第10話:教団速報:『真の聖女はエルゼだった』とか今更言われても
世界樹が黄金の輝きを放ち、一千人の騎士団が溝掃除に精を出す私の「神国(仮)」。
そこへ、一番会いたくない連中がやってきた。
白地に金の刺繍が入った、見るからに高そうな法衣。これ見よがしに掲げられた聖印。
王都の教団から派遣された、特使の一団だ。
その中心にいるのは、かつて私を「寄付金を横領した疑いがある(事実だけど)」と言い掛かりをつけて追放した、デブ……もとい、強欲なカスティル枢機卿だった。
「おお、エルゼ様! 探し回りましたぞ! まさかこのような魔境を、一夜にして聖域に変えてしまわれるとは。やはり私の目に狂いはなかった!」
枢機卿は、脂ぎった顔にこれ以上ない卑屈な笑みを貼り付けて、私に両手を広げた。
(……どの口が。どの口がそれを言うのよ。アンタ、私が追放されるとき『二度とその不浄なツラを見せるな』って言ったわよね!?)
私の血管が、ピキリと鳴った。
枢機卿は、周囲に控えるアイリスやジークフリート王子の鋭い視線に冷や汗を流しながらも、厚顔無恥な演説を続ける。
「教皇猊下もお嘆きです。あのような追放は、エルゼ様の『真の力』を引き出すための試練であったと。今こそ王都へ戻り、教団の総本山で『大聖女』として君臨していただきたい! 予算も、権限も、望むがままですぞ!」
大聖女。
その響きに、私は鼻で笑った。
今さら戻って、またあんなブラックな職場で「祈れ」「微笑め」とこき使われる? おまけに、この枢機卿たちの私服を肥やすための広告塔にされる?
――ふざけないで。
私は、手に持っていた(ベルティナが淹れてくれた)最高級の紅茶を、ゆっくりと枢機卿の足元にこぼした。第1話のワインの再現……ではない。今回は、純粋な「嫌がらせ」だ。
「……帰りなさい。私、あんな古臭くてカビの生えた大聖堂なんて、もう思い出したくもないの。あなたたちの顔を見ているだけで、吐き気がするわ」
私は、本心からの嫌悪を込めて言い放った。
これでいい。教団の重鎮をこれほどまでに侮辱すれば、向こうのプライドが許さないはずだ。
ところが。
枢機卿は、足元の紅茶を見つめ、ガタガタと震えだした。
「……おお……ああ……! これぞ、これぞ洗礼の儀……!!」
「(……は?)」
「エルゼ様は、私が着ていたこの『富の象徴』たる法衣を、あえて汚された! それは、今の教団が纏っている権威という名の『汚れ』を指摘しておられるのだ! 『吐き気がする』というお言葉……それは、我々の腐敗に対する、神の代弁者としての義憤!!」
枢機卿は、その場で豪華な法衣を自ら引きちぎり、地面に投げ捨てた。
「おっしゃる通りです! 我々は、エルゼ様という『真理』を忘れ、金と権力に溺れていた! あなた様が戻ってこないのは、我々がまだ『浄化』されていないからだ! エルゼ様、見ていてください! 私は今すぐ王都に戻り、教団内の腐敗分子をすべて叩き出してみせます!!」
枢機卿の背後にいた神官たちも、一斉に服を脱ぎ(!)、「我らも浄化を!」と叫び始めた。
「「「エルゼ様の導きに従い、教団をゼロから作り直します!!」」」
(……ちょっと待って。なんでそういう話になるの。私はただ、アンタらが嫌いだって言っただけなんだけど!)
アイリスが、私の前に跪いた。
「エルゼ様。なんと……教団の腐敗を、内部から自浄させるように仕向けられるとは。自ら手を下さず、ただ『嫌悪』を示すことで彼らに反省を促す。その高次な統治能力、もはや聖女の域を超えています」
ジークフリート王子も、感心したように頷く。
「なるほど。教団を『敵』にするのではなく、『下部組織』として再編するための荒治療か。さすがはエルゼ様。これで王都の権力構造も、すべて貴女の掌の上ですね」
「…………」
一時間後。
枢機卿たちは、下着同然の格好で「私たちは生まれ変わるんだ!」と叫びながら、王都へと走り去っていった。
彼らが王都に戻れば、おそらく「聖女エルゼの再降臨を待つための大粛清」が始まるだろう。
……つまり、私の名前を使って、教団がさらにヤバい「過激派エルゼ教」に進化してしまうということだ。
私は、もはやツッコミを入れる元気もなく、世界樹の根元に座り込んだ。
「ねえ、ベルティナ……。お代わり、ちょうだい。もう、カフェインなしじゃやってられないわ……」
「……御意に、ご主人様。……貴女が一言喋るたびに、世界の歴史が塗り替えられていく。暗殺者として来た自分が、バカらしくなりますね」
ベルティナが差し出したお茶は、いつもより少しだけ苦かった。
こうして。
私を追い出したはずの教団は、勝手に自壊し、勝手に私を「影の支配者」として崇め始め。
私の「隠居」は、もはや「世界征服」の別名になりつつあった。
「帰りなさい」と言ったら「教団の腐敗を粛清して、アンタ専用の組織に作り直してくるわ!」と解釈された件。
エルゼの純粋な「嫌がらせ」が、組織の自己犠牲的な忠誠心に火をつけてしまいました。
これで王都の勢力もエルゼの(勝手な)味方に。
第1章はいよいよ、村の「都市化」と「さらなる絶望」に向けて加速します!
「下着姿で走り去る枢機卿に草」
「エルゼの掌の上(物理的に何もしてない)感がすごいw」
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次回、第11話:
「隠れ家の周りに村ができて、もはや都市なのだが?」
エルゼの庭に、なんと「銀行」と「カジノ」を建設しようとする輩が現れて……!?
お楽しみに!




