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第18話:隣国王子ジークフリート、溝掃除の経験を活かして国家改革へ

ソルステイム王国の王宮。その美しく磨き上げられた大廊下に、場違いな「泥」の匂いが漂っていた。

 私は、迎賓館のバルコニーからその光景を眺め、頭痛をこらえていた。


「……ねえ、アイリス。あそこで泥まみれになって、王宮の排水溝に頭を突っ込んでる不審者は誰?」


「エルゼ様。不審者ではありません。我が国の第一王子、ジークフリート殿下です」


 財務大臣セラフィナが、誇らしげに眼鏡を光らせて答えた。

 見れば、そこには金髪を泥で汚し、高価なシャツの袖をまくり上げたジークフリートが、必死に鉄の棒を振り回してドブを突ついていた。


(……一国の王子が、実家の玄関で何やってんのよ。教育に悪いでしょ。私の評判まで下がるじゃない)


 私は、いい加減この「溝掃除ブーム」を終わらせるべきだと確信した。

 私が以前、彼に掃除を命じたのは、単に「暇そうに私の顔を見てくるのがウザかったから」であって、別にプロの清掃員になってほしかったわけじゃない。


「ジーク、いい加減にしなさい! 王子ともあろう者が、そんな汚い場所をいつまでもいじって……。みっともないわ、さっさとその『ドブ』から手を引きなさい!」


 私は、テラスから最大限に軽蔑を込めて言い放った。

 これを聞けば、プライドの高い王族ならハッとして、自分の愚かさに気づくはずだ。


 ところが。

 ジークフリートは、排水溝から顔を上げ、目に涙を浮かべて私を仰ぎ見た。


「……おお! 聖女エルゼ様! ついに、ついに『本質』を突くお言葉を……!!」


「(……は?)」


「『みっともない場所を弄るな』。……左様でございます。私が今さら物理的な泥を掃いたところで、この国の根底に流れる『制度の腐敗』を無視しては何の意味もない! 私が本当に手を引くべきは、この物理的なドブではなく、私を甘やかしてきた『旧態依然とした特権階級』という名の泥沼だったのですね!!」


 ジークフリートは、泥だらけの鉄棒を天に掲げた。


「聞きなさい、ソルステイムの廷臣ていしんたちよ! 聖女様は仰った! 表層の掃除ではなく、国の深部に詰まった『利権の詰まり』を解消せよと! 私が今から掃除するのは、排水溝ではなく、貴殿たちの汚職にまみれたふところだ!!」


 ――ええぇぇぇぇぇ!?


 廊下で様子を伺っていた貴族たちが、一斉に顔を真っ青にした。

 ジークフリートは、私が「みっともないから捨てろ」と言った掃除用具(実はエルゼが適当に渡した聖遺物の破片)を振り回し、王宮の秘密金庫の扉を物理的に破壊した。


 そこから溢れ出したのは、長年隠蔽されていた贈収賄の証拠書類と、不正に着服された魔導石の山。

 ……つまり、ジークフリートが掃除していた「ドブ」の先には、偶然にもこの国の最大のスキャンダルが埋まっていたのだ。


「……素晴らしいわ、エルゼ様」


 セラフィナが、猛烈な勢いで書類を回収しながら囁く。


「『ドブから手を引け』……。それは、『物理的な労働を部下に任せ、王子としての権力(手)を政治の浄化ドブに振るえ』という、二重三重の比喩だったのですね。貴女の一言で、この国の不透明な予算がすべて白日の下に晒されました。……これで、さらに一兆ゴルドは浮きますわ」


「違うの。私はただ、泥だらけの男が近くにいるのが不快だっただけなのよ」


「『不快』……。国民の苦難を共有できない汚職政治家への、神としての生理的な拒絶ですね。……すぐに特別裁判所を設立し、彼らを全員、エルゼ様が以前おっしゃった『更生施設(カジノ跡地)』へ送ります!」


 ――わあぁぁぁぁぁ! 王子様による大粛清(お掃除)だ! 聖女エルゼ様、万歳!!


 街中では、汚職役人が次々と連行される様子を見て、民衆が狂喜乱舞している。

 

 ジークフリートは、返り血(という名の泥水)を浴びたまま、私の元へ歩み寄り、膝をついた。


「エルゼ様。私は今日、初めて知りました。本当の掃除とは、泥をどけることではなく、泥を泥と認め、それを排除する勇気を持つことだということを。……貴女に命じられたあの溝掃除の時間は、この革命のための『訓練』だったのですね」


「…………」


 私は、泥だらけの手で私の(高級な)スカートの裾を掴もうとする王子を、無言で蹴っ飛ばした。


「汚いから寄らないで、このドブ野郎!」


「……っ!! ああぁ、最高のご褒美を……! 『初心を忘れるな』という、魂への直接的な衝撃……!! 私は、一生あなたのドブ板として尽くします!!」


 こうして。

 エルゼの「生理的な嫌悪感」は、ソルステイム王国の百年越しの腐敗を一日で解消し。

 ジークフリート王子は、史上最年少の「掃除人(改革者)」として歴史に名を刻むことになった。


 空を見上げれば、巨大な「私」が、綺麗になった王宮を背景に、一段と爽やかな笑顔で微笑んでいた。


(……ねえ。私のスカート、これシルクなのよ。クリーニング代、誰が払うのよぉぉぉ!!)


 エルゼの「清潔へのこだわり」は、国家の膿を強制的に搾り出し、世界をまた一つ、彼女の望まない「清廉潔白な理想郷」へと近づけてしまうのだった。

「ドブから手を引け(みっともない)」が「政治の腐敗を正せ(改革)」と超訳された件。

エルゼが王子を蹴れば蹴るほど、王国の民主化と浄化が進んでいく地獄のサイクル。

もはや、彼女が不機嫌であればあるほど、世界は平和になってしまいます。


王国の膿を出し切ったことで、次はいよいよ「隣国との同盟」や「魔王軍への反攻」が具体化!?


「泥だらけの王子にガチギレするエルゼが平常運転w」

「『ドブ板として尽くします』のパワーワードに笑った」

と思っていただけたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価】をよろしくお願いします!


次回、第19話:

「『ただの雑草』が隣国で『万能薬』として輸出規制される地獄」

エルゼが庭に捨てた食べ残しが、世界を救う特効薬に!?

お楽しみに!


明日からは1日1話の投稿予定です。

ブックマークしてお待ちください。

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