第14話:『私は神ではない』と言えば言うほど、宗教法人が設立される件
ソルステイム王国の王都、エーデルガルト。
私は今、この国で最も格式高い「謁見の間」で、黄金の戦車から降ろされたところだった。
目の前には、この国を一代で大陸最強の魔導国家へと押し上げた、冷徹なる合理的君主、フリードリヒ国王が鎮座している。
(……やばい。この人の目、笑ってない。絶対、私の正体を見破って処刑しようとしてるわ。……いや、むしろ処刑して! 神様なんていう重労働から解放して!)
私は、処刑されるために(あるいは呆れられるために)、あえて玉座の前で「ふんぞり返って」座り、懐から出したスルメ(村人からの供え物)を齧りながら言い放った。
「いい? 私は神でもなきゃ聖女でもないわ。ただの、酒と金が好きな、そこらへんの怠惰な女よ。だからそんなに畏まらないでちょうだい。……っていうか、この国、なんかお堅くて嫌い。さっさと帰らせてくれない?」
完璧だ。
王の前での不敬。身分の否定。さらには国家への侮辱。
これなら、いかに信心深い周囲の人々も「あ、こいつただの失礼な女だ」と気づくはず。
しかし。
フリードリヒ国王は、私の「スルメを齧る姿」を凝視したまま、一分間も沈黙した。
やがて、その冷徹な瞳に、一筋の「震え」が走る。
「……なるほど。これが『全肯定』の極致か」
「……は?」
「貴女はあえて『神ではない』と仰った。それは、我ら人間に『神に頼らず、己の足で立て』という、峻烈な叱咤。そしてその『スルメ』……。これは、海の恵みをあえて卑近な姿で食すことで、万物の命に貴賤はないという、究極の平等の示唆……!!」
国王は、ガタガタと音を立てて玉座から降り、私の足元に跪いた。
「さらに『この国が嫌い』というお言葉……! それは、我が国の行き過ぎた合理主義が、人の心を置き去りにしていることへの神託!! 私は、私はなんと愚かだったのか! 効率を追い求めるあまり、魂の浄化を忘れていた!!」
「いや、単に空気がピリピリしてて居心地が悪いだけなんだけど」
「おおおぉ……! 『居心地を直せ』、つまり『国民すべてが安らげる真の福祉国家を築け』という、国家百年の計をご提示くださったのか!!」
――わあぁぁぁぁぁ! 国王陛下が、聖女様に屈服されたぞ!
背後にいた文官たちが、狂ったようにペンを走らせる。
「おい、書け! 今すぐ法典を書き換えろ! 第1条:ソルステイムはエルゼ様を唯一の真理とし、国民は毎日スルメ……いや、『神の乾物』を食して平等を誓うものとする!」
「聖女エルゼ様を名誉総裁とする『国際救済法人エルゼ財団』の設立を! 予算は国家予算の半分をぶち込め!!」
(……ちょっと。誰がスルメを国教のシンボルにしろって言ったのよ。私の好物が、世界中で品薄になるじゃないの!)
私が止めようと手を伸ばすと、その手は隣にいた財務大臣セラフィナに、ガシッと掴まれた。
彼女は眼鏡を光らせながら、恍惚とした表情で囁く。
「……素晴らしいわ、エルゼ様。財団という形で資産を管理することで、税逃れ……いえ、神聖な資産の永久保全を図るのですね。そして『スルメ』という安価な戦略物資を流通させることで、下層市民の支持まで完璧に掌握する。……貴女の経済感覚、私を遥かに凌駕しています」
「違うの、セラフィナさん。私はただ、これを肴にビールが飲みたいだけで――」
「『ビール』……黄金の液体による、全階級の融和政策ですね! 理解しました。すぐに国立醸造所をフル稼働させます。名称は『エルゼ・プレミアム・ドラフト』でよろしいですね?」
……ダメだ。
この国の人たち、自国の利益と私の暴言を、無理やり「完璧なロジック」で結びつけてしまう。
私は、差し出された「法人設立の認印」を、震える手で(押さないと帰してくれそうになかったので)押した。
その瞬間。
ソルステイム王国は魔導国家から、「世界最大のエルゼ教・軍産複合体」へと変貌を遂げた。
(……ねえ。私、まだこの国に来て数時間よ? どうして一国の政治と経済が、私の食べかけのスルメ一つで支配されてるわけ?)
空を見上げれば、巨大な「私」が、また一段と輝きを増して微笑んでいた。
どうやら、私の「お忍び」は、他国の国家体制を根底から作り替えるという、未曾有の国際紛争(という名の救済)へと発展してしまったらしい。
「私は神ではない」が「自立せよという神託」に変換。
「スルメ」が「平等の象徴」として国教の聖遺物に。
エルゼの行くところ、すべての常識が「エルゼ仕様」に書き換えられていきます!
新キャラ・国王フリードリヒと財務大臣セラフィナも、
期待を裏切らない「深読みの天才」っぷりを見せてくれました。
「スルメ国教化はひどいww」
「セラフィナの経済解釈が強引すぎて好き」
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次回、第15話:
「魔王軍・第ニ軍団襲来! 聖女、お昼寝の邪魔なので隕石を落とす」
お忍び(パレード)中のエルゼを、再び魔族の影が襲う!
お楽しみに!




