第1話 ポエミーな弟
異世界で、ちょっと倫理観がおかしい魔女が異種族と百合っぽいことをしていきたいお話です。
高校の頃に作ったキャラクターを掘り下げてみました。
姉ちゃんは昔から変だった。
姉ちゃんは地域一帯の有名な変人で、その奇行の噂は他校の生徒や親にまで轟いた。それでいて本人はいたって普通の人ですみたいな、平気な顔で生活していた。深夜の学校のプールで勝手に泳いでいたとか、休み時間に理科室の骨格標本とワルツを踊っていたとか、3階の窓から歩くように落ちていきそれでいて無傷だとか……
思春期になると、自分の魂はこの世界には無いから異世界へ行くと言い出すしまつ。とにかく事実だろうと嘘だろうと恥ずかしい噂の真偽を尋ねられるのは、いつも僕の役目だった。僕ら家族の苗字が少しだけ珍しかったのも災いして、姉ちゃんとの関係に気付かれたが最後、男子には脈略なくからかわれ、女子にはうっすら避けられる学校生活を送ることになった。授業中に姉ちゃんの武勇伝を面白おかしく語り質問してくる先生には、軽く殺意を覚えるほどだった。
だから、高校を卒業したら絶対に地元を離れようと思ったし、そのための準備も進めていた。誰も僕を、姉ちゃんを知らない所まで逃げて解放されたかった。
そんなはずだったのに、姉ちゃんのほうが僕よりも先に地元からいなくなってしまった。先を越されたなんて1ミリも思わなかった。姉ちゃんは本当に、ずっと、この世界から消えてしまいたかったんだ。
姉ちゃんは異世界転移を果たした。
異世界で魔女として生きると、姉ちゃんは僕や両親に説明した。この世界では出会えない旧友がそこで待っていてくれてるんだ、身体の一部同然である魔法がこの世界では使えず苦しいんだ。姉ちゃんはそう言った。かつては優等生で浮きがちな母さんも少し変なタイプだった。父さんは対話を経て押し負けた。納得はいかなかったが、僕一人ではどうしようもなかった。
ばあちゃんの姉の娘の一人(従姉叔母)がやって来て、数日間姉ちゃんと何やら話し込んだ。訳知り顔が無性に腹立たしかった。姉ちゃんを送り出すことに協力的な家族を、殴ってでも止めたかった。むしろ僕が異世界に行ってやろうとすら思いかけた。
結局姉ちゃんの夢は叶った。叶凪月から神無月に名を変えて、成人式の数日後の満月の夜に旅立った。うまいこと言った気になってんじゃねえぞ。なんでこういう魔法が絡む時はいつも満月なんだよ。なんなんだよ!
……こっからは姉ちゃんの物語だ。
弟は少しだけポエミーだった。
そして叶凪月は産まれた時から変だった。
自分がこの世界の住人ではないと感じていた。こちらの世界の方が彼女にとっては異世界だったのかもしれない。ともあれこの魔女はまんまと本来の力を取り戻し、息をするように魔力を揮うことができる世界へと凱旋した。家族のいる世界へ戻ることだってこの魔女には容易いことである。もう誰にも止められないのだろう。
「うぉおおおおおやったああああああ!!!!うまくいくもんだな~~!!」
鬱蒼とした森の奥深く、何も無かった空間から飛び出してきた神無月は何度かガッツポーズを決め、しまいには小躍りを始めた。年に一度しか合わない祖父母の家のような、何度も見た夢のような、かつて自分が住んでいたとは誰も知らない懐かしくも寄る辺ない故郷の匂い。体がはじけそうなほどたっぷりと吸い込んだ空気には、無くしていた宝物が、満ち満ちている、そんな世界だった。
「ラノベにこういうのありがちって聞いてイイ気はしなかったけど、今の私には現実だもんね~」
くるくると踊りながら、神無月は辺りに大きく独り言をまき散らす。どうせ誰が聞いているわけでもなし、ここまできて神無月の奇行を気にする人間もいないのだ。
「ぶっちゃけ昔の記憶は、ないけど~……あ、でも結構自由に魔法は使えるじゃん!とりあえず好きなことしてあっちこっち行ってみて、私のこと知ってる人探してみよっかな。」
来る時に着ていた普段着を魔法でサラッと作り替え、いよいよこの世界で魔女として生きる第一歩を踏み出していく。厳密に言えば神無月は魔女というより妖精とか、妖怪や化け物、魔物に近い存在で、力が強く厄介である。
「とりあえず人魚が見てみたいな。海ってどっちだろ……」
本作はそんな神無月が好き勝手していく様や、この世界の無情をお届けできたらと思っています。
普通に恥ずかしくなって続かないかもしれません。よろしくお願いします。