考えごと、考えないごと
「リョウ、お疲れ」
足柄サービスエリアに着くと、仮眠スペースで寝ていたはずの相棒から、すぐさま声がかかる。
ここで、運転の交代だ。
私はドアを開け、慎重にジャンプし、地面に降りる。
売店で、相棒は缶コーヒー、私は濃厚ミルクのカフェオレを買い、大型トラックに戻る。
私は、運転席後部にある、仮眠スペースに潜り込む。
カフェオレを飲みながら、スマホを見る。
娘、ミムからのLINEメッセはない。
ちょっと肩透かし感を覚えつつも、就寝体勢に入る。
お気に入りの睡眠アプリを立ち上げ、お気に入りの睡眠メニューのアイコンをタップする。
トラックドライバーにとって、仮眠前の考え事は、禁物だ。
何も考えずに眠る。
目が覚めたら、再びハンドルを握る。
夫と別れて、意地で引き取った娘、ミムのことが気になるが、今は考えない。
私はどうでもいいが、ミムを独りにするわけにはいかない。
睡眠アプリの音の主成分は、焚き火と雷鳴と、ハープのメロディー。
私は、雷鳴に耳を傾ける。
眠りの前の、硬直した考え事がほぐされる。
雷と雨音により、私の思考の手綱から手が離れ、解き放たれた物語が自由に紡ぎ出される。
娘のミムが魔女となり、魔法の入浴剤をつくる。
ミムは、月夜の晩に箒て飛び回り、それを生活に疲れた人々(私含む)に配るお話。
脈絡のない物語に身を任せながら、
ブルーベリーのいい匂いがするバスタブに身を沈めながら、
私は目を閉じ、呟く。
おやすみ。ミム。