまで治る。……これ、今の市場価値に換算すると、一枚で金貨三万枚は下りませんわ」
「……ただの草よ? 掃除の邪魔だから抜いただけよ?」
「『掃除』……。左様でございます。貴女は世界の『病(不純物)』を、庭の雑草を抜くかのような軽やかさで排除される。……ですが、これは危険すぎます。こんなものが他国に流出したら、医療ギルドが全滅し、我が国の軍事力は死なない兵士による『不滅軍団』となってしまいます!」
セラフィナは即座に、国王フリードリヒに通信魔法を飛ばした。
「陛下! 直ちに『エルゼ草』の輸出を全面禁止にしてください! これは国家最高機密、戦略物資です! 許可なくこの草を庭から持ち出した者は、反逆罪として処断します!」
「……はぁ!? 輸出規制!? 庭のゴミを!?」
私が叫ぶのと同時に、隣国のスパイや商人たちが「エルゼ草を一株でもいいから手に入れろ!」と、迎賓館の周りで暴動を起こし始めた。
それに対し、ジークフリート王子率いる「掃除騎士団」が、「聖女様の庭を荒らす不届き者め!」と、昨日磨き上げたばかりの盾を構えて応戦する。
「守れ! この雑草こそが、人類の明日を照らす光だ!!」
「エルゼ様が『邪魔だ』と仰ったのだ! つまりこれは、選ばれし者以外が手にしてはならない『禁断の果実』!!」
「…………」
私は、手に持っていた最後の一束の雑草を見つめた。
……これを捨てれば、また誰かが若返り、戦争が起きる。
かといって、持っていれば「薬の神様」として、一生ボランティア活動を強いられる。
私は、やけくそでその雑草を、自分の口に放り込んで飲み込んだ。
「もういいわよ! 誰にもあげないわよ! 私が全部食べてやるんだからね!!」
……瞬間。
私の体から、太陽のような強烈な光が放たれた。
雑草に凝縮されていた世界樹の魔力が、私の中にあった「昨日の酒の残り」を完璧に分解し、ついでに肌を陶器のように美しく作り替え、私の寿命をさらに数百年ほど引き延ばしてしまった。
「……あ、あああああ……!! 見ろ! 聖女様が、自ら毒を食らう『神農』の如き自己犠牲を!!」
「我々の強欲を鎮めるために、あえて全ての薬草をその身に宿されたのだ!!」
アイリスが号泣し、セラフィナが「聖女様のバイタルデータ(時価総額)がさらに跳ね上がったわ!」と叫び。
私は、口の中に残る「苦い草の味」を噛み締めながら、遠い目で空を見上げた。
(……ねえ。私はただ、庭を綺麗にして、お昼寝したかっただけなのよ。なんで私が『人類の全疾病を背負った生きる薬箱』みたいな扱いになってるわけぇぇぇ!!)
空を見上げれば、巨大な「私」が、元気になりすぎた人類を見下ろして、かつてないほど健康的な笑顔で微笑んでいた。
エルゼの「草むしり」は、大陸の医療制度を根底から破壊し、彼女を「死を許さない無慈悲な女神」という、さらなる孤独な頂へと押し上げてしまったのである。
「草むしり(ゴミ捨て)」が「医療革命と輸出規制」を招いた件。
エルゼが口にしたことで、彼女自身の「一滴の血」や「一本の髪」すらも万能薬として扱われる地獄の幕開けです。
もはや、彼女が不健康になることすら世界が許しません。
次は、元気になりすぎた人類が、エルゼのために「さらなる無理難題」を持ってくる!?
第20話:
「天界の調査員(元・天使)、エルゼの怠惰を『悟りの境地』と誤認して永住を決める件」
(※前回の天使ルミニエルが、ニート生活を経て再登場……!?)
お楽しみに!
「ハゲまで治る雑草は強すぎるw」
「『生きる薬箱』という名の監禁生活……w」
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