第16話:不景気? 私が適当に刷った『エルゼ銀行券』で解決よ!
「……はあぁぁ!? パンケーキ一つが金貨一万枚!? あんた、私を誰だと思ってんのよ。神様よ!? ぼったくりにも程があるわよ!」
ソルステイム王都の目抜き通り。私は、お忍び(のつもりの豪華パレード)の最中に立ち寄った高級カフェで、メニューを叩きつけていた。
理由は簡単だ。昨夜、私が「お昼寝の邪魔」という理由で叩き落とした銀の隕石。あれのせいで、この国には一晩で数千年分の銀が供給されてしまった。
結果、銀の価値は暴落し、物価がマッハの勢いで跳ね上がるハイパーインフレが発生していたのだ。
「も、申し訳ございませんエルゼ様! ですが、今は銀貨を袋に詰めて持ってくるより、パン一つを買うほうが難しい状況でして……」
店主が泣きながら平伏する。
私の隣では、財務大臣セラフィナが眼鏡をクイッと押し上げ、冷徹な声で状況を補足した。
「当然の帰結です、エルゼ様。貴女が降らせた『慈愛の銀』があまりに多すぎた。市場は混乱し、既存の通貨制度は崩壊しました。今、この国で最も価値がないのは『金銀』。最も価値があるのは『食料』。……このままでは、国が滅びますわ」
「滅びるとかどうでもいいわよ! 私は今、この三段重ねのベリーソースがけパンケーキが食べたいの! 私のヘソクリの金貨が紙屑になるなんて許さないんだからね!」
私は、怒りに任せてテーブルの上にあった「メモ帳」と「ペン」をひったくった。
そして、そこへ適当に自分の似顔絵を描き、その下に大きく『パンケーキ一枚分。あとで私が保証する』と書き殴った。
仕上げに、ちょうど食べていたスルメの汁がついた指で、ポン、と判子代わりに指紋を押しつけた。
「ほら! これをあげるから、さっさとパンケーキを出しなさい! 私は神様なんだから、その紙切れには金貨一億枚分くらいの価値があるわよ(適当)」
私は、その汚いメモ用紙を店主に投げつけた。
店主は、震える手でその紙を受け取り……。
「……っ!! あ、あああ……。これは……!!」
店主の顔が、驚愕で白くなった。
それを見たセラフィナも、私の手元からその紙を奪い取るようにして凝視した。
「……素晴らしいわ。エルゼ様、貴女はやはり天才よ。……この『指紋』から溢れ出す圧倒的な神気。そして『私が保証する』という、神による直接的な支払い保証。……これは、既存の金属本位制を脱却した、世界初の『神聖信用本位制』の通貨……!!」
「(……は?)」
「見て、店主。この紙の繊維には、世界樹の加護が宿っている。偽造は不可能、価値は永遠。……これ一枚あれば、ソルステイム王国の国家予算を十回は買い戻せるわ。……いえ、この大陸すべての富をこの紙一枚に集約できる!!」
セラフィナが、恍惚とした表情でその「メモ用紙(スルメ汁付き)」を天に掲げた。
「聞きなさい、国民たちよ! 聖女エルゼ様は、溢れかえった銀を清算するために、自らの魂を刻んだ『新通貨』を発行された! 今日から、この『エルゼ札』こそがこの世の唯一の真理! 銀貨など今すぐ溝に捨て、この聖なる紙切れのために働きなさい!!」
――わあぁぁぁぁぁ!! エルゼ様! 経済の救世主!!
街中の人々が、私の「落書き」のコピー(を即座にセラフィナが魔法で増殖させたもの)を求めて殺到し始めた。
銀貨の山を築いても買えなかったパンが、私の「パンケーキ食べたい」という落書き一枚で、トラック数台分と交換される。
さらに、私が「面倒くさいから、もう判子押すの嫌」と言った結果。
セラフィナは「神の沈黙(希少価値の維持)」と解釈。
『エルゼ札』は発行枚数が極端に制限された超高額紙幣となり、大陸中の富豪たちが「これ一枚持っていれば死後も安泰」という謎の信仰を抱いて買い漁り始めた。
「……ねえ、セラフィナさん。パンケーキ、まだ?」
「お待ちください、エルゼ様。今、貴女が描いた『お皿の落書き』が、新国立銀行のロゴマークとして採用され、それだけで株価が三万パーセント上昇しました。……パンケーキどころか、小麦の生産地を丸ごと一つ、貴女の名義で買い上げましたわ」
「…………」
私は、運ばれてきた「金箔よりも高いパンケーキ」を頬張りながら、遠い目をした。
(……ねえ。私はただ、自分のヘソクリが使えなくなったから、ツケで食べたかっただけよ。なんで私が『世界経済を掌で転がす女帝』みたいな扱いになってるわけ?)
空を見上げれば、巨大な「私」が、札束の山の上で微笑んでいた。
どうやら、私の「おやつへの執着」は、人類から『労働の苦しみ』を奪い(=エルゼ札のためにみんなが必死で働くため)、大陸に「永久の好景気」をもたらしてしまったらしい。
エルゼの「バカンス」は、もはや「神による資本主義の再定義」という、誰もついていけない領域へと突入していくのだった。
「おやつをツケで食べるためのメモ」が「世界最強の通貨」になった件。
エルゼの指紋(スルメ汁付き)が、世界で最も偽造困難なセキュリティとして機能してしまいました。
財務大臣セラフィナは、エルゼを「経済学の常識を破壊する魔女(神)」として、もはや崇拝を通り越して陶酔しています。
次は、この「エルゼ札」を巡って、隣国や魔王軍がさらなる「横取り」を画策!?
物語は「経済戦争編」へと突入します。
「スルメ汁の指紋がセキュリティはひどいw」
「パンケーキ一枚のために国家予算十回分w」
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次回、第17話:
「天界からの使者(本物の天使)、エルゼの圧倒的格差に絶望して帰る」
ついに、本物の「神の使い」がエルゼの調査にやってくる!?
お楽しみに!




