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ミサセル 2

「必死だな、どいつもこいつも」


 社用のノートPCの前で笠原真司は呆れ半分で画面を眺めていた。


「笠原さんだって必死じゃないですか」


 言いながら新海美玖がコーヒーの入った紙カップを差し出してくれる。コーヒーメーカーが備え付けられている事がこの職場の唯一の美点と言えるかもしれない。


「誰が必死なもんか。余裕も余裕よ人生なんて」

「締め切りにいつもヒイヒイ言ってる癖に」

「やかましい」


 苛ついて電子タバコを咥えるが何一つ落ち着かなかった。

 美玖の言う通り、オカルト雑誌【電脳怪聞でんのうかいぶん】の締め切りが迫っている事に笠原はいつもの如く焦っていた。


「で、ネタ探しでこんなくだらない配信を見ていると」

「くだらない? お前これが何なのか知らねえのか?」

「え、これそんな凄い配信なんですか?」

「この動画の投稿者死んだんだよ、今朝に」

「それの何がすごいんですか」

「自分の両目潰して死んだらしい」

「え、それガチで?」


 そこまで言うとさすがの美玖もたじろいだ。

 

《閲覧注意:ダムに沈んだ“消えた村”の真相を暴いてみた》


 この配信はかなりネット上でも盛り上がっていた。一見すればどこかの誰かがこすり倒したような企画だ。投稿者のオカルト系配信者のマッドマスクこと田所恭一は、消えた村についての情報を喋りながらダムの様子を撮影した、心霊系ではどこにでもあるような動画内容だ。

 ただ問題は田所がこの動画をアップロードして数時間後に、自宅の部屋で異様な死に方をしているという事だった。一人暮らしの自室で両目をくり抜かれての死。警察の調べでは状況から見て自殺と断定しているようだ。

 田所がそれなりの登録者がいる有名配信者の一人だという事もあってか、既にネット民の中では話題になっておりSNS上でも拡散され、品もなく無責任な言葉が無数に飛び交っていた。


「笠原さん、まさか……」

「なんだよ」


 見ると美玖が虫を見るような嫌悪感を露わにした視線を向けている。


「呪いで死んだ、だなんて思ってます?」

「どうかな」

「どうかなって。そんなわけないじゃないですか!」


 美玖はアメリカ人のようにわざとらしく両手を広げて呆れていた。


「確かに異様な死に様ですけど、直前に行った場所が曰くつきだからってさすがにそれはないですって。そんな事が起きるなら心スポに行った人間全員死んでますよ」

「ほとんどが偽物なんだからそんなぽんぽん人が死ぬわけないだろ」

「じゃあここは本物って事ですか?」


 美玖が配信画面を指差す。


「三猿の掟。聞いたことあるか?」

「三猿? それって、見ざる、聞かざる、言わざるのですか?」

「それと似ているが、全く異なる別の三猿が存在しているという話がある」

「初耳ですね。それがこの場所と関連してるんですか?」

「分からん。気のせいかもしれんがどうにもひっかかる」

「へぇ。無駄に笠原さん勘が働く時あるからそこは馬鹿に出来ないんだよなあ」

「進展があったら共有してやるよ」

「期待せずに待ってますよ」


 美玖は颯爽と事務所を後にした。悔しいが美玖は有能だ。とっくに自分の記事は完成させているのだろう。そんな人間がわざわざこんな小さな雑誌社で記者として働いているのは良く分からないが、今はそんな事を気にしている場合ではない。


 ーー真美。


『ミタニムラって村らしいんだけど』


 配信上の田所の声と真美の声が重なる。

 

“見谷村”


 この動画をきっかけに突然妹の記憶が甦った。

 これは何かある。自分が何かに導かれていると勘が騒いでいる。それと同時に不安も同等に湧き上がる。この村に俺は関わるべきか否か。


 考えている余裕はなかった。俺には時間がない。締め切りを落とせば飯にもありつけない。

 

 ーー必死だな、俺も。


 自嘲的な笑いが込み上げながら笠原は行動を開始した。

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