帰れない
カイトと名乗った自称天使くんは涙目になって、彗太の家の前に立っています。
「ど、どうしたの?何があったの?」
「………………」
カイトの名乗った自称天使くんは黙って立っています。
「と、とりあえず中に入って!」
彗太は天使くんを中へ招き入れます。リビングに入り、お茶を注いで天使くんの前に差し出します。
「で?あそこで立って何していたの?」
彗太は天使くんに問いかけます。
「……天界に帰れない」
「……え?」
彗太は天使くんが言ったことに目を丸くします。
「えっと……どう言うこと?」
「……僕は下級天使だから、天界に繋げる扉を開くことができない。それが許されているのは、上級天使様以上なんだ。天界からこっちにくるのは、扉を開けてくれたから来れたけど、こっちは僕だけだから扉を開けることはできない……」
天使くんは俯きながら答えます。
その時、彗太はお鍋に水をはりっぱなしなことに気づきます。
「あ!お鍋に水入れてたんだった!もう沸騰してる〜」
彗太はキッチンへ行き、お鍋にお味噌と豆腐を入れます。すると後ろに天使くんがあることに気づきます。天使くんは彗太の服を掴んで離しません。
「うーん?とりあえずご飯食べよっか?お腹空いているでしょ?」
「……天使はお腹なんて空かない」
天使くんがそう言った瞬間、お腹が鳴る音が聞こえます。
「あっははは!そろそろ出来るから、向こうのリビングで待ってて。用意するから」
天使くんは顔を真っ赤にして、トコトコとリビングの方へ向かって行きました。
彗太は朝に炊いておいたご飯とお味噌汁をよそい、リビングに持って行きます。
「あ、そうだ。天使くんってお箸とか使えるの?」
「なんだよ、その天使くんって。僕の名前はカイトだ。」
「だって、自称天使なんでしょ?」
「僕は正真正銘の天使だ!」
「ハイハイ。それよりも、ご飯食べよう。冷めると美味しくなくなるからね。いただきまーす」
彗太はお味噌汁を啜ります。久しぶりに作るので少し心配していましたが、上手くいったようです。
「うん。美味しく作れた〜。良かったぁ〜、久しぶりに作ったからお味噌入れ過ぎてたらどうしようかと思った」
彗太はお味噌汁を綴りながらご飯を食べ進めます。しばらくして天使くんのご飯が進んでいないことに気づきます。
「あれ?天使くん。ご飯食べないの?冷めちゃうよ」
「……これはなんと言う食べ物なのだ?」
天使くんは不思議そうにお椀の中に入ったものを見つめています。
「これはお味噌汁って言うんだよ〜。そして、こっちにあるのがご飯ね〜。本当はもう少し具だくさんにしたかったんだけど、冷蔵庫に何もなかったからお味噌汁はお豆腐しかないけど、美味しいよ〜」
彗太は意気揚々と答えます。天使くんはお味噌汁の茶碗を持って、少し啜ります。しばらく固まった後、ものすごい勢いで飲み干します。
(あ……この感じ、なんかデジャヴを感じるなぁ〜)
彗太はニコニコしながら天使くんを見つめます。
「彗太!!」
突然天使くんが彗太に話しかけてきます。
「うん?何?」
「この味噌汁?と言うものはすごく美味しいものなんだな!」
天使くんはさっきまでの涙目とは違い、目をキラキラさせながら彗太に話しかけます。
「気に入ってもらえたなら良かった〜。」
「あぁ!気に入った!このご飯?と言うものはどうやって食べるのだ?これは何やら固形物のようだが……」
天使くんはご飯の茶碗を持ちながら彗太に尋ねます。
「お箸やスプーンとかで、食器と呼ばれるもので食べるんだよ〜。お箸が難しいなら、スプーン持ってくるね〜」
彗太は立ち上がり、キッチンへ向かいスプーンを取り出します。
「はいどうぞ。この中にご飯を乗せて食べるんだよ。」
「あ、あぁ。ありがとう。」
天使くんはスプーンを受け取り、ご飯をスプーンに乗せて口に運びます。しばらくして、こちらも勢いよくかき込みます。
(なんか、天使くんって可愛いな。でも、家出少年とかなら警察に連絡して保護してもらった方がいいのかな……?親はいないって言ってたけど、もしそうなら何か帰れない事情があるのかな……)
彗太は頭の中で考えながらご飯を食べます。
「彗太!このお味噌汁と言うものはもうないのか!もしあるならもう少し僕に貢いで欲しいのだが!」
「まだあるよ〜。ちょっと待ってね。よそってくるから」
彗太は天使くんからお碗を預かり、キッチンへ向かいます。
(とりあえず、ご飯を食べ終わったらもう一度天使くんと話し合ってみよう)
彗太はそう心に決めて、お味噌汁をお碗によそいリビングへ戻りました。――
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