紙一枚から
> 「お子さんから結ばれた約束、守りましたか?」
その一文は、白い紙の中央に、黒々と印刷されていた。
装飾も、強調もない。問いかけというより、事務的な確認事項のようだった。
私は一瞬、どこに丸をつければいいのか分からず、ペン先を止めた。
氏名、生年月日、続柄。
その下に並ぶチェック項目の流れから、少しだけ浮いている。
——お子さんから結ばれた約束。
子どもから、だったか。
そう思った瞬間、胸の奥で、乾いた音がした。
後ろの椅子がきしむ。
待合室では、誰かが咳払いをし、子どもの靴底が床をこする音がした。
どれも、今この場にふさわしい音だったのに、私だけが一拍遅れている気がした。
約束、という言葉が、頭の中で形を持たずに漂う。
旅行の話だったか。
習い事だったか。
それとも、もっとどうでもいい、
「今度ね」と笑って流しただけの何か。
守ったか、と聞かれている。
破ったか、ではない。
忘れたか、でもない。
私は、設問の意図を測ろうとして、やめた。
ここには理由を書く欄も、言い訳を書く余白もない。
あるのは、
「はい」と「いいえ」の、二つの小さな四角だけだった。
ペンを握る指に、わずかに力が入る。
どちらかに印をつければ、
その瞬間に、何かが確定してしまう気がして。
「次の方どうぞ」
名前を呼ばれて、私は顔を上げる。
用紙はまだ、無傷のまま膝の上にあった。
問いは、消えない。
静かに、そこに置かれたまま、
私が思い出すのを待っている。




