はじめての朝
朝。カーテンから朝日が飛び込んできて、清々しいほどの良い天気です。そんな中、彗太はベッドで布団にくるまって気持ちよさそうに寝ています。
「……すーすー。」
「……おい彗太!起きろ!朝がやってきたぞ!」
誰かが彗太のことを起こしています。彗太は寝ぼけて目覚まし時計かと思い、声をする方へ手を伸ばしバシバシ叩きます。
「……ん〜?あれ、目覚まし時計はどこだ〜?」
「ちょっ?!彗太!痛い痛い!寝ぼけていないでさっさと起きろ!」
彗太を起こしている人物は、彗太を起こすため頭に思い切りチョップをかまします。
「うわっ!いった〜」
彗太は思わず起き上がり、頭をさすります。
「やっと起きたか。全く、この天使である僕が起こしてやったんだ。感謝しろよ。彗太」
彗太を起こした人物はドヤ顔をして踏ん反りがえります。
「……えーっと、誰だっけ?」
彗太は目を擦りながら尋ねます
「んなっ!天使であるこの僕を忘れるなんて不敬にも程があるぞ!」
天使と名乗る子は彗太の身体をポカスカ殴りながら怒ります。
「あはは〜。冗談だよ冗談。カイトくんでしょ〜。流石に昨日今日の出来事で忘れないよ〜」
彗太は天使と名乗る子の手を掴んで笑います。
「そ、それならいいんだ。僕は君を守護するためにやってきたのだからな。」
天使と名乗る少年カイトは、安堵した表情で彗太の顔を見ます。
「それよりも、今何時頃だろう〜?」
彗太は携帯を探して時計を見ます。時刻は朝の7時30分です。
「なーんだ。まだ7時30分じゃん。おやすみ〜」
彗太はベッドに戻り、布団にくるまりなおします。
「おいコラ彗太!今日は学校って言うものがあるんじゃないのか?ちゃんと行かないと」
カイトは布団を引っ剥がして、彗太を叱責します。
彗太はムッとしながら、カイトに布団を返してもらおうとします。
「ちょっとカイトくん。布団返してよ〜」
「断る!お前は早く学校というものに行ってこい!」
カイトは厳しく彗太に言い放ちます。彗太は渋々ベッドから降りて朝ごはんの準備をします。
「もう〜。カイトくんはキッチリしすぎだよ〜。大体、学校には8時に起きても間に合うんだからさ〜」
彗太はノロノロと洗面台へ行き、顔を洗います。カイトはその後をトコトコついて行きます。
「ちなみに、その学校というところはどこにあるんだ?ここから近いのか?」
カイトは気になり彗太に質問します。
「えーっとね〜……。ここから電車で15分ぐらいかな?そこから歩いて10分ぐらいでやっと高校に着くよ」
彗太はタオルで顔を擦りながら質問に答えます。
「それで、学校は何時から始まるんだ?」
「8時30分だよ〜」
彗太はタオルをカゴの中に入れて朝ごはんを食べるためキッチンへ向かいます。
「それならば、8時前には家を出ないと学校というものに間に合わないのではないか?さっき彗太は8時に起きても間に合うとは言ったが……」
彗太は食パンを持って、トースターに入れます
「もしかして彗太。いつも学校を遅れて行っているわけではあるまいな?」
カイトは彗太を睨みながら話しかけます。
「さぁ〜カイトくん。今日の朝ごはんは食パンにしようか。たしか冷蔵庫にジャムがあったはず〜」
彗太は普段のマイペースな行動と口調とは打って変わり、テキパキと行動しています。カイトはそんな彗太をジト目で見ています。
「……彗太。天界から貰った人間界マニュアルによると、学校に遅れることはあまりよくないと書いてあるぞ」
カイトは、ポケットから本を取り出す。その本は辞書のように分厚く、どこにしまっていたのか不明なほどです。
「どこから出したの?!その本?」
彗太は気になって、カイトに質問します。
「僕のポケットは天界仕込みだからな!必要なものはある程度入っているぞ!」
