100万本の薔薇よりも
オレは一大決心をした。
いつも彼女の傍にいたい。
大好きな笑顔を見ていたい。
抱きしめたい時に抱きしめたい。
月に数回しか会えないのは、もう耐えられない。
「…で、どっちが良いと思いますか?」
顔なじみのラウンジのバーテンに相談したら、目を丸くされた。
それはそうだろう。でもオレはいたって真剣なのである。
「……そうですねえ……」
オレより少し年上のバーテンは、苦笑しながら口を開いた。
花屋で一輪の薔薇を買い、それを持ってデートと言う名の決戦(?)に赴く。
「悪い、待ったか?」
「ううん、今来たとこ」
久しぶりに見る彼女の笑顔が眩しい。
本来ならオシャレな店で食事とか夜景を見るとかのプロセスがあるんだろうが、それらはすっ飛ばした。
ただ夕暮れの公園を散歩しながら、タイミングを待つ。
そして運命の瞬間。
「あのさ」
「なぁに?」
オレは薔薇の花を差し出し、地面に片膝をついた。
「オレと結婚して下さい」
突然の台詞に驚く彼女に、更に続ける。
「真面目に働きます。浮気なんかしません。家事も手伝います。なんなら主夫になってもいいです」
「…………」
「だから……その…」
「…………」
「必ず幸せにするから」
「…………」
無言のままの彼女の返答が不安で、思わず視線を下げた。
「お願いします!」
咄嗟に、地面に両手をつく。
みっともないとか恥ずかしいとかは微塵も思わない。
とっておきのブランドスーツの膝が汚れようが擦り切れようが構わない。
土下座の一つや二つで彼女が手に入るなら、痛くもかゆくも無い。
「もうやめて」
「!」
瞬間、心臓が飛び上がった。
「そんな事しなくても、結婚するわよ」
「えっ!?」
上げた額からパラパラと砂が落ちる。
視界に映るのは、嬉し涙を浮かべた彼女の笑顔。
「……マジ?」
「はい」
「マジでオレと結婚してくれるの?」
「はい。私で良ければ喜んで」
じわじわと歓喜の感情が広がる。
「やった───!!!!」
現実に戻った瞬間、万歳ポーズのまま飛び上がった。
いつの間にか周囲に出来ていたギャラリーから拍手が湧く。
かのバーテンはこう言ったのだ。
『100万本の薔薇より、100万円の指輪より、誠実な態度が一番じゃないですか?』
───と。
本当だった。
オレは彼女が100本の薔薇と100万の指輪のどちらを喜ぶかわからず、バーテンに相談したのだ。
結果は大成功!
今度、彼女と一緒に、お礼かたがた乾杯に行こう。
END




