12/16
ファースト・ペンギン
その人は、制度を作る立場にはいなかった。
ただ、資料の文言を整える
小さな役職にいただけだ。
離婚届を出しに来た人たちの書類。
児童扶養の手続き。
面談の記録。
そこには、
守られなかった約束の痕跡が
いくつも、断片的に残っていた。
「約束を破られた」とは、
誰も書かない。
書かれるのは、
「連絡がなかった」
「迎えがなかった」
「話が違った」
それらを読んでいるうちに、
その人は思った。
——これは、違反ではない。
——でも、影響は残っている。
だから、問いを書いた。
責めるためではない。
正すためでもない。
思い出す入口として。
「守れなかった人を裁かないこと」
それだけは、強く決めていた。
問いは、静かでなければならなかった。




