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【後日譚】こんどは
会社のエントランスで、
彼は足を止めた。
来客用の記入台。
新しくなった受付システム。
その横に、見慣れない一文。
> お子さんから結ばれた約束、守りましたか?
誰に向けたものかは、
書いていない。
彼は一度、
自分に子どもがいないことを思い出し、
それから、
自分が子どもだった時間を思い出す。
迎えに来る、と言われた日のこと。
濡れた長靴。
テレビの音。
不思議と、怒りはない。
悲しみも、もう形を持たない。
ただ、
あのとき何も言わなかった自分が、
今も同じやり方で、
黙って通り過ぎようとしていることに気づく。
彼は、問いから目を逸らさなかった。
守られなかった約束は、
消えていない。
形を変えて、
読む側に回っている。
そして、問いは今日も、
誰かが立ち止まるのを
待っている。




