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お子さんから結ばれた約束、守りましたか?  作者: 田中葵
1.はじまり
1/16

紙一枚から

> 「お子さんから結ばれた約束、守りましたか?」




その一文は、白い紙の中央に、黒々と印刷されていた。

装飾も、強調もない。問いかけというより、事務的な確認事項のようだった。


私は一瞬、どこに丸をつければいいのか分からず、ペン先を止めた。

氏名、生年月日、続柄。

その下に並ぶチェック項目の流れから、少しだけ浮いている。


——お子さんから結ばれた約束。


子どもから、だったか。

そう思った瞬間、胸の奥で、乾いた音がした。


後ろの椅子がきしむ。

待合室では、誰かが咳払いをし、子どもの靴底が床をこする音がした。

どれも、今この場にふさわしい音だったのに、私だけが一拍遅れている気がした。


約束、という言葉が、頭の中で形を持たずに漂う。

旅行の話だったか。

習い事だったか。

それとも、もっとどうでもいい、

「今度ね」と笑って流しただけの何か。


守ったか、と聞かれている。

破ったか、ではない。

忘れたか、でもない。


私は、設問の意図を測ろうとして、やめた。

ここには理由を書く欄も、言い訳を書く余白もない。


あるのは、

「はい」と「いいえ」の、二つの小さな四角だけだった。


ペンを握る指に、わずかに力が入る。

どちらかに印をつければ、

その瞬間に、何かが確定してしまう気がして。


「次の方どうぞ」


名前を呼ばれて、私は顔を上げる。

用紙はまだ、無傷のまま膝の上にあった。


問いは、消えない。

静かに、そこに置かれたまま、

私が思い出すのを待っている。

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