カイトは意気揚々と答えます。そして、人間界マニュアルを開き、彗太に見せます。
「……えーっと、なになに〜。16歳から18歳の少年少女は人間界で高校生という身分に値して、学校へ行っている。……なんかいろいろな説明文が書いてあるね〜」
彗太は読むのがめんどくさくなり、カイトに返します。カイトはマニュアルをポケットにしまいます。
「とにかく、学校には遅れないように行くことだ。」
カイトは彗太に早く準備をするよう催促します。
「わかったよ〜。でもまずは朝ごはんを食べないと。お腹空いちゃうよ。」
彗太はトースターから食パンを取り出して、お皿にだす。冷蔵庫から苺ジャムを取り出して、リビングへ持っていく。
「さぁ、カイトくんのパンも用意したから一緒に食べよう〜」
「あ、あぁ……」
彗太とカイトはイスに座り、朝ごはんを食べ始めます。
「あ、カイトくん。これの食べ方はわかる〜?」
彗太はカイトに問いかけます。
「あぁ、人間界マニュアルをみて学んだ。これは食パンというものだよな」
「うん、そうだよ〜。パンにジャムを塗ると美味しいんだよ〜」
「…………」
カイトはジッとジャムを見つめています。彗太はそれを見て、先に食パンにジャムを塗り始めます。カイトはそれに続き、食パンにジャムを塗ります。
「いただきまーす」
彗太は食パンを齧ります。
「うん。良い焼き加減になっていてよかった〜」
彗太は満足そうに頷き、食パンを食べ進めます。カイトもそれに倣って、食パンを一口齧ります。
「……っ!なんだこれ!すごく美味しいな、彗太!」
カイトは目を輝かせて食パンを頬張ります。
「良かった〜。気に入ってもらえて。」
「あぁ!この苺ジャムというのも美味しいな!」
気づいたら、カイトのお皿はすでに無くなっていました。
「そんなに美味しかった?カイトくん?」
「あぁ、最高だ!我が貢ぎ物にちょうど良い食べ物だ。」
カイトは自信満々に答えて、イスの上に立ち上がります。
「はいはい、カイトくん。お行儀悪いからイスの上には立たないでね〜」
「あ、あぁ。すまないな、彗太」
カイトはそそくさとイスの上に座り直します
「それはそうと彗太。そろそろ準備しないと学校というものに遅れてしまうぞ」
時間を見ると、7時50分です。彗太はノロノロと準備を始めます
「えーっと……。教科書と筆記用具はあるし〜……。あとは大丈夫かな?あ、カイトくん。もし僕が何か忘れ物をしていたら学校まで届けてよ〜」
「そもそも僕は彗太の行っている学校がどこにあるか知らない。忘れ物がないようにあらかじめ準備しておくのが基本だろうが。」
「も〜う。カイトくんは変なところでキッチリしているよね〜。天使っぽい〜」
「何度もいうが、僕は天使だ!!」
カイトは頬を膨らませて不貞腐れる。
「あはは〜。それじゃあ、行ってきます。カイトくんは何するの?」
「ん?何を言っているんだ?僕は彗太を守護するのが役割だから、彗太と一緒に学校というものに行くぞ」
カイトは当たり前のような顔をして、彗太に話す。
「あ、そうなの?でも、その翼とか輪っかとか目立つと思うんだけど……」
彗太は少し心配してカイトに問いかけます。
「それなら心配ない。下級天使でまだまだ見習いとはいえ、翼と輪っかを見えなくすることぐらい造作もないからな」
カイトはそう言って、祈り始めます。すると、カイトの翼と輪っかが消えていきます。
「わぁ〜。本当に見えなくなった〜!すごいね〜」
「まぁな!それよりも、早く出発するぞ!今度そこ、学校というものに遅れてしまうぞ」
「そうだね〜。それじゃあ行こうか」
彗太とカイトは玄関を出て、鍵をかけて学校に向かいます。――
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